桔梗は塔の最上階にたどりついた。
懐郷の塔、見張り番の長が部屋の扉を、荒々しく開ける。取っ手を引きちぎらんばかりの勢いだった。
「李両ー!」
叫びつつ桔梗が転がり入る。
その、何か悪いものにとりつかれたような仰々しさに、李両は眉根をひそめて嫌悪感を表し、ぷいと横を向いて、舌を出した。
「……桔梗。うるさいよ。静かにしたまえ?」
女の勢いは止まらない。それどころか、いさめる言葉に、かえって逆上した。
「あんたたちがどこまでも私を困らせるからでしょう!?」
「君が勝手に一人で困ってるだけだろう?」
胸倉をつかんでくる女の手を、ぞんざいにふりはらってかわすと、番長は目を細めた。
「だんだんと、気が短くなるね? 桔梗。以前は、そう、ただ『気が強い人』だったけれど?」
「うるさいわ!?」
「いい加減、翔伯以外の男に目をやりたまえ……そうもちろん、私以外でだよ?」
いいか私以外で絶対だよ? との余計な念押しに、桔梗は頬をひきつらせて奥歯をギリとかみ締めた。
「あんたなんかそもそも論外なのよッ! この性悪男っ!」
「はいはいはいはい」
大きなため息の後、「そもそも、自尊心が高すぎるのが障害なんだよ君は、桔梗」と、げんなりと言って、番長は自分と同じ背丈の桔梗の両ひじをつかんだ。
「少し大人しくなりたまえ……君の甲高い声は耳障りだ。思考の妨げになること甚だしい」
桔梗は瑠璃の瞳を怒りにゆらして、叫び返した。
「ああそう! あなたの邪魔になってるっていうのなら、嬉しいわ!」
「……ああうるさい。ほんとに、ちょっと落ち着きなさいよ」
「馬鹿ぁッ! あんたたちなんか大っきらいよお!」
李両はさすがに呆れた。
「おいおい。子どもじみてきてるぞ」
「うるさいうるさい! あたしに指図するな! もういやよ何もかも……!」
そこまで叫びつくすと、桔梗は突然泣き出した。通り雨のように、両目から勢いよく涙があふれて落ちて、膝を折って床に崩れた。
死なせてよォ、と、声がもれる。
「もういやよ生きていたくなんか無い、生きたくなんかないのぉ! 一体何年生きればいいの!? 菊の馬鹿! 菊の馬鹿ー!」
「菊にあたるな」
聞かん気の強いぐぜる子どもをいさめるように、李両は静かに厳しく言い押す。
桔梗は「うるさいうるさい! あんたたちの言うことなんか聞くもんか!」と反抗する。
「もういやよ! 殺してよ! 殺してよお!」
「わかったわかった。ちょっとおいで」
有無を言わせずに、李両は桔梗を抱き上げた。
「いい子だ桔梗」
「あんたなんか大ッ嫌いなのよ!? 李両!」
「ああそう。はいはい」
「嫌いなのよ!? 放しなさいよ!?」
「うるさいなあ、一服盛るぞ?」
「ッ、この性悪!」
桔梗を持ち上げる腕で、彼女の暴れる体を締めつけて動きにくくすると、……李両は隣室へと進んでいく。
懐郷の塔、見張り番の長が部屋の扉を、荒々しく開ける。取っ手を引きちぎらんばかりの勢いだった。
「李両ー!」
叫びつつ桔梗が転がり入る。
その、何か悪いものにとりつかれたような仰々しさに、李両は眉根をひそめて嫌悪感を表し、ぷいと横を向いて、舌を出した。
「……桔梗。うるさいよ。静かにしたまえ?」
女の勢いは止まらない。それどころか、いさめる言葉に、かえって逆上した。
「あんたたちがどこまでも私を困らせるからでしょう!?」
「君が勝手に一人で困ってるだけだろう?」
胸倉をつかんでくる女の手を、ぞんざいにふりはらってかわすと、番長は目を細めた。
「だんだんと、気が短くなるね? 桔梗。以前は、そう、ただ『気が強い人』だったけれど?」
「うるさいわ!?」
「いい加減、翔伯以外の男に目をやりたまえ……そうもちろん、私以外でだよ?」
いいか私以外で絶対だよ? との余計な念押しに、桔梗は頬をひきつらせて奥歯をギリとかみ締めた。
「あんたなんかそもそも論外なのよッ! この性悪男っ!」
「はいはいはいはい」
大きなため息の後、「そもそも、自尊心が高すぎるのが障害なんだよ君は、桔梗」と、げんなりと言って、番長は自分と同じ背丈の桔梗の両ひじをつかんだ。
「少し大人しくなりたまえ……君の甲高い声は耳障りだ。思考の妨げになること甚だしい」
桔梗は瑠璃の瞳を怒りにゆらして、叫び返した。
「ああそう! あなたの邪魔になってるっていうのなら、嬉しいわ!」
「……ああうるさい。ほんとに、ちょっと落ち着きなさいよ」
「馬鹿ぁッ! あんたたちなんか大っきらいよお!」
李両はさすがに呆れた。
「おいおい。子どもじみてきてるぞ」
「うるさいうるさい! あたしに指図するな! もういやよ何もかも……!」
そこまで叫びつくすと、桔梗は突然泣き出した。通り雨のように、両目から勢いよく涙があふれて落ちて、膝を折って床に崩れた。
死なせてよォ、と、声がもれる。
「もういやよ生きていたくなんか無い、生きたくなんかないのぉ! 一体何年生きればいいの!? 菊の馬鹿! 菊の馬鹿ー!」
「菊にあたるな」
聞かん気の強いぐぜる子どもをいさめるように、李両は静かに厳しく言い押す。
桔梗は「うるさいうるさい! あんたたちの言うことなんか聞くもんか!」と反抗する。
「もういやよ! 殺してよ! 殺してよお!」
「わかったわかった。ちょっとおいで」
有無を言わせずに、李両は桔梗を抱き上げた。
「いい子だ桔梗」
「あんたなんか大ッ嫌いなのよ!? 李両!」
「ああそう。はいはい」
「嫌いなのよ!? 放しなさいよ!?」
「うるさいなあ、一服盛るぞ?」
「ッ、この性悪!」
桔梗を持ち上げる腕で、彼女の暴れる体を締めつけて動きにくくすると、……李両は隣室へと進んでいく。