泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

わたしを離さないで

2007-02-08 01:34:56 | 読書
 淡々とした、冷静な、穏やかな、丁寧な語りから、想像に絶する世界が、読み進むにつれあらわになります。その中身を、書いてしまいたいのですが、う~ん、どうしよう? これから読む人のために、書かないほうがいいのかな。
 SFも、ミステリーも、ホラーも、この小説は含んでいる。一歩間違えば破綻しそうな構想も、見事としか言いようのない筆遣いで、完成していて、漏れる隙はない。そんな世界が、確かにあるのかもしれない。あるいは、これから論議され、ひっそりと計画が進行しているのかもしれない。
 作家の想像力に、ただ感服します。そして、やっぱり尊敬する。
 キャスとトミーは、確かに愛し合っていました。激しい川の流れの中で、離れ離れにならないように、しっかりと抱き合うように。ついにはばらばらになってしまっても、キャス(主人公の女性)の頭の中には、消えることのない記憶として残る。小さかったころの思い出もまた。それら一つずつが、その人を形作ってきたのだと、よくわかる。
 「ネバーレットミーゴー オーベイビーベイビー わたしを離さないで・・・」
 これは、ある歌の歌詞なのですが、キャスが枕を抱えながら揺れ動いて口ずさむ様が、目に浮かぶようです。何も、教えられているようで教えられていない生徒の一人の女の子。彼女は、でも、運命を、もうすでに知っているかのようです。それを目撃したマダムの涙。人間の情があふれています。
 また、打たれました。泉に届きました。すばらしい小説です。
 ちゃんと、まじめに、私の運命を受け入れ、働き、愛する人を愛し、生きてゆこう。使命を果たすために。そう思います。

カズオ・イシグロ著/土屋政雄訳/早川書房/2006

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