タイトル通り名作ぞろい。一つひとつについて書くのは大変なので割愛します。中でも印象的な作品を二つだけ。
一つは、宮沢賢治の『注文の多い料理店』。久々に読みました。
寒さと飢えに苦しむハンターが山奥で「山猫軒」というレストランを見つける。
テーブルにたどり着けず、扉を開けるたびに注文が書いてある。太った方、若い方とくに歓迎とか、靴を脱げとか帽子をとれとかクリームを塗れとか、しまいには塩をよくもみこめとくる。
自然の生き物を撃ち殺すことを楽しみとしていた人間が、まさか自分が料理の材料になるというお話。
最後、犬が入ってきて難を逃れますが、紙くずのようになった二人の顔は元通りにはならなかった。
自然とともに生きた賢治ならではのホラー。鮮やかです。
もう一つは、江口渙(きよし)の『或る日の鬼ヶ島』。鬼ヶ島がお祭りのとき、桃太郎一行が鬼退治にやってきたという設定。
お祭りは鬼のオリンピックのようで雷落とし競争などが盛大に行われていた。
留守番をしていたのは年寄り子供。そこを狙って桃太郎はお宝を奪っていった。
鬼たちは怒り狂って復讐心を燃やすけど、桃太郎は実は何も働いておらず、犬がもっぱら活躍していた。
なのに人間界では桃太郎ばかりがちやほやされていた。
鬼たちは話し合いを進め、人間界なんてくだらない、鬼ヶ島に住んでいた方がよっぽどありがたいと合意し、からから笑う。
最後の井上ひさしさんの解説が、やはり一番勉強になる。
「すぐれた文学の文字表現を読むとき、わたしたちはその文字表現があまりにも異様に加工されているので、コトバを意識しないではいられなくなるのだ。そして文学と接するたびに、人間はコトバを通してのみ、教えたり学んだり、恋したり恋されたり、ものを売ったり買ったり、友を励ましたり、また励まされたり、喧嘩したり仲直りしたりできるのだということを改めて確認するのである。わたしたちは、そういうわけで、よい文学を見捨ててはならぬ。でないとコトバから、ということはつまり現実から見捨てられることになるだろう」(330頁4行~10行)
その通り。文学は現実をよりよいものにするためにある。
日本ペンクラブ編/福武文庫/1987
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