今年の本屋大賞受賞作。
本屋大賞受賞して読んだのは、この本が2作目。
前に読んだのは、小川洋子さんの『博士の愛した数式』。それは本屋大賞第一回受賞作。もう12年も前のことです。
通勤中や休憩時間に読書することが多いですが、この本は、父の手術中に読むということになりました。
そんな不安な中、読むにはぴったりだったというか。
ピアノの調律師見習いの物語。
調律自体がほとんど知らず、また調律師の話だとも知らずに読んだのですが、とても新鮮でした。
ピアノは鋼の弦を、羊の毛でできたフェルトで叩いて音を出す。
ピアノをたくさん聴いていながら、そんなことも知らなかった。
音の文章での表現が、少し冗長かなと感じはしましたが、人の成長がまずは基本に置かれていたので共感できました。
人として大事なことが、ていねいに言語化されているという感じ。
それでいて堅苦しくなく、人物の個性もしっかりと輪郭が見えました。
もう一つ、この本に興味を持ったのは、著者が大学の哲学科出身であったこと。
哲学科を出て小説家になった人は、他に坂口安吾しか知りません。
私もいちおう哲学科を出ているので、どんな小説を書くのか、とても興味がありました。
そして、やはり読んで正解だったと思う。
私が書きたいテーマと通じるところがある、と。
一つのお手本というか、指針というか。
人は簡単に死なないし、凝ったドラマ性もない。
いかにも私頭いいんです、というような技巧も鼻につかない。
どこにでもあるはずの経験なのだろうけど、その人が書かないと見えてこない世界。
この本が本屋大賞でよかった、と、ほんと久々に思います。
「ピアノで食べていこうなんて思ってない」「ピアノを食べて生きていくんだよ」 175頁13行と15行
この言葉は、調律師の言葉ではなく、ピアニストの卵(割れたて)の言葉なのですが、ぐっと来ました。
宮下奈都著/文藝春秋/2015
自分も「羊と鋼の森」読みましたよ。
いい作品ですよね。
ノスタルジックなストーリーのように感じました。
そのうえ全編を通して優しい気持ちが流れていると思いましたよ。
私は、基本に人間へのまなざしのあたたかさを感じつつも、現実に直面せざるをえない厳しさも感じました。
具体的に言えば、ピアニストを断念した二人がいましたね。主人公も、自分には特別な才能がないと、いやでも自覚させられます。
そんなこんなも含めて、共感できました。