この小説の舞台は、20数年前の仙河海(せんがうみ)市となっていますが、明らかに宮城県気仙沼市のことです。
著者の熊谷達也さんは『邂逅の森』で直木賞と山本周五郎賞を受賞されています。それ以来の読書。
仙台市在住で、気仙沼市に中学校教員として赴任した経験を元に作品は展開されています。
回想が主だと、どうしても予定調和的なつまらなさが鼻に付くこと多々ですが、そうはならない。
良い意味で、裏切られ続けます。
何と言っても、震災が一切出て来ない。
東京からの転校生「希」との関わりが中心に話は進んで行く。
希は、見事なスケバンルック。髪を赤く染め、スカートは長く、セーラー服の襟はとんがり。分かる人にしか分からない例えだと思いますが、ほしよりこさん作の漫画『きょうの猫村さん』に出て来る尾仁子のような。
担任の僕と他の先生たち、クラスメートとの交流、そして希の成長が描かれます。
とても具体的に。
希が、生まれて初めて頑張って、陸上競技に打ち込み、怪我をし、先生におぶわれて、もらす一言。
じんとしました。
こういう大切で手放しがたい記憶を物語として残し伝えるという小説の方法もあるのだと教えられました。
剥き出しになっているものに直接ふれるのではないけれど、きづいたら必要なところに手が届いていた、というような。
熊谷達也著/光文社/2013
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