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年末にふさわしい読書ができました。
窪さんの本は三冊目。『ふがいない僕は空を見た』、『晴天の迷いクジラ』に続いて。
新作の出るたびに気になってはいました。で今回、直木賞受賞ということで、手が伸びました。
私が言うのもなんですが、作品が、さらに成熟されていると感じました。
より具体的で、より鮮明で、より言葉が洗練されていて。よりはっきりと見えて、より深く、確実に届く。
人の抱えている弱さを描くのが上手です。人に見せたくないところとも言えます。
この本には、五つの短編が収められています。
テーマは「別れ」なのでしょうか。
別れの中に、それぞれの星が光る。星でつながる物語とも言えます。
でも星は、ほんのささやかなもの。夜、人工の光が少ないところでしか見えない。
「幸福」な状態とは言えない登場人物たち。だからこそ、夜、星が見える。
幼馴染の若い男女が、夏、海で、お互いに好きになった人に告白し、お互いにすれ違ってフラれる。
双子の妹が病死し、そのことを受け入れられないまま婚活アプリにハマり、その相手に妻子がいることを目撃してしまう。
交通事故で亡くなってしまったお母さんが幽霊として現れ、残されていじめられてもいる女の子を見守り、助け、夫と娘の再出発を見届けて去っていく。
離婚した妻と子のことが忘れられないまま、隣室に引っ越してきたシングルマザーと3歳の女の子と日曜日を共にするようになった後、また一人になる。
両親が離婚し、新しいお母さんとうまく行かない男の子が、一人暮らしのお婆さんのお世話になり、戦争のことを知り、生きていればいいことは必ずあると教わる。
小説って無限だなと思った。
有限性があるのなら、それは人が生きている限り。
人が生きている限り、その人その人に固有の物語がある。
小説は、読者の一人ひとりにどれだけ伴走することができるか。
同じテーマと星という共通するモチーフで、これだけ違う人たちを描き出すことができるようになるとは。すごいことです。
そんな作者の労に、読者は思いを馳せなくてもいいのですが。
切なくて、大事で、デリケートで。すぐに「ごめんなさい」と言ってしまう作中の若いお母さんが目に浮かびます。
ほっと一息つける時間がきっと生まれます。
うっすら涙を浮かべながら、私も「別れ」と「星」に、より深く、より確実に触れることができました。
別れあるところに成長あり。
窪美澄 著/文藝春秋/2022
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