泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

希望よあなたに 塔和子詩選集

2009-10-03 14:27:36 | 読書
 書店の忙しさの行き帰りに、家でのごろごろのお供に、とても優しく、深く、生きるのに必須な水を飲むように、僕は読みました。
 以前、『命いとおし』でも紹介したように、元ハンセン病患者であり、詩人である塔和子さんの詩選集です。文庫なので、初めて手に取るにはいいかもしれません。
 読んでも読んでも、まだ読みたくなる。そんな溢れる泉。ありがたいです。
 解説で、大岡信さんが評しているように、まさに「本質から湧く言葉で」、簡潔に、疑う余地なく、一瞬ごとの生命が描かれています。それは絵のようでもあり、歌のようでもあります。
 疲れている心身には、とてもよい栄養となりました。
 このよさを伝えるには、やはり詩を引用するしかありません。今回の読書でぞくぞくした詩を、3篇紹介します。



あなたのまなざしを
太陽のぬくみのように受けとめて
あなたの言葉を水のように吸い上げて
あなたの
胸の広さを
ああ
それは青空でした
私はそこで
くっきりと
こころよい目覚めのように
あざやかにくまどられた
ピンクの花でした

あなたは

私が花であることのできる
たったひとつの広い場所
  私は
  今日
あなたの空の中で
  意地や張りをやさしくほぐして
誰にも見せない
花の部分を
  そおっとひらいて立っていました




なぜ私は
あの虫のように自然に
ここにいます
さびしいんです来てください
あなたが欲しいんです来てくださいと
言えないのだろう
  虫が鳴いている
  せつなくせつなく
  雄が雌に呼びかけている

神様は私の中に
羞恥や自尊心に
へんに重たいものを置き
虫には
うすいうすい
羽をつけてやりました


待つ

私はいま暗いところにいて
どこからか光のさすのを待っている
私はいま未知数だから
明日という日を待っている
人に
待つという希望を与えた大いなるものよ
もし
この優しいことがなかったら
人は死んでしまう

いつか必ず
光はさすと思えるから
あるいは
あの芽生えがある
あの日がくると
ほのぼの思うこの希いがあるから
どんなに暗いところででも
生きていられる
そしていつか必ず本然の姿を
見つけて叫ぶのだ
出会いだ光だ
喜びだと


 ああ、そんな青空に、私はなりたい。

塔和子著/編集工房ノア/2008

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