泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

心の詩集

2021-06-24 18:16:13 | 読書
 自室の本棚をがさごそしていて目が合った本。
 もう20年経っていた。表紙の黄ばみ具合がその年月を物語っています。
 この詩集を自宅近くの本屋で買ったのは2000年の8月。
 仙台で七夕作りのバイトを終え、実家に戻っていたとき。
 書きためていた詩を、親に多額の出資をしてもらって自費出版する直前でもあった。
 心身ともにまだまだ万全ではなかった中、貪るように読んだ記憶がある。
 大事に仙台に持ち帰ったのでしょう。
 再読すれば、当時のことが蘇る。
 そのとき、わからなかったことも、今ならわかった。
 大活躍していた吉増剛造さんのおっしゃっていたこと。
 驚いたことに道元が出ていた。後にカウンセリングで出会う言葉。

「自己をはこびて万法を修証することを迷いとす。万法すすみて自己を修証するはさとりなり」 86ページ上段14行~17行

 この20年。確かに私の万法もすすんだ。少なくとも、どうすれば自他を喜ばせることができるのか、は身についてきた。
 吉増さんはこんなことも言っている(87ページ中段2行-11行)

 人間というのは、もっともっとすさまじい想像力と力と可能性、光をもっていいものですからね。ニーチェどころじゃなくて、もっともっともっていいわけですよ。それが途中でいろいろなものに遮られて想像力を断ち切られてしまうというのは、大変つらいことでね。現実に一つ一つどうやって処理していくかというのは、問題がいっぱいあるけれどもね。

 詩ってなんだろう? この改めての問いに応えてくれたのは和合亮一さん。評論は読み応えが充分でした。
 そもそも「表現」と「創作」は違う。この違いを、私は明確に持っていなかった。
「創作」には、本人の意識を超えたものの働きがあるということ。それが癒しや力や元気や修証に通じる。自己を超えた万法がすすんで。

 今を生きる人たちの生命や魂と、深く交わり、癒し、励まし続けることこそが詩の言葉の本来であることを、決して忘れてはならない。 199ページ下段10行-12行

 本当にそうだ。
 で、この本に載っている作品は、実に多岐に渡っています。歌手も入っている。井上陽水、中島みゆき、忌野清志郎、尾崎豊、小沢健二。それでいてちゃんと詩の名作もある。吉野弘、高見順、茨木のり子、まど・みちお、草野心平、中原中也。
 まだまだ。素晴らしい目の届き方。この本が現在品切れ状態なのが残念です。
 最初に読んだとき、そして再読しても「あー」と感じ入ったのは谷川俊太郎の「うつむく青年」。

 うつむいて
 うつむくことで
 君は私に問いかける
 私が何に命を賭けているかを
 よれよれのレインコートと
 ポケットからはみ出したカレーパンと
 まっすぐな矢のような魂と
 それしか持っていない者の烈しさで
 それしか持とうとしない者の気軽さで

 うつむいて
 うつむくことで
 君は自分を主張する
 君が何に命を賭けているかを
 そる必要もないまばらな不精ひげと
 子どものように細く汚れた首すじと
 鉛より重い現在と
 そんな形に自分で自分を追いつめて
 そんな夢に自分で自分を組織して

 うつむけば
 うつむくことで
 君は私に否という
 否という君の言葉は聞こえないが
 否という君の存在は私に見える

 うつむいて
 うつむくことで
 君は生へと一歩踏み出す
 初夏の陽はけやきの老樹に射していて
 初夏の陽は君の頬にも射していて
 君はそれには否とはいわない

 今回読んで、一番グッと来たのは、田村隆一の「木」。

 木は黙っているから好きだ
 木は歩いたり走ったりしないから好きだ
 木は愛とか正義とかわめかないから好きだ

 ほんとうにそうか
 ほんとうにそうなのか

 見る人が見たら
 木は囁いているのだ ゆったりと静かな声で
 木は歩いているのだ 空に向かって
 木は稲妻のごとく走っているのだ 地の下へ
 木はたしかにわめかないが
 木は
 愛そのものだ それでなかったら小鳥が飛んできて
 枝にとまるはずがない
 正義そのものだ それでなかったら
 地下水を根から吸いあげて
 空にかえすはずがない

 若木
 老樹

 ひとつとして同じ木がない
 ひとつとして同じ星の光りのなかで
 目ざめている木はない

 木
 僕はきみのことが大好きだ。

 この「木」、20年前も読んだはずなのに全く初めて出会った衝撃があった。
 私という木が、心の中で育ったからだといいな。

 阿部晴政 編/河出書房新社/2000

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