江戸川乱歩は、小学生以来でしょうか。
映画「君たちはどう生きるか」に導かれて。
表紙の女性、映画に出てくる夏子にそっくりです。幽霊塔とその前の沼も。
幽霊塔では、この女性、秋子と言います。夏子も出てきますが、この女性とはまるで違うような醜さとなって。
宮崎監督の漫画が、最初から16ページ載っています。そこに描かれていますが、幽霊塔は、江戸川乱歩の前に黒岩涙香(るいこう)が描いていました。その涙香も、イギリスのウイリアムソンが描いた「灰色の女」を元にして日本に合うようにして紹介していました。この辺りはゲーテの「ファウスト」に似ています。ファウストも、元々はよく舞台で演じられていた演目をゲーテが自分流に料理したものでした。
宮崎監督の印象的な言葉がありましたので引用しておきます。漫画の最後のページです。
「みたまえ、幽霊塔は19世紀からつづいているのだ。
19世紀には、まだ人間はつよく正しくあれると信じられていた。
20世紀は、人間の弱さをあばき出す時代だった。
21世紀は、もうみんな病気だ。
(中略)
わしらは、大きな流れの中にいるんだ。
その流れは、大洪水の中でも、とぎれずに流れているのだ」
本当にそうだと思いました。
もう、みんな病気。いかに病気から脱することができるか。予防することができるか。
そもそも、この住んでいる地球の存続すら、人間の活動によって、危うくなってきています。
この視点は、どうしても、作品に入ってくる、と私も思います。
で、この幽霊塔ですが、面白かった。
小学生のときは、よく図書館に通っていろんな本を読みましたが、「興奮度」という観点からだと、やっぱり乱歩が一番でした。
ページをめくる楽しさ、次、どうなるんだろうというわくわく。全てが明らかになった後の充足感。
小説の面白さ。奥深さ。最初の洗礼は乱歩だった。確かに、と、改めて思わされました。
天性なのか、鍛え抜かれた技なのかわかりませんが、読者を次へ次へと誘う書き方がすごい。少しだけ匂わせたり、先に出しておいて回収したり、無駄はなく、でも読者には親切。文章がとても丁寧です。小学生でも読めるでしょう。
でも深い。というか暗い。というか、社会的タブーが入っている。
この作品では「蜘蛛屋敷」が出てきます。家の中が蜘蛛だらけで、誰も近づきたがらない。そうしているのは訳がある。
秋子さんには、左手にいつも謎の手袋がはめられています。その秘密とは何なのか?
主人公の光雄には幼馴染で許嫁の栄子がいますが、光雄が秋子と出会って秋子を愛し始めたのを敏感に感じ取り、嫉妬に燃えた栄子はあらゆるトラブルを起こします。栄子が影の主人公とも言えます。その栄子の顛末もまた読みどころ。そこには、人間の浅はかさ、好ましくない感情というものがよく描かれています。
あとは怪しげな弁護士に医学士も。裏の顔を持ちつつ憎めないのは栄子と似ているかもしれません。
人物たちが魅力的。それは表だけじゃなく、隠している裏があってこそ。そのことも、乱歩はわかっていたのかどうか、わかりません。
幽霊塔は、かつての住人が殺され、その人が幽霊となって現れると言われていました。大きな時計塔でもあって、かつて海運で財を成した人物が作りました。そして、その塔のどこかに財宝が隠されているとも言われていました。
財宝もまた隠されている。幽霊もまた、どこから出るかわからない。あるのかないのか、いるのかいないのか、その不安定さが読む者を先へ先へと進めます。
大きめな本ですが、読み始めたらあっという間でした。
様々な謎に裏、そこには真実があった、とだけ言っておきましょうか。
光雄と秋子はどうなっていくのか? それもまた読みどころで、今の私には納得ができる結末でした。
江戸川乱歩 著/宮崎駿 口絵/岩波書店/2015
映画「君たちはどう生きるか」に導かれて。
表紙の女性、映画に出てくる夏子にそっくりです。幽霊塔とその前の沼も。
幽霊塔では、この女性、秋子と言います。夏子も出てきますが、この女性とはまるで違うような醜さとなって。
宮崎監督の漫画が、最初から16ページ載っています。そこに描かれていますが、幽霊塔は、江戸川乱歩の前に黒岩涙香(るいこう)が描いていました。その涙香も、イギリスのウイリアムソンが描いた「灰色の女」を元にして日本に合うようにして紹介していました。この辺りはゲーテの「ファウスト」に似ています。ファウストも、元々はよく舞台で演じられていた演目をゲーテが自分流に料理したものでした。
宮崎監督の印象的な言葉がありましたので引用しておきます。漫画の最後のページです。
「みたまえ、幽霊塔は19世紀からつづいているのだ。
19世紀には、まだ人間はつよく正しくあれると信じられていた。
20世紀は、人間の弱さをあばき出す時代だった。
21世紀は、もうみんな病気だ。
(中略)
わしらは、大きな流れの中にいるんだ。
その流れは、大洪水の中でも、とぎれずに流れているのだ」
本当にそうだと思いました。
もう、みんな病気。いかに病気から脱することができるか。予防することができるか。
そもそも、この住んでいる地球の存続すら、人間の活動によって、危うくなってきています。
この視点は、どうしても、作品に入ってくる、と私も思います。
で、この幽霊塔ですが、面白かった。
小学生のときは、よく図書館に通っていろんな本を読みましたが、「興奮度」という観点からだと、やっぱり乱歩が一番でした。
ページをめくる楽しさ、次、どうなるんだろうというわくわく。全てが明らかになった後の充足感。
小説の面白さ。奥深さ。最初の洗礼は乱歩だった。確かに、と、改めて思わされました。
天性なのか、鍛え抜かれた技なのかわかりませんが、読者を次へ次へと誘う書き方がすごい。少しだけ匂わせたり、先に出しておいて回収したり、無駄はなく、でも読者には親切。文章がとても丁寧です。小学生でも読めるでしょう。
でも深い。というか暗い。というか、社会的タブーが入っている。
この作品では「蜘蛛屋敷」が出てきます。家の中が蜘蛛だらけで、誰も近づきたがらない。そうしているのは訳がある。
秋子さんには、左手にいつも謎の手袋がはめられています。その秘密とは何なのか?
主人公の光雄には幼馴染で許嫁の栄子がいますが、光雄が秋子と出会って秋子を愛し始めたのを敏感に感じ取り、嫉妬に燃えた栄子はあらゆるトラブルを起こします。栄子が影の主人公とも言えます。その栄子の顛末もまた読みどころ。そこには、人間の浅はかさ、好ましくない感情というものがよく描かれています。
あとは怪しげな弁護士に医学士も。裏の顔を持ちつつ憎めないのは栄子と似ているかもしれません。
人物たちが魅力的。それは表だけじゃなく、隠している裏があってこそ。そのことも、乱歩はわかっていたのかどうか、わかりません。
幽霊塔は、かつての住人が殺され、その人が幽霊となって現れると言われていました。大きな時計塔でもあって、かつて海運で財を成した人物が作りました。そして、その塔のどこかに財宝が隠されているとも言われていました。
財宝もまた隠されている。幽霊もまた、どこから出るかわからない。あるのかないのか、いるのかいないのか、その不安定さが読む者を先へ先へと進めます。
大きめな本ですが、読み始めたらあっという間でした。
様々な謎に裏、そこには真実があった、とだけ言っておきましょうか。
光雄と秋子はどうなっていくのか? それもまた読みどころで、今の私には納得ができる結末でした。
江戸川乱歩 著/宮崎駿 口絵/岩波書店/2015
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