第4次安倍内閣
謙虚に、真摯に議論深めよ
第4次安倍晋三内閣がスタートした。8月に改造した「結果本位の仕事人内閣」の閣僚全員を再任し、北朝鮮への対応や子育て支援に全力を挙げて取り組むという。
衆院選を経て新しい内閣が発足したというのに、高揚感は感じられない。その理由は、安倍首相自身がよく分かっているはずだ。
「安倍1強」といわれ、数の力で押し切る強引ともみえる政治姿勢に国民の批判が強まっている。
衆院選では自民、公明両党で310を超える議席を得たが、野党の分裂に救われた面もある。内閣の支持率と不支持率は拮抗(きっこう)している。歴史的惨敗を喫した7月の東京都議選の記憶もまだ新しい。
国会で絶対安定多数の議席を確保しても、政権への信頼感は揺らいでいる。「数におごらず、謙虚に責任を果たすことが大事」と閣僚も言っているほどだ。
安定的に政策遂行できる議席数を得た以上は、安倍首相も謙虚さ、真摯(しんし)さを忘れずに国政運営に取り組むのが有権者の負託に応える道である。熟議を尽くし、最善の政策を練り上げる「王道の政治」を目指してほしい。
■国会審議受けて立て
そう願いたいところだが、またもや「慢心」が頭をもたげていないか。与党側は当初、特別国会を8日間で閉じる予定で、臨時国会も開かない方針だった。そればかりか、慣例的に野党に多く配分されている質問時間を制限する案も突如、打ち出した。
審議時間を減らし、少数意見を封じ込めるに等しい。謙虚とは裏腹の発想だ。野党側の反発で会期は12月9日までとなったが、外交日程も立て込む中、どれだけ実質的な審議ができるのだろう。
解散がなければ、秋の国会では看板政策の「働き方改革」関連法案が焦点になっていたはずだ。北朝鮮問題や少子化対策など、安倍首相が衆院選で持ち出した「国難」への対応は議論しないのか。
何より、森友・加計両学園をめぐる疑惑に関する国民の疑問は解消していない。安倍首相は「国会で質問されれば丁寧に答える」と言うが、国会で質問する機会がなければ首相の言葉は意味を持たない。疑惑をぬぐい去りたいなら、特別国会を大幅延長し、受けて立つ姿勢も必要ではないか。
■改憲論議は急がずに
この内閣では、憲法改正が初めて政治日程にのぼってくる可能性がある。
衆院選では改憲勢力とされる政党の議員数が、改正発議に必要な3分の2を大きく上回った。安倍首相は改憲を自民の主要公約の一つに掲げた。来年の通常国会に自民の改憲案が示されるとの観測もある。憲法改正をめぐる議論は加速する気配が濃厚だ。
ただ、連立を組む公明には9条改正に慎重論が根強い。改憲の議論を進めると公約した希望の党、教育無償化などを改憲項目に掲げた日本維新の会と安倍首相の改憲方針は必ずしも同一ではない。野党第1党の立憲民主党や共産党、社民党は反対の構えだ。
そもそも憲法のどこが問題で、どう変えればいいか、国民的な議論は進んでいない。安倍首相は5月、9条に自衛隊の存在を明記する案を突然提案したが、自民の改憲草案との整合性について十分な説明はなされていない。
本当に改憲が必要なら、国民の意見をふまえて党内論議を重ね、国会の場で熟議を尽くすのが筋だ。共同通信社の世論調査でも、安倍政権下での改憲に反対する人は賛成する人を大きく上回っている。とにかく変えることを優先させ、短期間の審議で発議を急ごうという態度は、国民を軽視しているようにしかみえない。
■政策の優先度考慮を
改憲問題にばかり目を奪われている訳にはいかない。取り組まなければならない課題は山積している。
アベノミクスは継続される。2019年10月に消費税が10%に引き上げられ、増税分5兆円の一部は借金抑制から教育無償化の財源に変更される。財政健全化はまたしても先送りされる。
「異次元」とされる日銀の金融緩和策も維持されそうだ。大量の国債購入や低金利政策が財政規律を大幅に緩め、資産バブルを生んでいるとの指摘もある。家計を温める効果も生んでいないようにみえる。与党圧勝で政策転換のタイミングを失っていないだろうか。
緊迫する朝鮮半島情勢で、安倍首相は北朝鮮への圧力強化を続けるとしているが、その後の展望をどう描くか。習近平氏への権力集中がいっそう強まった中国など近隣諸国との関係構築も重要だ。
日米関係の強化も大切だが、安倍首相の外交姿勢がアメリカ一辺倒との批判が根強いことは留意すべきだろう。
衆院選では多くの公約を並べたが、国民にとって優先すべき政策は何かを見極めなければならない。課題解決には、地道な議論の積み上げが必要だ。
前提となるのは、やはり国会での充実した審議である。追及を恐れて議論から逃げるようでは、「仕事人」をそろえ、吉田茂元首相以来となる第4次内閣を組織した政権の名が泣こう。
[京都新聞 2017年11月02日掲載]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます