KEVINサイトウの一日一楽 

人生はタフだけれど、一日に一回ぐらい楽しみはある。

あつ子とReflections その2

2007年01月15日 | Music,Movie & TV
 偶然にも再会したあつ子と僕は、電話番号を交換し、次に会うことを約束した。

 最初は、コーヒーショップで会った。
 2度目は、映画を見に行った。あつ子が買って来てくれたマックのハンバーガーを齧りながら映画を見た。

 3度目に、僕の馴染みのBARに行った。

 あつ子は、ジャージ姿が多かった高校のバスケ部のあつ子ではなかった。
 綺麗にお化粧をし、少しショート丈のスカートに白いブーツを合わせた彼女はとてもファッショナブルで、何の取り柄もないネイヴィーのブレザー姿の自分が恥ずかしいほどだった。

 BARでは寺尾聡の「Reflections」が流れていた。

 「私、寺尾聡好きなんだ」あつ子が言った。
 「Kevin君、寺尾聡に似ているよね」

 「えっ・・・」
 そんなこと言われたのは初めてだった。

 「Kevin君は、高校時代からずっと私の王子様だったんだよ」
 「皆でラブ・ホテル行ったことを覚えている?私、Kevin君と一緒になってラッキーだと思った。でも、Kevin君といったら怒ったように黙ったままで、私、すごく寂しかったんだよ」
 
 そう言って、僕の目を覗き込んだ。

 その時、僕はカンパリ・ソーダを飲んでいた。
 カンパリのグラスを空けてしまう前に、僕はあつ子に酔ってしまった。
 
 そして…、
 僕達は、恋に落ちた…


            
 二人は猛スピードで恋に落ちた。それは真実であったが、同時に二人の錯覚でもあった。

 あつ子は僕の向こうに別の男性を見ていた。そういう僕も、あつ子の向こうに別の女性を見ていた。

 あつ子は、僕のことを王子様と言った。しかし、あつ子には別の王子様が居た。その王子様とは色々な訳があって、別れた。
 そんな時に、僕と再会したのだ。

 同時に、僕も同じような状況にあった。
 僕も三年間毎日会っていた女の子と別れた直後だった。

 あつ子と僕は、毎週末に会った。最初のうちは、天国のように楽しかった。
 しかし、会えば会うほど、二人の心はすれ違うようになった。

 あつ子は、常に僕と別れた王子様を比べていた。
 僕も、別れた彼女とあつ子を比較して見ていた。

 あのラブ・ホテルの夜から、随分と時間が経ってしまったことを、苦い気持ちの中で実感した。
 あの日以来、僕達の糸は交わらなかった。
 その間に二人が過ごした時間は、全く別のもので、二人の距離は高校時代とは比較にならないほど離れてしまった。

 何故か、偶然にもこうして糸が交差したが、それは単なる交差でしか過ぎず、しっかりと絡み合うものではなかった。

 会うたびに、喧嘩するようになった頃、僕は二人の関係は「終わった」と思った。

 
 お互いに連絡が途絶えて、半年ほど経ったときに、あつ子から電話があった。

 あつ子から沢山レコードや本を借りていたが、それを返して欲しいという用件だった。

 僕は、REO SPEEDWAGONとかWILSON BROS.などあつ子の好きなレコードや本を両手に持って、彼女の家の近くの喫茶店に行った。

 でも、返すはずのレコードから1枚だけ抜き取った。

 それが、寺尾聡の「Reflections」だった。

その「Reflections」は、今でも僕のレコード棚の中にある。



 
 

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
クー (いそちゃん)
2007-01-18 01:12:42
しびれますね~
直木賞!
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頑張ります (KEVIN)
2007-01-19 12:52:14
直木賞は、無理でも、これからもショートストーリー頑張って書きます。おつきあい下さい。
返信する

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