「クライマーズ・ハイ」 横山秀夫

現在映画が公開中の「クライマーズ・ハイ」
以前にはNHKでドラマ化もされたようで、
その評判はかなり良かったので気になってました。
（しかも、今回の映画は堺雅人氏出演！）

とりあえず、文庫で出ていた原作を読んでみました。
「クライマーズ・ハイ」　（横山秀夫　文春文庫）

この日航機墜落事故、私も当時を鮮明に覚えています。
というのも、この日１９８５年８月１２日、
私は午後６時過ぎの新幹線で
東京から大阪に帰ってきたからです。

墜落した飛行機も午後６時過ぎの羽田発。
当時はまだ飛行機は今ほどには
一般的じゃなかったような気がします。
高校の部活の試合だったので、
飛行機などという選択肢はなかったのですが、
陸路と空路という違いだけだったのだ、
と思うと身震いするような出来事でした。
だから、人ごとだと思えなかった・・・。

事故の現場である群馬県の地元新聞社の
記者たちを描いたこの小説。
事故そのものよりは、それをめぐる
報道のあり方、新聞社内の喧騒、
人間模様といったことを中心に描かれた
人間ドラマでした。

はじめは、主人公の悠木が友人の息子と
ロック・クライミングをしている現在の場面が
17年前の事故当時（過去の回想）とが
入り混じって描かれることの意味がわからなくて
とっつきにくかったです。

でも、読み始めるといろんな出来事が絡み合って
ラストに向かうのが気持ちよくて
夢中で読み終えてしまいました。

私がモノを知らないだけかもしれませんが、
新聞社ってこんなに派閥争いや部署間の関係の
ややこしさがあるもんなんですね。
そして、新聞記者にとって、歴史に残る大事件を
経験することの意味の大きさを知りました。

報道って単に事実を伝えるだけじゃないんですね。
いくつもの事件の扱い方の順位、写真ひとつ、
見出し大きさひとつにもさまざまな思惑が
せめぎあってる。

テレビのニュースキャスターの描写や
読者の投書欄をめぐって、
マスコミ批判の色合いも感じました。

読み終えると、あれだけの凄惨な事故のことや
ネチネチどろどろした新聞社内の話の印象よりも
すっきりとした気分になりました。
それは、ロック・クライミングの場面の
おかげでしょうね。

映画と原作は違うところも多々あるようなので
いつか映画も見てみたいと思います。

余談ですが、日航機墜落の本では、
「墜落遺体　御巣鷹山の日航機123便」
（飯塚訓　講談社プラスアルファ文庫）
を読んだことがあります。

こちらは、事故で亡くなられた520人の遺体の
身元確認を担当された警察官が書かれたもの。
本当に無残な現場の記録です。
初めて読んだとき、夢をみました。

「クライマーズ・ハイ」を読んで
久しぶりに読み返してみましたが、
やはり胸が苦しくなるような本でした。
感情に流されない淡々とした描写ながら、
”その場”ですべてを見た人にしか
書けないものです。
想像を絶する悲惨さですが、
人間の素晴らしさや命の尊さを考えることが
できたので、ご紹介まで。