僕にゆかりのある人たち数人の月命日である。
大切な人たちの月命日が重なってしまったことに、
何か因縁めいたものを感じている。
この国の多くの人たちがそうであるように、
僕は、不信心で、無神論者である。
それでも朝晩、妻の遺影にお線香を上げるし、
月命日には特別な感慨が訪れる。
聞きかじりだけど、
禅語に『石上栽花後 生涯自是春』というのがある。
我流に訳せば、
石の上に花を栽(植)えることができれば、
その後の人生は春のように素晴らしい
と、いうことだろうか?
植物を石に植えることは、むろん不可能である。
けど、それにチャレンジするのが禅(仏教)で、
しかも、ごくごく希に
天才のみが植えてしまう(解脱する)ことがあるらしい。
もし植わってしまえば(解脱すれば)、
あとの生涯は春のように爽やかで幸せだという。
僕んちの宗旨は禅宗ではなく浄土真宗なんだけど、
宗祖 親鸞が唱えた『他力易行』も、
凡俗の僕には遙かな道のように思える。
修行もなにもせず、お念仏(弥陀への感謝)を唱えるだけで、
踊躍歓喜の心持ちになるなんて、想像すらできない。
物の本によると、
仏教のドグマは、一神教のそれとちがって、
「救済」じゃなく「解脱」を目的としているらしい。
解脱は何百万人か何千万人に一人の天才しか到達できない境地で、
凡庸で俗物な僕には無縁なものである。
それでも毎月20日には、仏教の礼式に則って、
ほんの少しだけ特別な気持ちでお線香を上げ、
花束を抱えて、西方浄土に思いをはせたい。
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