黒姫物語 (水彩&色鉛筆)

2011年06月24日 | 創作話
信州中野に『黒姫物語』という昔話が伝わっております。
今日はその昔話を私なりにアレンジし、創作話を作ってみました。

むかしむかし、信州中野にあったお城の美しき姫君に大蛇が恋をした。

大蛇は凛々しき若侍に姿を変え、姫の父である殿様に沢山の金銀財宝をみやげに、「姫を嫁に欲しい」と申しこまれた。
しかしこの若侍を訝しがった家臣の機転でにより、城の東にある山、志賀の山に住む大蛇と判明した。
蛇といえども城の東を守る志賀山の主、神と同等である。
むげには断れない。もし断ればこの地に災いが起こるかもしれない。
でも神と言っても蛇は蛇、殿様とて人の親、わが子を蛇に嫁がせる親などいない。
そこで殿様と家臣は婚儀の条件として五つの無理難題を押し付けた。

「一つ目じゃ。この城の南に千曲の川が氾濫して出来た石ころだらけの地がある。その地に二度と決壊しない堤防を築き、石をどかしてを米を植えられる田に変える。他に三問、すべて出来た暁には姫を嫁がせる」
これを聞いた若侍はもとの大蛇に姿変え、その巨大な横腹で氾濫原の石を取り除き、その石を千曲の脇に寄せ堅強な堤防を築いた。
またたく間に氾濫原を広大な水田とし強固な堤防を築いた大蛇は、また若侍の姿に戻り殿様の前に進み出た。
しかし大蛇といえど生身の身体、押し分けた石ころは皮を裂き、築いた石は身を裂き、若侍の姿は傷だらけであった。

一問目、二問目の難題を難無く達成した大蛇の力に驚き、また忌々しく思って見ていた殿様は
「では三問目。ヌシの住む東の山は古来より火の山。故、古来より地より噴き出す気が草木を枯らす。流れ出でる川の水は赤く染まり魚を育てぬ。折角切り開いた新田ながら、この水では稲葉育たぬ。水無き田は死の田と同じ』
これを聞いた大蛇は早速大岩をくわえ己住む東の山の地中深くと潜った。地中の灼熱に赤く熔け流れし岩の道を、銜えてきた大石にて閉ざした。
岩をも溶かす灼熱は大蛇の身を焼き、磐より吹き出る臭気が身を腐らせた。

「姫を嫁にいただきたい」
両手つき願い出る若者の姿は、度の如きの無理難題に姿変貌し、もはや凛々しき若侍姿はそこには無かった。
「四問目は如何に」

「殿、あと一問か二問でこ奴は死にます。さすれば姫を嫁がせなくて済みます」
痛々しい若侍の姿を見て、そう殿さまに家臣は耳打ちした。
そんな家臣と殿様の横で、俯き黙って座っていた当の姫の頬に二筋の涙が流れた。

「さて次だが」と、殿様が言った。
「この城から西に小高い丘がある。その近辺は千曲川や他の河川よりも高い所にあり、どこからも水が引けない。そこで一番高い頂にため池を作る。ただし
どんな日照りの時でも水が枯れない池をな」
水は高き所より低き地に流れる。周りの高い山から離れた独立穂。大河は低く、地表を這わして流す堰では小高い丘の頂まで無理である。しかしこの頂より眺めれば、距離は離れているもののどのいただきもこの丘より高い。
大蛇は一条の真っ直ぐな錐と化し、己の身体を高回転させ、。小高き丘の頂上より真下に向かって掘り始めた。
幾つかの水の層に突き当たったが、いずれも日照りの時には枯れ果てるものばかり。
硬い岩を砕くは先端の二本の牙。その自慢の牙もあとどれほどもつものか・・・。
ガチン!
何度目かの硬い層で一番硬い層である。さて私の牙が折れるのが早いか、岩が砕けるか・・・。
ズボッ!という音と共にバキーンッ!という音が聞こえたが、その音は勢い強く噴き出す水の音にかき消され大蛇の耳には届かなかった。

「おおーい 浜津の頂から水が噴き出たぞ」
「はじめは赤い水が噴き出し、なにか白い紐の様なものが一緒に地面から噴き出た」
これを見たお城の者、城下の者は大騒ぎ、我一番と浜津の丘に駆け上がった。
「おおっ池だ!池が出来てる!」
「はぁ~ こんでおらほぉの田にも水が引ける」 「ん そうだそうだ もー隣村しょうとは水争いしなくていい」 「はぁあ~ ありがたやありがたや」

「弓矢の用意っ! 「構えてぇぇぇ・・・ 撃てっ!」
一方お城では、浜津の頂から赤い水と共に空高く噴き出された白き紐の様なものがドサッとお城の庭に落ちてきた。
硬い岩に牙折られ、灼熱の溶岩と臭気に焼け腐り落ちる身、所々裂けた皮膚より覗く白き骨に赤黒き内臓。
横たわる大蛇の真っ赤な口より小さなつぶやきが聞こえてきた。
「無念・・・ あと一問を前にして牙が折れるとは・・・嗚呼姫と夫婦になりたかった」

「ええいっ 蛇の分際で姫に恋するとは、許しがたき行為。 皆の者こ奴を成敗せよ!」
殿様の声にオオッ!との掛け声家臣一同鞘から刀を抜いた。

「おまちくださいっ!」
凛と張った声が殺気立った家臣の動きを止めた。

「わたしは喜んでこの者の嫁になります。己が身を裂いてまで私を嫁に欲しいと申した心には、たとえ蛇でも偽りなき心。嘘偽りを申して祭り事とり行う人間より余程純。ましてや今回のこの者の行はこの城のため、城の民のため。わらわは喜んでこの者と夫婦になります」

その時、空から一条の白き光が射し、横たわる大蛇の身体を包んだ。
光に包まれると見るみると傷んだ身体が治癒していき、大きく輝いた後、そこには凛々しき若侍が笑顔で姫に手を差し伸べていた。
姫がその手に触ると若侍は白き馬に姿を変え、背中に姫を載せると空に舞い上がった。
出来上がったばかりの池のほとりで祝う民の上を駈け、その向こう側を流れる千曲の川越え、大きな湖に姿写す美しき西の山へと降り立ち、その地で末長く幸せに暮らしたとさ。
二人が暮らした西の山は、姫の美しい黒髪にちなんでいつしか『黒姫山』と呼ばれるようになり、その美しき山容映す湖を『芙蓉の湖』と呼ぶようになりました。
なんしても、いまじゃとーい昔の話し。


もしいま愛し合う二人がその恋実のらしたくば、湖をとりまく湖畔の内、東の湖畔一か所に湖中央に扇形に映る黒姫山の頂がちょうど岸に掛かる場所があるそうです。
その要の位置で山に向かって二人並んで愛を誓うと、願いは叶えられ一生幸せな結婚生活が送れると伝え聞きます。
しかしどちらかが邪な心で願った時は、とたんに山の姿は真っ白な霧に閉ざされ、湖面大いに波立ち、邪な願いを願った者を深い湖の底に引き込むとのです。
いま愛し合ってる あ・な・た 一度おためしあれ ^^;

寒がりのオニ

2011年01月29日 | 創作話
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- まいったなー・・ 
二月と言ったって本当の寒さはまだまだこれからなのに、パンツ一枚で追い出されちゃカゼひいちゃうよ・・-

暗くて寒い家のかげからこんな声がきこえてきます。

「 オニわ~ そと  福は~ぁ うち 」
聞こえてくる声は、二月の三日の夜にあちこちの家で豆まきする声。
家の中にいるオニを追い出し、代わりに福の紙さまを招き入れる節分の豆まき。
オニの嫌いな豆をまき、玄関にはオニの嫌いな干しイワシをぶら下げて、悪いことをするオニを追い出しているのだ。

- アタシャ 豆もイワシも大好物なんだけどね~ ―
こんな声も聞こえてきます。

そうです、オニは豆もイワシも大好きなのです。
あるオニなんか、節分の夜、豆まきの終わった後に、まかれたて落ちた豆をひろいあつめるくらいなのですから。

- 今夜も一緒に遊ぼうと思ったのにぃ~ -
こんな声も聞こえてきます。

オニの姿は子供たちにしか見えないのです。
いつもいそがしがって働いている大人の代わりに子供たちと遊んでくれます。
しかしなぜか、大人になるとオニの姿は見えなくなり、一緒に遊んでくれたオニのことも忘れてしまいます。
そしてオニと遊んでいるということは、昔からオニと子供たちとの秘密の話し、大人には話さないという秘密の約束ができています。
どうしてもオニとは遊んだことを大人に話したいときは、オニと遊んだことは夢の中でのお話という約束ができているのです。

もし約束を破った時は・・
まー こんなことは無いとは思いますが、その時はオニが「バリバリ音を立てて約束破った子を食べちゃうぞ!」とh言っていますが、そんなことはありません。
これはオニのうそ。泣きながら子供の前からどこかへ消えて、その子の前には二度と出てきてはくれません。

オニは心優しいのですが、ただ顔がいかついのが欠点。
オニが怖いもの、悪さをするものという話は、なぜだか子供のころにオニを見たことを覚えていた大人が、いかつい顔のオニは悪さをするものと勘違いして昔話として伝わってしまったのです。
ほんとうのことを言えば、オニは子供たちが大好きでいつもみまもっているのです。

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「ねー ねー なに編んでるの?」
いそがしそうにチクチク二本の針を動かしているお母さんに、えっちゃんが聞きました。
えっちゃんは六歳、幼稚園の年長さんです。

「さー なにかしらね。 えっちゃん、あててごらん」
おかあさんは手を休めずに、えっちゃんに方を向き笑いながら答えました。

おかあさんは編み物が得意です、いまえっちゃんが着てるお気に入りのセーターも、寒い外で遊ぶときにとっても暖かい帽子も手袋も、みーんなみんなおかあさんが編んでくれたのです。
ですから、えっちゃんとお話していても、横向いていても編めるのです。テレビを見ていても本を、読みながらでも編めることをえっちゃんは知っています。
いまも顔はえっちゃんを見ているのですが、二本の針は互いにぶつからずに交差し毛糸玉の入ったバスケットから出てくる毛糸を次々とからめていきます。
バスケットの中には黄色と青色の大きな毛糸玉。

えっちゃんのセーターにしてはちょっと大きそうです。
だとしたらえっちゃんのおとうさんのセーター?でしょうか、そう言えばえっちゃんは前におとうさんが、「えっちゃんのばかりじゃなく、ボクのもたまには編んでくれよ」とお母さんに言っているのを聞いたことがあります。

「エーと えーと おとうさんのセーター?」

「ざんねん、はずれー。 でも、えっちゃんがよく知っている人ですよ」と、おかあさん。

そうですね、おとうさんのセーターにしては色がちょっとばかりはでそうとえっちゃんも思っていました。
おとうさんじゃないとすると幼稚園の園長先生? 幼稚園バスの運転手さん? 体操の
お兄さん先? 交番のお巡りさん? お魚屋の・・ コンビニの・・ 。
えっちゃんは考えれば考えるほどますますわからなくなりました。

「ねー ねー 誰? 誰?」

「できた時におしえてあげる」
そう言って目を細めクスッて笑うと、小指を一本立てえっちゃんの小指にからませてこう言いました。
「えっちゃんとおかあさんだけのないしょのお約束」

幼稚園から帰ってきてから毎日お母さんの編み物の進み具合を見るのがえっちゃんのたのしみになりました。

毎日すこしづつながくなっています。
はじめおかあさんの手のひらぐらいの大きさだったものが、今じゃおとうさんのセーターの丈を優に越えた長さに。
えっちゃんはいよいよ完成したと思い、おかあさんに聞きました。

「誰?」

しかしおかあさんは
「もーすこし待っていて、この青い小さなものが完成するまでね」と言って、完成した大きな編み物えっちゃんに見せずに大きな紙袋に入れてえっちゃんの手の届かない高い棚の上へ置いてしまったのです。

えっちゃんの瞳から大きな涙がボロボロとこぼれおちました。

「うえーん うえーん
おかあさんが約束破ったよー  約束破ったよー 」

その夜はごはんも食べずに自分の部屋に閉じこもり、心配したおとうさんが呼びに行っても出てきません。

「いいんですよ、ごはんを食べたくないんでしょ。」
「あのこだってこの春は入学、ピッカピカの新一年生。入学すれば勉強にしろイジメにしろ、自分の思うようにならないことが山ほどあります。そんな時におかあさんが教えてくれなかったなんて、小さなことにいちいち泣いてごはんも食べないと様だと一年生失格で。お腹がすけば自分から部屋をでてきますよ」
「さー おとうさん、早く食べてくださいな、あの約束の日は明日です。もー時間がないの、ごはん食べた後手伝ってくださいな」

美味しい 美味しいと言いながらおとうさんとおかあさんが夕食を食べている声が聞こえます。

「そんなこと言ったって、約束破ったのはおかあさんじゃないですか・・」

布団を頭からかぶっていても、夕ごはんの美味しい匂いがえっちゃんの鼻をくすぐります。今日のおかずはえっちゃんの大好きなハンバーグ、押さえてもギュルルリュ~とお腹のムシがさわぎます

「なにもこんな日にハンバーグじゃなくてもいいじゃない」

しばらくベットの布団の中で泣いたら、なぜあんなことで大騒ぎして泣いてごはんを食べないって言ったのか、自分のことながらえっちゃんはわからなくなりました。
でも大騒ぎした後なので素直に出て行くのもきまずい。
素直にごめんなさいの言えない自分とすいたお腹の悲しさが、ハンバーグの匂いをかいでよけい悲しくなりました。
ベットの横には新しい机とピッカピカに輝いたランドセルが置いてありました。

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カサカサという音にえっちゃんは目を覚ましました。
どーもえっちゃんはあのまま寝てしまったみたいです。
布団のすき間から部屋の中を見れば、ランドセルの中から一匹、机の引き出しの中から一匹、なんと二匹のオニがはい出してくるとこでした。
顔はいかついのですがちっとも怖くありません。

「にいちゃん、あの子覚えていてくれたね」
「ああ ワシの言ったとおりだろ、あのこはワシらとの約束を忘れちゃいなかったのさ」「それにしても寒いね、にいちゃん」
「ああ まだ二月になったばかり、ほんとうの寒さはまだまだこれから。って言ってもワシも寒い!」

どうも兄弟のオニみたいです。
もじゃもじゃ頭から角が二本、大きな口からはキバ。片手には鉄棒もってパンツ一枚の姿は絵本の通り。
でも寒さでガチガチ震えて両ひざ小僧がぶつかり合う。

「にいちゃん 寒いわけだよ、雪が降っている」
「ああ 雪だな。 パンツ一枚じゃほんとうに寒い。でもそれも今夜限り、あのこが約束覚えていてくれたから」
「うん そうだね、明日の夜は外に出されても寒くない」
「そうさ、投げられてもいたくない」

二匹のオニは歌うようにこんなことを話しています。

えっちゃんは興味がわいてきました。
おかあさんに叱られたことも、ごはんを食べ忘れ表の皮と背中の皮がくっつきそうなことも忘れてオニに聞きました。

「あのこって 誰っ?」
「約束って なに?」

ギョッとしたのはオニたちです。
誰もいないと思って出てきたら、突然声をかけられたのですから。
一匹はランドセルの高さまでとびあがり、もう一匹はさかさまに机から落っこちてしまいました。

「君にはオラたちの姿が見えるのかい?」
「君にはワシらの声が聞こえるのかい?」

そして二匹同時に言いました。

「ふしぎだね~」

「オラたちをみて怖くないのかい?」

「ワシらを見て恐ろしくないのかい?」

「ちっとも」
えっちゃんがそう答えると、二匹がまた

「ふしぎだね~」
「ふしぎだよ~ぉ」

えっちゃんは寒さに震えてる二匹のオニを布団の中に招き入れました。
そして聞きましたオニたちの不思議な話を聞きました。

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「オラたちはオニだ」
「うん そうだ オニだ」

「なぜかしら子どもたちにしか姿が見えないのだ」
「うん たまーにはおとなになってもみえる人がいるけどね」

「オラたちはいつもパンツ一枚」
「うん ワシらはそれしか持ってない」

「だから暑い夏は良いのだけどね」
「冬はとっても寒い。オニでも寒いものは寒い」

「さっきも言ったようにオラたちの姿は子供たちしか見えん。それも小さい時だけ」
「うん ちょうど今の君みたいな歳までだな。なぜだか七歳の誕生日を迎えると見えなくなるのだが、詳しいことはワシらも知らん」

「わたしあなたたちを見るのは初めてよ」

「いやいや、君もおらたちも毎日会って遊んでいたんだよ。ただ記憶がね」
「うん ワシたちと毎日遊んでいた。ただし夢の中でね」

「オラたちが眠った子供の耳元でおまじない言うと、みんなオラたちの夢を見る」
「うん そうするとワシたちはその子の夢の中に入っていけるのさ。出るときは別の呪文を言う。その呪文は強烈で、ワシらも夢の中から外の世界へ帰るのだが、その呪文で夢の中で一緒に遊んだことも忘れしまう」

「そう・・・ 忘れてしまうのさ」
「うん でもね、その呪文も利くのは六歳の歳まで。七歳になってしまうといくら頑張って繰り返えしくりかえし耳元で呪文言ってもワシらの夢はみてくれなのだ」

「夢の中に入ることを、オラたちは“とりつく”という」
「うん 言うんだな」

「ところがある日あの子を見つけた」
「うん 見つけたのだった」

「あれはとても寒い日だった。あのときも寒くて震えていたっけ」
「うん 震えていた。あの日はどこもかしこも節分の豆まき。豆は嫌いじゃないが、
とりつく相手の子がせっかく“鬼は外 福は内”って豆まいているのに、当のオニが“デン”と家の中で座っていちゃ失礼」

「でね、俺たちは寒いのを覚悟で家の外に飛び出し、隣の家の暗がりに隠れた」
「うん 隠れたんだな、パンツ一枚でね」

「いくら年中裸で暮らしているオニでも冬は寒い」
「うん またあの日は特に寒くてガタガタ震えていた」

「と・・ オラたちが隠れていた隣の家の窓が開いた」
「うん 開いたんだな。そして開いた窓にあのこがいた。そして言ったんだ、『オニさん、パンツ一枚で寒くないの?』ってね」

「あまりにも急な言葉で、オラたちが“とりついて”いないのに、あのこにオラたちの姿が見えるのかなんてことも考えずに言ってしまった。
「うん 言ってしまったんだな、ふたりそろって大声で 『「とっても 寒いでーす」ってね」

あはは と笑いながら二匹のオニが言った。

「それが君のおかあさんだったのさ」


えっちゃんはドキドキしながら一緒の布団の中でオニさんの話を聞いた。
だってえっちゃんはオニと話したこともないし、おかあさんの小さいころの話も聞いたことがなかったから。

「ねー ねー おかあさんはオニさんが怖くなかったの?」

「うん 怖くないって言ったな」
「ああ そうだった。私の部屋で暖まってねと言うもんだから、おらは聞いた。『オニは怖くないのか?ってね』
「うん 聞いた。そしたら君のおかあさんは『怖くない』って言った。そしてこんなことも言ったな。『オニさんはいくら顔が怖くても心はやさしいの』と。また、『心やさしい人はいくら怖い顔しても怖くない』ともね」

「ふぅーん おかあさんはオニさんが怖くなかったのか」

感心したようにうなずくえっちゃんにオニが聞いた。

「君は怖くないの?」

「ぜんぜん怖くない。オニさんがやさしいってなんとなくわかるもん」

「ねー ねー それより約束ってなに?」

「約束?」

「そう約束」

「それわね、寒がりオニに毛糸のパンツ庵ねくれるというんだ」
「そっ 毛糸のパンツ」
「ただし約束したのはおかあさんがえっちゃんの同じ年の頃で、まだ編み物ができない頃。それでね、約束したんだ。大きくなるまでにうーんとうーんと編み物ならってさ、私の子供が同じ歳になる節分の日にパンツをプレゼントしますって約束をね」

そしてにこにことまた口をそろえて言った。

「それが明日なんだな」

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「おはよう」

えっちゃんはお母さんと昨日ケンカしたことも忘れて大きな朝の挨拶。

「はい おはようさん。 昨日の夜はごはん食べずに寝ちゃったからお腹すいたでしょ

「はーい」

大きな返事をしてテーブルに着くえっちゃん。
もーすっかり昨日の夜にオニさんたちと話したことを忘れてるみたい。
きっと起きる前にオニさんが呪文かけたのでしょう。
でもえっちゃんはなんか今日一日がとても楽しい一日になるのはわかります。

「ねー ねー おかあさん、今晩は節分だよね、どこの家でも『鬼は外』なんだよね、それじゃあオニさんたち行くトコなくてかわいそうだから、うちだけでも『鬼は内』にしようよ」

「え?」と言って、おとうさんとおかあさんは顔を見合わせた。

「そんなことしたら家は怖いオニだらけなるぞ」とおとうさんが言うと

「だいじょうぶ オニさんてね、きっとやさしいもん」

「そうね、オニさんはパンツ一枚しかはいてないから家を追い出されると寒いでしょうね」
「えっちゃん昨日はごめんね。じつはおかあさんえっちゃんに内緒でオニさんたちに毛糸のパンツを編んでいたの。なにか小さい頃オニさんとそんな約束したような気がしてね、その約束の日が今日の様な気がしてね、おかげでできました」

おかあさんが編んだものを広げると、それはそれは大きな毛糸のパンツが二枚と、小さなパンツが一枚。

「これはえっちゃんの」と、小さな毛糸のパンツをえっちゃんに差し出すと
「オニさんとおそろいよ、オニさんたち喜んでくれるかしら」

「うん 喜ぶと思うよ、おかあさんありがとう、大好き」

そんなおかあさんとえっちゃんが話しているのを聞いていたおとうさん
コホンと一つ咳払いして言いました。

「じつはおとうさんも内緒だったが、小さい頃オニさんたちと約束していたんだよ。
寒がり屋のかわいそうなオニの話を本に書くってね」


外はしんしんと雪が降っていますが
ほんと 今日はとても楽しい節分の日になりそうです。

ほら 夜になると聞こえてくるでしょ、えっちゃんちの豆まきの声がね


福は~ うち
  オニも~~ うち

福は~ うち
  オニも~~ うち


春はもーすぐです。

スクナヒコナと山の池

2010年10月07日 | 創作話
やはりいたんだ! と、ぼくは思った。

爬虫類だってイモリもいれば、恐竜もいた。
魚類だってメダカもいれば大きなジンベイザメもいる。
哺乳類だって、小さなネズミから何十メートルのクジラだっている。
いやそのネズミさえも、トガリネズミもいれば、それより何十倍も大きいカピパラいうちょっと犬ぐらいのサイズのネズミもいる。
サルだって、メガネザルに比べたらゴリラの大きさは雲を突く大きさだろう。
だとしたら、人間だって例外じゃ無いわけだ。雲を突く大男がいたって、手のひらに載るくらいの人間がいても不思議じゃないはずだ。
それが証拠に各地に、いや世界中に大男の話や小人の話があるじゃないか。
『ガリバー旅行記』然り、『指輪物語』のホビット然り、『親指姫』に『ジャックと豆の木』。ここ日本だって『一寸法師』や『うり姫子』、アイヌ伝説の『コロボックル』、大国主命と協力して国造りした『少彦名(スクナヒコナ)神』。大男では山をひとまたぎの『だいだらぼっち』または『デイラン坊』。
こんな話が世界中で昔から伝わっているじゃないか。

えっ! ただの伝説、昔話だって?
まっ 確かに世の中科学が発展し、雲突く大男なんかどんなに隠れてもレーダー映ってしまうしね、ただの神話、伝説・法螺話と言ってしまえばそれまでだがね。いやもしかしたら恐竜と一緒に絶滅したのかも。
でもね、小人は別。
人目に付かないくらい素早い小人なら、現代の都会でも、山や里でも隠れ場所がいっぱい、食糧だって水だって楽に手に入れられる。
だから大男は別として、小人は今もいるはず、いや生き延びているはず。
だってぼくは見たんだ!
じっさいにこの目で小指ほどの大きさの小さい人を見たんだから



ぼくの趣味は釣りである。
まー 釣りと言っても千差万別。
船から釣る海の沖釣り、岩礁・岸壁・砂浜の海の陸釣り、山の清流では渓流釣り、大きな川で釣るのはアユの友釣り、誰でも一度はやったと思う小川や池でのウキ釣り等々、魚の数だけ釣り方がある。
私の釣りはルアー(疑餌)で釣る釣り方。
このルアー釣りにも、ルアーの材質によって硬化プラスチックや金属でできているハードルアーにゴムや軟質プラスチックでできているソフトルアーがあり、形も魚や虫や… 。

あはは 話がだいぶそれちゃいましたね。
すみません、好きな釣りの話しだとついね (笑)
えーと、ちいさな人の目撃話でしたよね。
そー ぼくは見たんですよ。

あの日も釣り竿もって家から車で十五分ぐらいのいつも行く山の池に。
この池は周囲一キロも無いくらいの農業用のため池である。
標高は低いものの、山の形状でいえば八合目あたりと、けっこう高めの位置にある池。
北に山を背負った南斜面の池、その南側に池の堰堤があり、その堰堤下の斜面に棚田がいくつもいくつも重なって下に続いている。ぼくらはここを単に護岸と呼んでいる。
東岸・西岸と呼んでいる池東西方向の岸は、いくばくかの林を境にリンゴ畑が続く。
そして水面より急峻な崖が山の上まで伸びている。通称北斜面または山際である。
古くは江戸時代に作られたと言われているこの池だが、今じゃ護岸の池に面した斜面は漏水と崩壊予防にコンクリートブロックでがっちり固められている。だが残りの斜面は自然のままである。特に北側には大人がふた抱え、三抱えしても手が届かないような大きな岩が、いくつもいくつも山の斜面より水面上や水面下に顔を出す。倒れた大きな木も何本も池の中で折重なって沈んでいる。しかし大きな魚を釣り上げるのには絶好なポイントであるが足場が悪い。
残念なことに西側と東側一部も木が水面に覆いかぶさり、減水期以外はベテラン釣り師でないとちょっと釣りには困難な地形である。
水が流れ込んでいるのは、池北西角に一か所、それとこれより小さい流れ込みが西側に二か所。
流れ出しは、灯篭ある東南角に満水時の調整用の流れ出しと、その横にバルブで開閉が管理できる排水口が一つ。護岸には単に塩ビのパイプを池に突っ込み、サイホンの原理を利用している、通称パイプと呼ばれている排水口と、池の水を底から抜く通称”階段”と呼んでる二か所である。
釣り下手なぼくは必然的に足場の楽な護岸で過ごす時間が多い。
護岸のパイプ付近はぼくのお気に入りのポイントである。
北斜面には先ほど言い忘れたが小さな祠がある。
なにが祭られているかは不明だが、釣り仲間内ではまことしやかに人身御供の娘が祭られているという。
この池を造る際、護岸を何度築いても崩れてしまい人身御供をしたというのだ。関係した村から未婚の若いきれいな娘さんを選び出し、堰堤の底に生きたまま埋められたとか。
この娘には生涯を誓い合った若者おり、悲しいことにその若者が涙ながらに一番最初に娘の上に土をかけたんだって。
堰堤は崩れること無く完成したが、その間若者は水以外一切の食を断ち、完成後小さな祠を建て村から姿を消したとか。
嘘か真か悲しい話である。

その祠に向け、パイプ付近お気に入りポイントから投げるとなぜか釣れるのである。

じつはこの日も護岸のお気に入りポイントで釣っていた。
ぴゅー と振った竿から一直線に祠に向かって伸びるライン(糸)。
と、祠と飛んでいくルワー線上の湖面を、こちらに向かって体をくねくねとくねらして泳いでくるものがいた。
毎度見慣れている蛇の泳ぎ、ヤマカカシカか青大将だろう、もしかしたらマムシかも? 
蛇って、まー あの細い体で水面上を器用に泳ぎます、それも結構早い。
しかし見慣れているといっても蛇である、一瞬ぎょっとした。
いやぎょっとしたのは蛇くんの方かもしれない。
なんと投げたルワーが、その泳いでくる蛇の頭を直撃したのだ。r
下手な釣り師で投げようと思っても思ったところに投げられないぼくが、なんとねらったように蛇の頭に”スコーン”とルアーがヒットしたのだ。
いやー なんとも複雑な気持ち。
蛇は急に頭にぶつかってきたルアーに驚いたのか、来た方向へと進路変え、北斜面の祠の方に戻って行った。
ぼくはここでヒューと息を吐いた。
もし投げたラインに絡まってこっちにでも泳いできたり、針がかかってしまったらと思うと足がガタガタと震えだした。なんせほっておくわけにもいかないが、素手ではずしてやる勇気もない。
あーよかったと思い、釣りを続けようと水面上のラインを見ていたら、なにかがその水面に落ちたラインに沿って泳いでくる。
祠のほうへ逃げていく蛇とは別の小さな波紋。
さっきの蛇にでも追われていた蛙かな? 魚かな?? と思いつつ、その波紋を見ていたら、なんと! 水面上のラインにその波紋から何かがぴょんととび乗ったと思ったら、ラインの上をツツツーとこちらに走ってくるじゃないか!

巻くに巻けないリールを手に、またもや足がガタガタしてきた。

こっ こりゃ 釣り仲間で噂していた人身御供になった娘の怨霊か!
毎度釣りに来ては、護岸上をドタバタ歩いたり、道幅いっぱいに車をとめたり、ごみのポイ捨て、ライン屑、そんな釣り師に堪忍袋の緒が切れて祟りにきたのかも… 
そぉーいや、夏の夜釣りに来る仲間なんか、北斜面方向に火の玉や怪光を何度も見たって言うし、方向も祠から…
すぁっ  祟りじゃ!! こりゃ祟りにきたんじゃ!! 
って、なんでぼくがそんな迷惑釣り師の代表に選ばれて祟りを受けなければならないの?でもこりゃ祟りじゃーっ!

ますます足はガタガタと振れ、全身までもが震え始めた。

そのものは水面上のラインを一気に駆け抜けると、ぼくが握ってたロッドのグリップにぴょんとひと飛びに飛び乗ってきた。
あまりの恐怖に手が凍りついてしまい、ロッドを投げ捨てたくとも投げ捨てられず、ただ目だけは飛び乗ってきたものを凝視。
それは片膝ついたちいさな人の形をしていた。

『やあ 蛇から助けていただいき、ありがとう。』

そのものは言った。いや口がパクパク動いただけかもしれない。
声みたいなものが頭の中で響いたと思ったらそう理解できたのだ。
そんな声みたいな声じゃ無い声が聞こえたと思ったら、そのものはぴょこんと頭を下げたて、近くの草むらにぴょんと跳ねて姿を隠した。

そう… そのものはちいさな人間だったのだ!
大きさ3cmほど、頭、胴体、手と足。顔には目もあり鼻も口も。ちょっと頭でっかちで足がでっかい三等身ながら、確かに人間と同じ姿。
髪を両耳の脇で結わえ、筒袖にぶかぶかのズボン、そう足首のところでぎゅぅと絞った教科書に載っている埴輪の姿。そして腰には赤い刀に、首には首飾り。
そう神話とか絵本に出てくる神様そっくりお姿だったのである。
そのものは怨霊どころか神様、いや神様の格好をした小人だったのだ!


ぼくもファンタジー系の読みもが好きでよく読む。
子供たちが成人し、結婚するような歳になっても、小人とか大男、神様だとか幽霊・宇宙人、いまだに本屋からそんな荒唐無稽の本を漁ってくる。
つい最近も独身時代に購入した、佐藤さとるさんの『コロボックル』集、いぬいとみこさんの『木かげの家の小人たち』や『暗やみ谷の小人たち』、トルーキンの『指輪物語』を読み返していた。
だがね、好きなだけで、そう読みものとして好きなだけで実際に信じてはいない、一応何事も分別着く大人だと自分では思っている。
だから好きでも実際にはいないと…

それが・・ それがいたんじゃ!!
ぼくの目の前に現れ話した!!

でも姿を見たのはこの時だけ。
以後一度も見ていない。
夢幻、疲れからと言われればそうかもしれない。
暑い中での釣り、熱中症一歩前の幻影と否定されても反論はできない。

でもね、ぼくは見た!
確かに小人を見たんだ!!







尚、以上の話は私のほら話しです。
まったくのうそっ話しです。
例え実際にこの様な池、お話がありましても実在の方々とは関係ありません。
また登場人物・登録名・地名につきまして思い当たる節があっても一切関係は御座いません。
もし似たような地名、地域、登場人物等に心当たりある方には、さきにここでお詫び申し上げますのでご了承ください。