今は春先、朝6時。もう明るくなってないといけない時間ですが、曇ってるせいか、あたりはまだ真っ暗です。ここは野中家の豪邸跡地です。今その敷地内にある平家の前で女性の悲鳴が上がりました。山上静可が守護霊の女性看護師を妖刀キララで切り捨てたのです。女性看護師の身体は霧散してしまいました。それを見てパイロットと学生の守護霊は悔しがってます。
「もうダメだ。結界が破られる…」
室内です。たくさんの霞が発生し、それが1つになり、山上静可の身体になりました。それを見て野中圭子は恐れおののいています。
「ああ…」
野中さんは必至に土下座しました。
「お願い、助けて、私は何もしてないよ。お兄ちゃんがやったことは全部謝るから…」
山上静可は妖刀キララを振り下げました。次の瞬間、野中さんの悲鳴が響きました。
「ふ、やっと本懐を遂げたか…」
「てことは、もうあの世に行ってもいいってことですね」
その突然の声に山上静可が振り返ると、そこには千可ちゃんと千可ちゃんのお母さんが立ってます。
「来たか…」
お母さんははっきりと宣言しました。
「私がこうして五体満足でいられるのは、あなたのお蔭です。感謝してます。でも、私の大事な娘を呪うからには、私もそれなりに対応します」
「ふふ。ならば、おまえも死ぬがよい!」
千可ちゃんとお母さんが厳しい眼で山上静可をにらんでます。山上静可も2人を厳しい眼でにらんでいます。お母さんは山上静可をにらんだまま、千可ちゃんに話かけました。
「行くよ!」
「うん!」
千可ちゃんの右手とお母さんの左手が固く1つに結ばれると、山上静可にその拳を向けました。次の瞬間、その1つになった拳から強烈な白い閃光が放たれました。
「はーっ!!」
山上静可は妖刀キララを振り上げました。
「そんなもん、この妖刀キララでぶった斬ってやるわ!」
山上静可は妖刀キララを大上段に構えると、白い光線が身体に届く寸前、振り下げました。
「てやーっ!!」
が、2人が放った光線は妖刀キララに斬られることなく、山上静可の身体を直撃。山上静可はそのまま光線に吹き飛ばされ、背後にあった掃き出し窓に激突。窓は枠ごと吹き飛ばされ、山上静可の身体は外の地面に転がりました。
「うぉーっ、くそーっ!」
山上静可は立ち上がろうとしますが、なかなか立てません。と、山上静可が見上げると、千可ちゃんが大きく跳び上がってます。両手で妖刀キララの女刀を握りしめ、思いっきり振り上げてます。
「くらえーっ!」
「くそーっ!!」
山上静可はその刀を自分の刀で弾きました。地面に転がる千可ちゃん。しかし、千可ちゃんはすぐに体勢を立て直すと、山上静可に向かってダッシュ。その右手には妖刀キララの女刀が逆手で握られてます。
「てやーっ!!」
千可ちゃんの妖刀キララが山上静可の左胸をえぐりました。
「ぐふぁっ!」
山上静可の身体が膝から崩れ、そして倒れました。千可ちゃんの勝ちです。千可ちゃんは倒れた山上静可に向かって数歩進み、地面に落ちてる妖刀キララを遠くに蹴飛ばしました。
「わ、儂の負けじゃ。一思いに刺せ」
「そんなことできないよ。だっておばあちゃんがいなかったら、お母さんも私もいなかったじゃん。そんな大事な人、なんで私がとどめを刺すの?」
「ふふ、甘いな。儂は本気でおまえを殺そうとしたのに…。
おまえ、一晩かけて母親に身体を治してもらったのか?。儂はおまえの生き霊に斬られて、立ってるのがやっとだったんだぞ。おまえたちが来て早く事を済まそうと思ったが、それはハズレだったか」
ドックン。この時、山上静可の身体に強い衝撃が走りました。
「う…、儂もついにあの世に行く時が来たか…」
「天国に行っちゃうの?」
「バカをいうな。こんなに大量に人を殺した悪霊が天国に行けるか。地獄だよ、地獄」
ふと天上から淡い光が山上静可の身体に降り注ぎました。千可ちゃんは空を見上げました。
「お迎えが来た」
「おお、儂は天国に行けるのか?。神様は儂を許してくれるのか?…」
山上静可の姿が薄くなりました。山上静可は千可ちゃんの顔を見て、こう言いました。
「千可。おまえは母親を恨んでるようだが、それはお門違いじゃ。あいつに人を呪い殺す能力はない。ただの偶然だろ」
「ええ?…」
どうやら山上静可は、千可ちゃんの初体験の相手のことを言ってるようです。千可ちゃんはずーっとお母さんが呪い殺したと思ってましたが、交通事故はただの偶然だったようです。
「さらばじゃ、千可」
そう言うと、千可ちゃんのおばあちゃんは消滅しました。千可ちゃんはそれを見送ってましたが、ふと何かに気づき振り返りました。すると、なんとお母さんが家の中で胸を押さえ、へたれ込んでました。千可ちゃんは慌ててお母さんのところに駆け寄りました。
「お、お母さん!?」
「だ、大丈夫よ。全身の霊力を一気に使ったから、ちょっと心臓に負担がかかっただけ」
お母さんは立ち上がりました。
「あなたが勝ったようね」
「うん」
千可ちゃんは明るく答えました。
「さあ、帰ろ」
と言うと、お母さんは歩き出しました。千可ちゃんは野中さんの死体を横目で見て、心の中でこう言いました。
「ごめんなさい。羽月家の都合で助けられなくって」
さて、千可ちゃんとおかあさんがそのままクルマで家に帰ったかと思えば、実はそうではなく、またラブホテルに行ってました。今度はお母さんの身体がきついようです。ムリもありません。千可ちゃんと手をつないで霊波を撃ったとき、千可ちゃんの身体に一気に霊力を吸われてしまったのです。おまけに、お母さんは昨日千可ちゃんの身体を治すために、かなりの霊力を使ってました。今お母さんの霊力は限りなくゼロ。くたくたなのです。
お母さんはラブホテルの部屋に入ると、すぐにベッドに入り、深く眠ってしまいました。今度は千可ちゃんが添い寝して、お母さんの身体に自分の霊力を注いでいます。
「お母さん…」
深い眠りについているお母さんは、応えることができません。千可ちゃんはかなり心配しています。実は千可ちゃんは、今ものすごく悪い予感がしてるのです。お母さんがこのまま死んでしまう予感にさいなまれているのです。
でも、千可ちゃんもかなり疲れてます。千可ちゃんもすぐに深い眠りについてしまいました。
「千可、千可」
千可ちゃんを呼ぶ声がします。千可ちゃんが目を覚ますと、お母さんは横になったまま目を開けています。
「さあ、行こっか」
お母さんは明るく言いました。もう元気なようです。お母さんから嫌な予感は完全に消えてます。千可ちゃんの心配はただの杞憂だったようです。
「うん」
千可ちゃんは明るく答えました。お母さんがふとベッドの時計を見ると、午後3時です。
「あれ、もう3時なの?。7時間は寝ていたのね」
お母さんがベッドから床に降りました。そのとき、なにげにぽつりと言いました。
「私も死んだら呪い神になっちゃうのかなあ…」
そのセリフに千可ちゃんははっとしました。
「私は死んだらすぐにあの世に行くよ。私は呪い神にはなりたくないから」
「そんなことないよ。お母さんはこの世になんも恨みがないじゃん」
「ふふ、そうね。私はできるだけ幸せになって死ぬ。この世に未練を残さないように。千可も協力してよ」
「うん」
ラブホテルの駐車場のシャッターが開いてます。1台だけ入る駐車場です。そこには羽月家のクルマが駐まってます。今千可ちゃんとお母さんがクルマに乗ったところです。千可ちゃんの脳裏には、さっきのお母さんのセリフが響いてます。
「私は死んだらすぐにあの世に行くよ。私は呪い神にはなりたくないから」
千可ちゃんは思いました。
「お母さん、なんであんなこと言ったんだろ?」
シャッターが上がり切り、クルマが出発しました。
千可ちゃんとお母さんが自分たちの家に帰ってきました。おかあさんはさっそく夕ご飯の用意です。そのまま千可ちゃんとおかあさんはご飯を食べました。2人の間にはいつもの、いや、いつも以上の笑顔がありました。
千可ちゃんはご飯が終わると、自分の部屋に戻り、押し入れからギターを取り出しました。千可ちゃんはずーっとギターを習ってましたが、一緒にギターを習ってた初体験の相手の男の子がお母さんに呪い殺されたので、それを機にギターはあえて触れないようにしてました。でも、今日その男の子の死因がただの交通事故だと知り、久しぶりにギターを弾きたくなったのです。
でも、ギターを手にしたら、ガット弦はボロボロでした。仕方がないから今度はスティール弦のギターを取り出しました。しかし、なんとこっちは弦が錆びてました。
「あは、しょうがないなあ…」
千可ちゃんは明日弦を買うことにし、ベッドに横になりました。千可ちゃんはまだ疲れが残ってるらしく、すぐに深い眠りにつきました。
翌日千可ちゃんはふつーに起き、お母さんはもふつーに起きました。そしてお母さんは朝ごはんを作り、千可ちゃんはそれを食べました。その時お母さんは、千可ちゃんに1つ言いました。
「ねぇ、千可。好きな男の子ができたら、絶対大事にするのよ」
「え、なに、急に?」
「いや、別に…」
お母さんは千可ちゃんにお弁当を手渡しました。
「さあ、もう時間よ」
「うん」
千可ちゃんは学校に行きました。
「行ってきまーす!」
学校です。教室に着くと、さっそく森口くんがやってきました。
「羽月さん、昨日はどうしたの?」
そうです。実は昨日は月曜日、学校がある日だったのです。でも、千可ちゃんはそれに対応する答を用意してありました。
「昨日お母さんが倒れちゃって、大変だったんだ」
「えっ、それって山上静可の呪い?」
この質問はちょっと想定外だったようです。
「そ、それは違うと思うよ」
千可ちゃんは笑顔を見せることで、なんとかごまかしました。
放課後です。オカルト研究部は通常火曜日は活動しないのですが、今日はありました。浜崎さんから城島さんの容体の説明がありました。城島さんの右眼はなんともなかったようです。ただ、お父さんとお母さんが呪い殺されたという事実は、まだ城島さんは知らないようです。そして浜崎さんは部員全員に大きく謝罪しました。
「ごめんなさい、これはみんな私のせいです!」
それを見て、福永さんも、戸村くん、森口くんも、千可ちゃんも慌てました。
「ぶ、部長、そんなに謝らないで!」
「部長のせいじゃないですよ!」
「ありがとう、みんな…」
さっきまで毅然と話していた浜崎さんの声が、いつしか涙声になってました。他のオカルト研究部の4人は何も声をかけることができません。この日を最後に浜崎さんはオカルト研究部を定年退部しました。
オカルト研究部の会合はこれで終了し、千可ちゃんは帰路に着きました。と、なぜか森口くんが一緒にいます。
「あの~、羽月さん、どこに行くの?」
「森口くんて下の名前、なんいうの?」
「え?、和雅だけど」
「それじゃこれからは、和ちゃんと呼ぶね。だから和ちゃんも私のことを千可ちゃんと呼んでよ」
「う、うん」
森口くんは驚くと同時にちょっと期待を持ちました。もしかして千可ちゃんは、ぼくのことを異性と認めてくれたんじゃ…。
千可ちゃんは楽器店に着きました。中に入ると、千可ちゃんはまずエレキギターのディスプレイを見ました。森口くんはそれを傍らで見てます。
「へ~、羽月さんてギターに興味があるんだ」
「ねぇ、羽月さんてやめてよ。千可ちゃんと言って」
「ご、ごめん…」
「私、昔ギターを習ってたんだ。クラシックギターだけどね」
「へ~、今はロックのギターにも興味があるんだ」
「うん」
千可ちゃんはずーっと1つのエレキギターを見てます。
「このギター、いいなあ…」
森口くんがその値札を見たら、高校生にはかなり苦しい数字でした。でも、森口くんは何かを決意したようです。
結局千可ちゃんは、ガット弦とスティール弦を買って店を出ました。
「じゃあね」
千可ちゃんと森口くんが分かれました。森口くんは以前千可ちゃんとかわした濃厚なキスを期待してましたが、残念、それはありませんでした。
「もうダメだ。結界が破られる…」
室内です。たくさんの霞が発生し、それが1つになり、山上静可の身体になりました。それを見て野中圭子は恐れおののいています。
「ああ…」
野中さんは必至に土下座しました。
「お願い、助けて、私は何もしてないよ。お兄ちゃんがやったことは全部謝るから…」
山上静可は妖刀キララを振り下げました。次の瞬間、野中さんの悲鳴が響きました。
「ふ、やっと本懐を遂げたか…」
「てことは、もうあの世に行ってもいいってことですね」
その突然の声に山上静可が振り返ると、そこには千可ちゃんと千可ちゃんのお母さんが立ってます。
「来たか…」
お母さんははっきりと宣言しました。
「私がこうして五体満足でいられるのは、あなたのお蔭です。感謝してます。でも、私の大事な娘を呪うからには、私もそれなりに対応します」
「ふふ。ならば、おまえも死ぬがよい!」
千可ちゃんとお母さんが厳しい眼で山上静可をにらんでます。山上静可も2人を厳しい眼でにらんでいます。お母さんは山上静可をにらんだまま、千可ちゃんに話かけました。
「行くよ!」
「うん!」
千可ちゃんの右手とお母さんの左手が固く1つに結ばれると、山上静可にその拳を向けました。次の瞬間、その1つになった拳から強烈な白い閃光が放たれました。
「はーっ!!」
山上静可は妖刀キララを振り上げました。
「そんなもん、この妖刀キララでぶった斬ってやるわ!」
山上静可は妖刀キララを大上段に構えると、白い光線が身体に届く寸前、振り下げました。
「てやーっ!!」
が、2人が放った光線は妖刀キララに斬られることなく、山上静可の身体を直撃。山上静可はそのまま光線に吹き飛ばされ、背後にあった掃き出し窓に激突。窓は枠ごと吹き飛ばされ、山上静可の身体は外の地面に転がりました。
「うぉーっ、くそーっ!」
山上静可は立ち上がろうとしますが、なかなか立てません。と、山上静可が見上げると、千可ちゃんが大きく跳び上がってます。両手で妖刀キララの女刀を握りしめ、思いっきり振り上げてます。
「くらえーっ!」
「くそーっ!!」
山上静可はその刀を自分の刀で弾きました。地面に転がる千可ちゃん。しかし、千可ちゃんはすぐに体勢を立て直すと、山上静可に向かってダッシュ。その右手には妖刀キララの女刀が逆手で握られてます。
「てやーっ!!」
千可ちゃんの妖刀キララが山上静可の左胸をえぐりました。
「ぐふぁっ!」
山上静可の身体が膝から崩れ、そして倒れました。千可ちゃんの勝ちです。千可ちゃんは倒れた山上静可に向かって数歩進み、地面に落ちてる妖刀キララを遠くに蹴飛ばしました。
「わ、儂の負けじゃ。一思いに刺せ」
「そんなことできないよ。だっておばあちゃんがいなかったら、お母さんも私もいなかったじゃん。そんな大事な人、なんで私がとどめを刺すの?」
「ふふ、甘いな。儂は本気でおまえを殺そうとしたのに…。
おまえ、一晩かけて母親に身体を治してもらったのか?。儂はおまえの生き霊に斬られて、立ってるのがやっとだったんだぞ。おまえたちが来て早く事を済まそうと思ったが、それはハズレだったか」
ドックン。この時、山上静可の身体に強い衝撃が走りました。
「う…、儂もついにあの世に行く時が来たか…」
「天国に行っちゃうの?」
「バカをいうな。こんなに大量に人を殺した悪霊が天国に行けるか。地獄だよ、地獄」
ふと天上から淡い光が山上静可の身体に降り注ぎました。千可ちゃんは空を見上げました。
「お迎えが来た」
「おお、儂は天国に行けるのか?。神様は儂を許してくれるのか?…」
山上静可の姿が薄くなりました。山上静可は千可ちゃんの顔を見て、こう言いました。
「千可。おまえは母親を恨んでるようだが、それはお門違いじゃ。あいつに人を呪い殺す能力はない。ただの偶然だろ」
「ええ?…」
どうやら山上静可は、千可ちゃんの初体験の相手のことを言ってるようです。千可ちゃんはずーっとお母さんが呪い殺したと思ってましたが、交通事故はただの偶然だったようです。
「さらばじゃ、千可」
そう言うと、千可ちゃんのおばあちゃんは消滅しました。千可ちゃんはそれを見送ってましたが、ふと何かに気づき振り返りました。すると、なんとお母さんが家の中で胸を押さえ、へたれ込んでました。千可ちゃんは慌ててお母さんのところに駆け寄りました。
「お、お母さん!?」
「だ、大丈夫よ。全身の霊力を一気に使ったから、ちょっと心臓に負担がかかっただけ」
お母さんは立ち上がりました。
「あなたが勝ったようね」
「うん」
千可ちゃんは明るく答えました。
「さあ、帰ろ」
と言うと、お母さんは歩き出しました。千可ちゃんは野中さんの死体を横目で見て、心の中でこう言いました。
「ごめんなさい。羽月家の都合で助けられなくって」
さて、千可ちゃんとおかあさんがそのままクルマで家に帰ったかと思えば、実はそうではなく、またラブホテルに行ってました。今度はお母さんの身体がきついようです。ムリもありません。千可ちゃんと手をつないで霊波を撃ったとき、千可ちゃんの身体に一気に霊力を吸われてしまったのです。おまけに、お母さんは昨日千可ちゃんの身体を治すために、かなりの霊力を使ってました。今お母さんの霊力は限りなくゼロ。くたくたなのです。
お母さんはラブホテルの部屋に入ると、すぐにベッドに入り、深く眠ってしまいました。今度は千可ちゃんが添い寝して、お母さんの身体に自分の霊力を注いでいます。
「お母さん…」
深い眠りについているお母さんは、応えることができません。千可ちゃんはかなり心配しています。実は千可ちゃんは、今ものすごく悪い予感がしてるのです。お母さんがこのまま死んでしまう予感にさいなまれているのです。
でも、千可ちゃんもかなり疲れてます。千可ちゃんもすぐに深い眠りについてしまいました。
「千可、千可」
千可ちゃんを呼ぶ声がします。千可ちゃんが目を覚ますと、お母さんは横になったまま目を開けています。
「さあ、行こっか」
お母さんは明るく言いました。もう元気なようです。お母さんから嫌な予感は完全に消えてます。千可ちゃんの心配はただの杞憂だったようです。
「うん」
千可ちゃんは明るく答えました。お母さんがふとベッドの時計を見ると、午後3時です。
「あれ、もう3時なの?。7時間は寝ていたのね」
お母さんがベッドから床に降りました。そのとき、なにげにぽつりと言いました。
「私も死んだら呪い神になっちゃうのかなあ…」
そのセリフに千可ちゃんははっとしました。
「私は死んだらすぐにあの世に行くよ。私は呪い神にはなりたくないから」
「そんなことないよ。お母さんはこの世になんも恨みがないじゃん」
「ふふ、そうね。私はできるだけ幸せになって死ぬ。この世に未練を残さないように。千可も協力してよ」
「うん」
ラブホテルの駐車場のシャッターが開いてます。1台だけ入る駐車場です。そこには羽月家のクルマが駐まってます。今千可ちゃんとお母さんがクルマに乗ったところです。千可ちゃんの脳裏には、さっきのお母さんのセリフが響いてます。
「私は死んだらすぐにあの世に行くよ。私は呪い神にはなりたくないから」
千可ちゃんは思いました。
「お母さん、なんであんなこと言ったんだろ?」
シャッターが上がり切り、クルマが出発しました。
千可ちゃんとお母さんが自分たちの家に帰ってきました。おかあさんはさっそく夕ご飯の用意です。そのまま千可ちゃんとおかあさんはご飯を食べました。2人の間にはいつもの、いや、いつも以上の笑顔がありました。
千可ちゃんはご飯が終わると、自分の部屋に戻り、押し入れからギターを取り出しました。千可ちゃんはずーっとギターを習ってましたが、一緒にギターを習ってた初体験の相手の男の子がお母さんに呪い殺されたので、それを機にギターはあえて触れないようにしてました。でも、今日その男の子の死因がただの交通事故だと知り、久しぶりにギターを弾きたくなったのです。
でも、ギターを手にしたら、ガット弦はボロボロでした。仕方がないから今度はスティール弦のギターを取り出しました。しかし、なんとこっちは弦が錆びてました。
「あは、しょうがないなあ…」
千可ちゃんは明日弦を買うことにし、ベッドに横になりました。千可ちゃんはまだ疲れが残ってるらしく、すぐに深い眠りにつきました。
翌日千可ちゃんはふつーに起き、お母さんはもふつーに起きました。そしてお母さんは朝ごはんを作り、千可ちゃんはそれを食べました。その時お母さんは、千可ちゃんに1つ言いました。
「ねぇ、千可。好きな男の子ができたら、絶対大事にするのよ」
「え、なに、急に?」
「いや、別に…」
お母さんは千可ちゃんにお弁当を手渡しました。
「さあ、もう時間よ」
「うん」
千可ちゃんは学校に行きました。
「行ってきまーす!」
学校です。教室に着くと、さっそく森口くんがやってきました。
「羽月さん、昨日はどうしたの?」
そうです。実は昨日は月曜日、学校がある日だったのです。でも、千可ちゃんはそれに対応する答を用意してありました。
「昨日お母さんが倒れちゃって、大変だったんだ」
「えっ、それって山上静可の呪い?」
この質問はちょっと想定外だったようです。
「そ、それは違うと思うよ」
千可ちゃんは笑顔を見せることで、なんとかごまかしました。
放課後です。オカルト研究部は通常火曜日は活動しないのですが、今日はありました。浜崎さんから城島さんの容体の説明がありました。城島さんの右眼はなんともなかったようです。ただ、お父さんとお母さんが呪い殺されたという事実は、まだ城島さんは知らないようです。そして浜崎さんは部員全員に大きく謝罪しました。
「ごめんなさい、これはみんな私のせいです!」
それを見て、福永さんも、戸村くん、森口くんも、千可ちゃんも慌てました。
「ぶ、部長、そんなに謝らないで!」
「部長のせいじゃないですよ!」
「ありがとう、みんな…」
さっきまで毅然と話していた浜崎さんの声が、いつしか涙声になってました。他のオカルト研究部の4人は何も声をかけることができません。この日を最後に浜崎さんはオカルト研究部を定年退部しました。
オカルト研究部の会合はこれで終了し、千可ちゃんは帰路に着きました。と、なぜか森口くんが一緒にいます。
「あの~、羽月さん、どこに行くの?」
「森口くんて下の名前、なんいうの?」
「え?、和雅だけど」
「それじゃこれからは、和ちゃんと呼ぶね。だから和ちゃんも私のことを千可ちゃんと呼んでよ」
「う、うん」
森口くんは驚くと同時にちょっと期待を持ちました。もしかして千可ちゃんは、ぼくのことを異性と認めてくれたんじゃ…。
千可ちゃんは楽器店に着きました。中に入ると、千可ちゃんはまずエレキギターのディスプレイを見ました。森口くんはそれを傍らで見てます。
「へ~、羽月さんてギターに興味があるんだ」
「ねぇ、羽月さんてやめてよ。千可ちゃんと言って」
「ご、ごめん…」
「私、昔ギターを習ってたんだ。クラシックギターだけどね」
「へ~、今はロックのギターにも興味があるんだ」
「うん」
千可ちゃんはずーっと1つのエレキギターを見てます。
「このギター、いいなあ…」
森口くんがその値札を見たら、高校生にはかなり苦しい数字でした。でも、森口くんは何かを決意したようです。
結局千可ちゃんは、ガット弦とスティール弦を買って店を出ました。
「じゃあね」
千可ちゃんと森口くんが分かれました。森口くんは以前千可ちゃんとかわした濃厚なキスを期待してましたが、残念、それはありませんでした。