競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん改15

2014年07月11日 | 千可ちゃん改
 3年2組です。ここには長谷川の部下の1人、今田がいます。今体育の授業中で、走り幅跳びをやってます。生徒たちが1列に並んで順番に跳んでます。その中に今田がいました。
「あ~、めんどくせーなー」
 やっと今田の順番になりました。先生が合図を出しました。
「よーし、次、今田、跳べ!」
「は~い」
 今田が駆け出しました。と、この瞬間、千可ちゃんが右の掌をぐしゃっと握りました。
「死ね!」
 その瞬間、今田の脚がもつれました。
「えっ?…」
 今田が転びました。それを見た担当の先生が、
「おい、今田、大丈夫か?」
 先生が今田に近づくと、今田は泡を吹いてました。その目には生気がありません。
「ど、どうしたんだ、今田!?」
 これをリモートビューで見ている千可ちゃんが、また笑いました。
「へへ、ざまー」

 3年4組です。このクラスには長谷川の子分の柏木と長谷川自身がいます。遠くの方から救急車の音が響いてきました。その音に柏木と長谷川が反応しました、
「ん、救急車?」
 突如1人の先生がこのクラスに飛び込んできて、この教室の先生に耳打ちをしました。するとこの教室の先生は顔色を変えました。
「なに、1組の佐々木と2組の今田が心停止になったって?」
 それを聞いて長谷川と柏木が驚きました。
「なんだって?」
 その瞬間、柏木の心臓がドックンとなりました。
「う!?」
 千可ちゃんが柏木をリモートビューで見ています。千可ちゃんは軽く笑いました。
「はは。次は本気でいくよ」
 千可ちゃんは右の掌を上に向けました。が…、バシッ!。千可ちゃんの頭に突然教科書が降ってきました。それはこの教室の先生の仕業でした。
「こら、羽月、何ぼけっとしてるんだよ!」
「す、すみません…」
 千可ちゃんは心の中で思いました。
「ちぇっ、もうちょっとだったのに…」
 再び3年4組です。柏木の身体が床にごろんと倒れました。
「おい、どうした、柏木!?」
 先生が駆け寄ろうとしましたが、長谷川がその先生を突き飛ばしました。
「邪魔だよ!」
 長谷川はひざをつき、柏木の上半身を抱きかかえました。
「ど、どうしたんだよ?」
「あ…、殺される、殺されるよ…」
 長谷川は立ち上がりました。
「くそーっ…。佐々木、今田、柏木…、次は私じゃん!!。誰だよ、いったい?…」
 と、長谷川は何かに思い当たったようです。
「あっ!」

 千可ちゃんがいる教室です。突如引き戸がけたたましく開き、長谷川が入ってきました。金属バットを担ってます。
「羽月ーっ!!」
「な、なんだ、お前!?」
 その長谷川の前にこの教室の先生が立ちふさがりました。
「うぜーよっ!!」
 長谷川はその先生の脇腹を思いっきりバットで殴りました。
「ぐふぁ!」
 先生は血を吐き、そして倒れました。
「きゃーっ!」
 この教室の生徒たちがパニックになり、教室の外に逃げました。千可ちゃんだけが取り残されてしまいました。いや、わざとその場に残ったようです。長谷川はその千可ちゃんに金属バットを向けました。
「てめーっ、佐々木と今田と柏木をやったろ!!」
「なんのことよ!!」
「しらばっくれんなよーっ!。てめーしかやるやつはいねーだろーよ!!」
「私はずーっとこの教室にいたって!」
「ふざけんなっ!」
 その時千可ちゃんの横から声が響きました。
「千可ちゃん!」
 それは森口くんでした。森口くんは扉の外から中の光景を見ています。森口くんの周りには、この教室から逃げ出した生徒たちが見えます。
「和ちゃん、来ないで!!」
「てめーっ、よそ見すんなーっ!!」
 長谷川が金属バットを振り上げ、千可ちゃんに向かってきました。千可ちゃんはイスを長谷川に投げつけました。
「来ないでっ!!」
 長谷川はそのイスを金属バットで打ちました。イスは教室と廊下の間の壁にぶつかり、破壊されました。
「もーっ!!」
 千可ちゃんはまたイスを投げました。長谷川はそのイスをまた金属バットで打ちました。
「なんだ、こんなもん!!」
 今度はガラス窓にイスがぶつかり、ガラス窓が粉々に砕け散りました。
 長谷川は不敵な笑みを浮かべ、千可ちゃんをにらみました。
「なんだよ、もうおしまいかよ」
 千可ちゃんはここで長谷川を呪い殺そうと考えましたが、気が動転しているせいか、呪うことができません。ただはぁはぁと荒い息をしてるだけです。
「死ねーっ!!」
 長谷川が金属バットを振り上げました。
「チカちゃん!!」
 千可ちゃんが苦し紛れに生き霊を呼びました。するとチカちゃんが長谷川の真後ろに出現。チカちゃんは山上静可が使ってた妖刀キララを大きく振りぬきました。バサッ!。
「ぐきゃーっ!!」
 長谷川が背中を大きく袈裟斬りされました。長谷川の身体は大きくのけ反り、そしてゆっくり倒れました。チカちゃんはいつものように不気味に笑いました。
「ケケケ」
 ワンテンポおいて、チカちゃんは消滅しました。千可ちゃんの危機は去りました。
 しかし、このシーンには大きな問題がありました。チカちゃんは千可ちゃんの生き霊です。霊感がある人にしか見ることができません。でも、今の千可ちゃんは半透明でした。みんなの眼に映ってしまったのです。数人の生徒が小さく騒ぎました。
「な、何、今の?」
「今の羽月さんじゃないの?」
「で、でも、羽月さんはあっちにいるよ?」
「じゃ、今のはいったい?」
 森口くんが千可ちゃんに走り寄りました。
「千可ちゃん!。
 千可ちゃん、今のはいったい?」
「あれは私の生き霊…」
「えっ?…」
 千可ちゃんはちょっとパニックになってるのか、まともに答えることができません。
「気にしないで…」
「気にしちゃうよ!。生き霊っていったいなんなんだよ!?」
「生き霊と言ったら生き霊よ!。生き霊は私よ!!」
「どういう意味だよ!?」
 千可ちゃんは森口くんの度重なる質問にイライラしてきました。そしてついに、あらぬ固有名詞を口走ってしまいました。
「もう、私は山上静可の孫よ。そう言えばわかるでしょ!」
「ええっ!?」
 森口くんは驚きました。毎日ベッドで愛し合ってる女の子が、悪霊山上静可の孫だったなんて…。今度は森口くんがパニックにおちいりました。
「うわーっ!」
 森口くんは後ずさりしました。
「どうしたの、和ちゃん!?」
「来るな、バケモノ!!」
 千可ちゃんに衝撃が走りました。今まで愛して信じてた男が、自分をバケモノと罵ったのです。大きく落胆しました。そして次の瞬間、かーっとして、
「死ねーっ!、森口ーっ!!」
 千可ちゃんは思いっきり叫びました。すると今度は、森口くんの身体に衝撃が走りました。
「うぐっ!」
 森口くんの身体が信じられないくらい大きくのけ反りました。
「うぐぁーっ!!」
 森口くんが倒れました。その眼には生気がありません。千可ちゃんと森口くんの会話を見ていた生徒たちが、パニックになりました。
「うわーっ!!」
「バケモノだ!。逃げろーっ!!」
 みんなが一斉に逃げ出しました。教室の中に残ってる生きてる人間は、千可ちゃんだけです。と、戸村くんが教室に入ってきました。
「な、何があったんだよ」
 戸村くんが森口くんの死体を発見しました。
「森口?…。いったい何が?」
 千可ちゃんがぽつりと返事しました。
「私が呪い殺した」
「え、なんで?」
「私をバケモノって罵ったのよ!。死んで当然よ!!」
「それだけで殺しちまったのかよ?。毎日愛し合ってたんだろ?」
「いいの。私が欲しかったのは森口くんじゃなくって、男の身体だから」
 千可ちゃんは戸村くんに色目を使いました。今度は戸村くんをセックスフレンドにする気です。
「ねぇ、戸村くん…」
 ついに堪忍袋の緒が切れたか、戸村くんはその千可ちゃんを殴りました。
「いい加減にしろ!!」
 千可ちゃんの身体は吹き飛び、壁にしたたかに背中をぶつけました。
「な、何すんのよっ!。あなたも呪い殺されたいの!!」
「ああ、呪い殺すんなら呪い殺せよ!!。オレは1回あんたに呪い殺されてるからな、もう死ぬのは怖くねーよ!!。
 ほんとうに森口を愛してなかったのかよ。ウソだろ、そんなの?。こんなことして、おまえの死んだお母さんが喜ぶのかよ?」
 その発言に千可ちゃんが反応しました。
「お、お母さん…」
 千可ちゃんはお母さんが死んだ日の朝の、お母さんの発言を思い出しました。
「ねぇ、千可。好きな男の子ができたら、絶対大事にするのよ」
「ああ…。
 私、殺しちゃった。和ちゃんを呪い殺しちゃった!」
 千可ちゃんはわーっと泣き出しました。戸村くんは千可ちゃんの両肩を掴み、揺らしました。
「おい、しっかりしろよ!」
「わ、私、どうすればいいの?」
「森口の幽霊をみつけて、身体に戻すんだよ。オレが死んで18時間後にオレを蘇生させたろ。あれをやればいいんだよ!」
「で、でも、和ちゃんの霊、いないよ…。もうあの世に行っちゃったよ!」
「それじゃ、時間だ!」
「ええっ?」
「時間を巻き戻すんだよ!」
「そ、そんなこと、できるわけないじゃん!」
「いや、できる!。あんた、千の可能性のある女だろ?」
「千の可能性のある女…」
 そう言うと千可ちゃんは黙ってしまいました。でも、何かを決意したようです。
「わかった。やってみる」
 千可ちゃんは目をつぶりました。そしてぐちゅぐちゅと何かを唱え始めました。すると、なんと時計が停止しました。さらに次の瞬間、時計がものすごい勢いで逆回転を始めたのです。
 長谷川の殺害も逆回転。今田の殺害も逆回転。佐々木の殺害も逆回転。長谷川たち4人の悪だくみ。太陽は登り、太陽は沈み、昨日の放課後。ここは校舎の屋上です。

 ギターの音色が響いてます。千可ちゃんがガットギターを爪弾いてます。傍らには森口くんもいます。ペントハウスのドアが開き、よう子ちゃんが入ってきました。
「あ、ここにいた。
 先輩、今日は部活はないんですかぁ?」
 千可ちゃんはギターを爪弾く指を止めました。
「うん。オカルト研究部は月曜日と金曜日しか活動してないんだ」
「へ~」
 よう子ちゃんが千可ちゃんのギターに注目しました。
「ふぇ~、ギターですかぁ」
「ほんとうはね、オカルト研究部で弾きたいんだけど、あそこで弾くとうち部長が、うちは軽音部じゃない!、て怒るんだよ」
「だから屋上で弾いてるんですかぁ」
「うん」
 千可ちゃんは再びギターを弾き始めました。
「うわ~、すごいテクですねぇ」
「これ、クラシックギターの練習曲だよ」
 よう子ちゃんは森口くんを見ました。
「先輩てあの男の人といつも一緒にいますねぇ。仲がいいんですか?」
「ま、そんなところね」
「もうエッチしてるんですかぁ?」
 この質問を聞いて、千可ちゃんも森口くんも顔を赤くしてしまいました。
「な、なんでそんなこと訊くのよ!」
「あ~、その反応、もうやってますねぇ」
 ここまでは昨日とまったく同じです。でも、ここからが違ってました。
「やってないわよ!。私たち、まだ16歳よ。何考えてんの!?」
 千可ちゃんは昨日とは違う返答をしたのです。
「あは、そうすかぁ」
 と、千可ちゃんはふと何かを思いつきました。
「あれ?」
「どうしたの、千可ちゃん?」
「あの…、私、和ちゃんを呪い殺しちゃった…」
「ええ~、何言ってんの?。ぼく、ここにいるじゃん」
「おかしいなあ。悪い夢でも見たかなあ?…」
 千可ちゃんは未来の記憶をすべて忘れてしまったようです。でも、深層心理でははっきりと覚えてます。それが証拠に、千可ちゃんは今、180度違う返答をしました。
 人を呪わば穴二つ。この経験が千可ちゃんを大きくしてくれたはずです。

※これで千可ちゃん改は終了です。最後まで読んでくれてありがとうございました。