新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

上方花舞台 final「花の集い」 40年の有終の美を飾る

2023年02月14日 | 源氏物語・浮世絵・古典・伝統芸能
れんちゃん、大阪日本橋の国立文楽劇場にやってきたよ。一年ぶりだね。



文楽人形も…


くいだおれ太郎もマスクをきちんとしていて、えらい?



今日2月8日開演の「日本の文化に親しむ 花の集い」は、40年続いてきた上方文化芸能協会主催の最終公演なんだ。


岡田嘉夫先生のポスターも、これで見納めだね。 
岡田先生はもう新作を描けないから、絵は前回のポスターのものの流用。
「花の集い」の揮毫は、大和屋の女将さんかな?
劇場入口でごあいさつした女将さん、お元気そうでよかったね。 



花道のすぐそばの、最前列の特等席だよ。うれしい? 
お客さんたちも大喜びだったね。
女将さん、上方文化のMさん、Tさんにお礼をいわなきゃね。


開演の口上は、「歌舞伎界のプリンス」尾上右近さん。カレー好きでも有名だね。
この日は別に予定があったんだけれど、なんとか予定をやりくりして、この日の公演に参加できたのだとか。
公演のチラシが届いたのが、公演2か月前を切った12月半ばだったけれど、ギリギリまで日程を調整されていたんだろうね。


finalとなる今回の花舞台も、三部構成。以下、鑑賞メモだよ。


一 手打「七福神と花づくし」(京都 祗園甲部芸妓)
二 長唄囃子連中「高坏」
三 極付(きわめつけ) 歌舞伎絵巻
  『三番叟』
  『阿国歌舞伎』
  『雪』
  『蜘蛛の糸』

一 手打「七福神と花づくし」(京都 祗園甲部芸妓)

ん? れんちゃん、お父さんが今の会社に入る前に作った祇園甲部会のパンフレット、見たことがあるの? 

京都の都をどりは有名だね。大阪にも、かつて北新地、南地、新町、堀江の四花街があって、「大阪をどり」があったんだよ。

しかし空襲がなかった京都と違って、大阪の花街は大阪空襲で全部焼けてしまった。芸妓さんで命を亡くした人も大勢いたろうし、お茶屋の再建も簡単ではなかったはずだ。かつらや着物、三味線などの楽器も、ものすごく値段が張るよ。戦後の大阪の花街の再出発は困難を極めた。

南地の大和屋女将の坂口純久(きく)さんは、芸妓文化、お座敷芸の継承のために奮闘してきたけれど、残念ながら大阪の花街の伝統の灯火は消えかかっている。会社のご隠居さんのお友達にキタのお姉さん方がいるけれど、お年もお年で、今はさすがにお座敷に上がることもないだろう。以前は会場でもお見かけしたけれど、今日はお目にかかれなかったな。

この「手打」(てうち)は,おめでたいときにしかやらない特別な演目だと、最初の口上でいっていたね。祇園の芸妓さんたちが拍子木を打ちながら花道から登場して,舞台では唄,三味線,囃子が演奏に合わせておめでたい言葉をはやしながらあでやかに舞う、上方花舞台最後の舞台の幕開けを飾るにふさわしい演目だったね。

手打は、歌舞伎の顔見世興行で、役者さんが乗り込んできた際に贔屓筋や馴染みのお客が手を打ち鳴らしたことに由来するんだって。ビジネスの交渉事、特に紛争時に和解や取引が成立することを「手打ち」というけれど、これも和解や取引が成立したときに、関係者一同が手を打ち鳴らしたことに由来するのだそうだよ。




二 長唄囃子連中「高坏」

これはコミカルで楽しい演目だったね。

大名が花見に来て、花見酒を飲もうとするけれど、杯を置く高坏(たかつき)がない。地面の上に杯を置けるかと大名が怒り、松本幸四郎さんの次郎冠者が高坏を買いに行かされる。でも、次郎冠者は高坏がどんなものか知らないんだね。「高坏買いましょう」と大声で呼ばわっているところへ、高足(下駄)売りがやってきて、だまされて高足を買わされてしまう、このやり取りが絶妙だったねえ。最後は、お酒も飲み尽くして、酔っ払って下駄ばきでタップダンスを躍るのが最高だったね。会場も笑いの渦だった。

1933年9月、6世尾上菊五郎、7世坂東三津五郎ほかにより東京劇場初演なんだって。意外に新しい作品だね。菊五郎が当時流行し始めたタップダンスに着想を得たんだそうだ。歌舞伎はその時代の最新の流行や文化を取り入れて、新しい生命を吹き込んで、伝統を保ってきたんだね。

ここでいったん休憩。

二階ホールはにぎにぎしいねえ。温かい麦茶をポットに入れてきたから、一階の休憩室で飲もうか。チケットの半券、忘れないでね。



さて、ここからが本日のメーンイベント……って、ボクシングやプロレスみたい? でも、口上の市川九團次さんも「エンターテインメントとスペクタルをお楽しみください」といっていたから、いいんじゃないかな。

さあ、どんな舞台になるだろう?


三 極付(きわめつけ) 歌舞伎絵巻

  『三番叟』(さんばそう)

三番叟は渡邊愛子さん、千歳はこの日の構成・振付の藤間勘十郎さん。

『三番叟』は能の演目で、歌舞伎では幕開けのご祝儀に舞うことがあるそうだけれど、女性が三番叟を務めるのは、めずらしいんじゃないかな。日本舞踊の世界は知らないけれどね。

三番叟を演じたのは、まだお若い人だったね。れんちゃんは『RDG RED DATA GIRL』の泉水子ちゃんや仄香先輩を思い出した? 舞には神の怒りを鎮め、邪気を払い、場を清め福を招く力があるというのが、実際に古典芸能の舞台を観て、お父さんにもわかるようになった。
お父さんはこのお二人を見て、最近読んだこんな短歌を思い出したよ。

舞の手を師のほめたりと紺暖簾入りて母見し日もわすれめや(与謝野晶子)

晶子も藤間流の日本舞踊を学んだそうだよ。この日の公演の帰り、お酒を飲んでいい気分で立ち寄った本屋さんで与謝野晶子『私の生い立ち』を買い求めたのも、ぱっと開いたページに「藤間のお師匠さんは私の家の貸家にいました」という一文が目に飛び込んできたからなんだ。この日観た三番叟を思い出してしまった。この晶子の自伝には、大和屋の名物だったへらへら踊りの話も出てきて、なかなか興味深いものがある。


  『阿国歌舞伎』

阿国といえば、『へうげもの』の世界? れんちゃん、渋いセンスしているね。
お父さんが初めて浮世絵の仕事をしたのは、広重の『近江八景』だったけれど、あの八景のもとになった和歌は、絶対にあの作品に出てきた近衛信尹にちがいないね。
歌舞伎の原点は、いわゆる出雲の阿国の女歌舞伎で、このルーツに返ってみようという趣向だそうだよ。山三(やまざ)は、阿国とともに歌舞伎のルーツといわれる名古屋山三郎のことかな。歴史上の山三は男性だけれど、この演目では女性が演じていた。
しかし出演者リストを見ると、傾城(遊女)が二人で、お付きの禿も二人いるはずが、一人しか出演していなかったね。病気かけがをされたのかな。せっかくの公演なのに、残念だね。

  『雪』

私はこの作品『雪』は明治か大正、昭和の作品かと思っていたんだ。タイトルもシンプルで、モダンな感じがするからね。「雪」の代名詞の武原はんをテレビで観たことがあって、その印象が幼心に鮮烈だったのかもしれない。

しかし天明期の作品で、大坂で活躍した盲人の音楽家・峰崎勾当が作曲したものだと知って、驚いてしまった。『春琴抄』にもつながる世界だね。

尼になった女性が、若い頃芸妓であった頃の恋を「花も雪も払えば清き袂(たもと)かな」と述懐するという内容。この上方舞を代表する演目が選ばれたのも、上方文化40年、万博の大阪踊りから数えたら半世紀以上、上方文化の振興と継承のために孤軍奮闘してきた大和屋の女将さんに贈るはなむけのような気がしたよ。

  『蜘蛛の糸』

早変わりに蜘蛛の糸、ケレン味たっぷりのおもしろい舞台だったね!

主人公は日本を魔界にしようとする土蜘蛛の精。千筋の糸をシュバッ、シュバットと繰り出しながら、源頼光と四天王を倒しに来たよ。さあ、どうなるだろう? お父さんは土蜘蛛を応援するぞ。魔といえばマルクス主義の魔のことだからね。源頼光には越後生まれの酒呑童子も倒されているから、ふるさとの敵なんだ。

この『蜘蛛の糸』は、『土蜘蛛』をもとにしたオリジナル作品なのかな。『土蜘蛛』には狂言師は出て来なかったんじゃなかったかな。

松本幸四郎さんの蜘蛛の精が化けた狂言師が、三つの面で早変わりするのは、4年前、藤間勘十郎さんが義経、弁慶、静、知盛の一人四役を演じた『時鳥花有里』(ほととぎすはなあるさと)を思い出した? 今回も次々とお面を取り替えて、一人三役を演じる早変わりのおかしさに、会場からも笑いが起きていたね。

「ケレン」は漢字で書くと「外連」。歌舞伎の歌舞伎で宙乗り、早変わり・水芸など、見た目重視、受け狙いの演出を「ケレン」というのは、以前出かけた逸翁美術館の浮世絵展「ひゅうどろどろ 怪奇まつり」で勉強したよね。歌舞伎はマジック(奇術)と舞台が一体のものとなったイリュージョンだったんだね。舞台際を意味する「かぶりつき」は、水芸のときに最前列は水しぶきで濡れてしまうので、お客さんに被り物を配ったのがその名の由来というのも、意外だったね。イルカショーみたい?

しかしあの蜘蛛の糸を、パッときれいに繰り出して広げるのは熟練の技だねぇ。和紙をこよって長い糸に仕立てるそうだよ。しかも、あの糸は舞台の上から客席に届くほど長い。3メートル以上はあったと思う。和紙は職人さんが紙を漉く漉き舟の長さ以上の紙は作れないから、何枚も貼り重ねて長さを出しているんだろうね。ものすごく根気の要る作業だ。役者さんもすごいけれど、職人さんもすごい。

この蜘蛛の精と蜘蛛の化身の蜘蛛軍団と、頼光や貞光、平井保昌の対決は手に汗握るスペクタルだったね。会場も感動と興奮のるつぼで、満場の拍手だった。

この「蜘蛛の糸」を観て、東映の『スパイダーマン』が、本家の米国でリスペクトされている理由がよくわかったよ。日本には能の『土蜘蛛』以来の伝統があるから、年季が違う。スパイダーマンの名乗り口上だって、歌舞伎役者そのままだ。私たちは特撮やアニメで、知らず知らずに古典芸能に触れてきたんだなあと思ったよ。

この十五年あまり、源氏物語の仕事に始まって、漫画やアニメ、ライトノベルの文体も駆使しながら、古典を現代によみがえらせるべく私なりに取り組んできた。上方文化の解散で、この仕事にも一区切りかな……と思っていたけれど、丹波の援農の帰りに買ったメーチニコフ『回想の明治維新 一ロシア人革命家の手記』の歌舞伎論が無類におもしろくてねえ。しばらく古典芸能の旅も続けることになりそうだよ。

しかしわれながら、スパイダーマンとかナロードニキの革命家の歌舞伎論とか、あさっての方向からのアプローチだねえ。私のような浅学非才の野人が、上方文化の末席に身を置けたのも、すべては岡田嘉夫先生、柏木先生、事務局のMさんのお引き立てによるものです。ありがとうございました。

大和屋の女将さん、40年の長きにわたり、お疲れさまでした。艶やかで華やかに、上方舞台のまさに有終の美を飾るにふさわしい一日でした。

「始めあれば終はりありの世の習ひ、冀 [こひねが] はくは京洛浪速の文華いやますますの隆盛あらんことを」と柏木先生のお言葉を借りして、この会の成功をお祝いすると同時に、女将さん、ご関係者の皆様、スタッフの皆様のご多幸をお祈りします。


大和屋の女将さん、上方文化のみなさま、長い間、ぁりがとうございました…はぃ!

(初出:2月12日 17時40分46秒)

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