宮崎克×高岩ヨシヒロ『松田優作物語 ハリウッド飛翔編』を読み返す。深作監督も、森田監督も、力也さんも、亡くなってしまったんだね。
吉田喜重監督の『嵐が丘』(笠井潔がノベライズしていたね)で松田優作と共演した田中裕子の追悼エッセイが引用されている。いつ読んでもいい文章だ。
〈 ロケが終わって、松田さんは馬と一緒に僅かに残る日向に立っていた。馬の体をふいてやった手拭いをもってズボンを膝までまくって立っていた。松田優作さんが演じた「鬼丸」を乗せる馬は、気の荒い馬だった。最初は言う事を全く聞かず人間を馬鹿にしているようなその馬を、松田さんは可愛がった。毎日、ずっと世話をしてきた。そして、いつの間にかこうして寄り添うように二人は並んで立っている。いいなあと思った。挨拶の声をかけようと思ったがやめた。邪魔をするような気がした。同じ方を眺めている、同じ心で眺めている、そんな風に見えた、空ばかりが広がる真ん中にポッカリと立っていたその後ろ姿は、静かで優しい風景だった。
そのまま後ろ姿は振り向かないで私の心の中にいる。
あんな確かだった現実がふと幻想だったような気がしてくる。〉
田中裕子(『映画芸術』No.385より)
吉田喜重監督の『嵐が丘』(笠井潔がノベライズしていたね)で松田優作と共演した田中裕子の追悼エッセイが引用されている。いつ読んでもいい文章だ。
〈 ロケが終わって、松田さんは馬と一緒に僅かに残る日向に立っていた。馬の体をふいてやった手拭いをもってズボンを膝までまくって立っていた。松田優作さんが演じた「鬼丸」を乗せる馬は、気の荒い馬だった。最初は言う事を全く聞かず人間を馬鹿にしているようなその馬を、松田さんは可愛がった。毎日、ずっと世話をしてきた。そして、いつの間にかこうして寄り添うように二人は並んで立っている。いいなあと思った。挨拶の声をかけようと思ったがやめた。邪魔をするような気がした。同じ方を眺めている、同じ心で眺めている、そんな風に見えた、空ばかりが広がる真ん中にポッカリと立っていたその後ろ姿は、静かで優しい風景だった。
そのまま後ろ姿は振り向かないで私の心の中にいる。
あんな確かだった現実がふと幻想だったような気がしてくる。〉
田中裕子(『映画芸術』No.385より)