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夢見るシャンソン人形

2023年10月04日 | 映画/音楽
『夢見るシャンソン人形』という曲がありました。

このブログのフォロワーさんの諸先輩方には、リアルタイムでご存知の方もいらっしゃるでしょうが、かわいらしい曲ですよね。

リンリン・ランランの『恋するインディアン人形』(1974年)、伊藤つかさ『少女人形』(1981年)の元ネタのような曲になるのでしょうか。

私はリンリン・ランラン、伊藤つかさは知っていますが、『夢見るシャンソン人形』も、この歌を歌ったフランス・ギャルも知りませんでした。

この歌を知るきっかけは、10年ほど前に読んだ『殺人鬼フジコの衝動』でした。この作品は二度と読みたくない、思い出したくもない「イヤミス」(嫌な読後感しか残らないミステリ)の最高傑作の一つです。

この曲が、サイコパスな連続殺人鬼の物語にどう結びつくのかは、以下の歌詞の内容から、ご想像にお任せします。

フランス・ギャルは1965年、第10回ユーロビジョン・ソング・コンテストで、この歌を歌ってルクセンブルク代表としてグランプリを獲得しました。



 
ギャルはフランス生まれのパリジェンヌのはずですが、なぜルクセンブルク代表だったんでしょう。父親がルクセンブルク出身だったとか、そういうことかな?

この歌は大ヒットし、ヨーロッパだけでなく中南米や日本でも人気を博しました。

日本では1965年8月10日に発売され、1か月半足らずで20万枚を売り上げ、ビートルズやエレキ・ブームの最中に大いに気を吐いたと、ウィキペディアには記されています。

原題の Poupée de cire, poupée de son は、「蝋と音の人形」と訳されることが多いそうです。

フランス語では前置詞 “de” の後ろに(広義の)物質名詞が冠詞なしで置かれる場合、「de+名詞」は「素材・材料」を表す修飾句となるのが普通だということです。

よって、前半の “poupée de cire” はまさに「蝋を材料とする人形、蝋人形」の意味です。

しかし、後半の “poupée de son” は「音を材料とする人形」と解するわけにはいかず、また「音の人形、音の鳴る人形」という意味にもならないそうです。「音の人形」(音の鳴る人形)という意味にするならば “son” に冠詞(通常、定冠詞)を付け、“poupée du son” としなければならないからです。

しかし、この歌の題はあくまで冠詞なしの “poupée de son” です。この場合、“son” は「音」ではなく同音異義語の「ぬか、もみ殻」、広くは「(人形等の詰め物に用いる)木くず」になるようです。つまり、後半の “poupée de son” は「詰め物をした人形」ということです。

よって、タイトル全体は直訳すると「蝋人形、詰め物をした人形」となります。これは、フランス語では「音」と「詰め物(または「もみ殻」)」が同じ “son” であることを利用した語呂合わせでした。脳みそのかわりにあたまにおが屑が詰まったおばかさん、という感じでしょうかね。

こうやってウィキペディアの解説と自動翻訳を頼りに原詩を読んでいくと、邦題の『恋するシャンソン人形』は、タイトル詐欺もいいところです。

「男の子のこと何も知らないのに、わけもわからずに愛を歌う、私は何の意味もないただの蝋人形」という、この楽曲の歌詞のエグさは結構なものがあります。この歌は、若いアイドルが恋愛について歌うのを揶揄する、自虐ソングでもありました。

このほかの歌詞も、相当ひどいです。

「蝋人形は誘惑されるがまま」
「愛は歌のなかだけではない」
「少年たちのchaleur=熱=発情を恐れない蝋人形」

要するに、少年たちはアイドル歌手の歌など聴いておらず、オナペットにしているだけという感じでしょうか。アイドルの自虐ソングを通り越して、ほとんどアイドルと芸能界に対する悪意の領域に達しています。

ポジティブな表現をすれば、未成年を性搾取する芸能界を告発した曲ではあるわけですが、こんな歌を歌わされたフランス・ギャル本人は、たまったものではなかったでしょう。

後年、ギャルは、1960年代には「蝋人形、詰め物人形」の歌詞やタイトルに込められていた二重の意味に気付かなかったと述べ、後年は本作より距離を置き、歌うこともなくなったそうです。そりゃそうだ。

『恋するインディアン人形』や『少女人形』は、こうした元歌の辛辣性、批判性はゼロですが、歌詞の内容は似たようなものですね。おまえらは空っぽなお人形さんでいいんだ、レコードとブロマイド(若い人は知りませんね)だけ売れてくれ。それは、ジャニーズ事務所の性加害問題で明るみになったように、未成年に対する性搾取、児童虐待の問題と表裏一体でした。

この『夢見るシャンソン人形』の話題は、ある絵描きさんの話題の前フリだったんですが、歌詞の解説などで予想外に長くなりました。


この続きはいずれまた。

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