
この絵も鼓の音がポーンと聞こえてきそうだ。ただモデルにポーズを取らせるよりは、動きを重視したらしい。歌舞伎を観ながらでも、芝居を観るよりはスケッチをしている時間の方が長かったのだとか。だから空気とか筋肉の動きとか、人間の一瞬を表すことができるんだなと感心。
簾や蚊帳ごしに透けてみえる女性の絵が良かった。スケスケでキワキワ。これが何とも言えない。

このスケスケ松園(怒られますな)の最高傑作は、「雪月花」のうち「雪」の御簾ごしの女性(清少納言)だろうか。
定子が「香炉峰の雪は如何に」と問うたところ、瞬時に清少納言が白居易の故事に基づき御簾をかけたというエピソードを描いたもの。完成までの半年間は一切の仕事を断り、締め切って塵一つない画室で身を浄めてから取りかかったのだそうだ。
夕暮れ、障子を開けて針に糸を通そうとする女性、障子の穴を補修する女性の絵も印象に残った(幼い頃に見た母の姿が投影されているのだろう)。障子の補修は、模様に見えるように花形。穴の両面から張るので、その分厚くなり、光を通しにくくなる。その紙の白の質感の違いが、また何ともやさしい風合いだった。