新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

ある日のクリニックにて

2022年01月31日 | 健康のことなど

「HbA1Cが6.7か。先月より0.2上がっとる」

ドクターがPCに今月の測定結果を入力しながら言った。

健康体の諸氏には無縁の情報だろうが、HbA1Cは、「ヘモグロビンエーワンシー」と読む。赤血球中の色素であるヘモグロビンのうち、どれくらいの割合が糖と結合しているかを示す値である。ふだんの血糖値が高い人はHbA1c値が高くなり ふだんの血糖値が低い人はHbA1c値も低くなる。「今日は検査だから」と食事を控えると、血糖値を下げることはできるが、HbA1c値は下がらない。逆にふだんがんばっている人は、検査の前日だけドカ食いしてもHbA1c値は上がらない。「血糖値」は「気温」で、「HbA1c値」は「月間平均気温」のようなものだということだ。

しかし私はこの結果が、ちょっと意外で、いささか不服だった。年始のあいさつに書いたとおり、かなり節制を心がけたつもりなのだ。

「下がるどころか上がっていますか? 今月は間食も夜食も、忘年会も正月料理一切なしで、普通に糖尿病食だったのになあ。お餅も2個、お醤油つけずに海苔で巻いただけのを食べたきりです」

「それはえらいな。でも、数字は嘘をつかんで。何か思い当たる節はないか」

「うーん」と、私は振り返った。ある、ある。「あれかなあ。正月に久しぶりに日本酒とワインを飲みました。日本酒4合瓶1本とワイン3本、あと、先週おいしい地酒を若い人にお土産にもらって、知り合いと一緒に1,2合ほどいただきました。あと、あれかな。週イチで通っているおばちゃんの店のミックスモダン」

「あちゃー。ミックスモダンはきついでえ」

全国的にミックスモダンの認知度がどれだけあるかわからないので、いわゆる関西圏外の人のために説明しておくと、ミックスモダンとは、麺入りのお好み焼きである(広島のお好み焼きにも麺が入るけれど、作り方が違う)。お好み焼き定食・焼きそば定食と並ぶ、炭水化物×炭水化物の悪魔のメニューである。

「おばちゃん、ひとりでお店がんばってましてね。応援したいんですよ。ミックスモダンが900円で、いちばん高いメニューなんです」

「良心的な価格帯のお店やなあ。でも、わかっとるやろ。明日からは普通にミックスにしとき。まあ、上がったといっても0.2で、正常値の範囲や。薬はいままでどおりでいこうか。がんばってな」

私が通っているのは、糖尿病の世界では有名な先生で、なかなか予約のとれないクリニックである。

大阪の京橋駅を利用される方々には、20年ちょっと前、駅の広場に、両足を切断した車椅子の男性が、糖尿病の恐ろしさを訴える手描きコピーの新聞を配る啓発活動をしていたのを、覚えておられる人もいるのではないだろうか。手書き新聞を受け取ったときの私は、その人に深く同情しただけだったが、自分が糖尿病の診断を受けたときは、あの人と同じ立場になったことを知り、悄然とした。帰りのスーパーで、好物のあれもこれももう食べられないのかと思って、目の前が暗くなった。

このブログの『毒男のグルメ』というカテゴリは、ボツになった、糖尿病を患う独身男性(=毒男)向けのグルメガイドブックの企画から来ている。

最初に通った病院とは相性が合わなかった。私もやる気がなくて、1年ほどで通わなくなり、数年のブランクの間に悪化した。

私はニコチン依存症をまどマギ依存症で克服したが、その代償が血糖値の悪化だった。映画館でのポップコーン、映画がはける頃にはマクドしか開いておらず毎晩のビッグマックセット、コラボキャンペーンでコンビニで特典がもらえるお菓子の大量購入、クリスマスケーキやバレンタイのチョコ、糖質の大量摂取の結果、半年あまりでHbA1Cは昨年の7台から11.3まで悪化してしまった。そこで再び通うことにしたのが、健保の保健師さんに薦められていた現在のドクターである。

しかし電話して、予約がとれたのは3カ月先だった。その頃できた靴ずれを起こした趾の傷がいつまでも治らず、「このまま壊死するのではないか」と京橋のおじさんを思い出し、さすがにこれはまずいと思った。

「黒さんはやればできる人だから。逆にがんばりすぎるから、ストレスためたらだめよ」と、親しくなった管理栄養士さんにはいわれる。診察を先延ばしにされた私は、3ヵ月間、毎日走り、食事をコントロールした。診察を受ける頃にはHbA1Cを6.5まで下げたのである。これには先生も驚いていた。まあ、グータラだから、その後すぐ元に戻ってしまったわけだけれどね。

その日の診察を終わり、待合で待っていると、管理栄養士さんが慌てた感じで近寄ってきた。

「黒さん、尿酸値が上昇しています」

「なんで?」

これは全く想定外だった。HbA1Cの悪化は思い当たるフシがあったが、尿酸値が悪化するようなことはしていない。ビールも付き合いで1,2杯飲んだ程度で、肉類もおばちゃんの店のミックスモダンの豚バラ肉、あとはサラダチキン程度である。

「水分量が不足しても尿酸値は上昇しますよ。減塩がんばりすぎなんじゃない?」

「それかあ」

前のエントリでは、減塩にはデメリットはないらしいと書いたけれど、そんなことはなかった。就寝中、週に2,3回の頻度で、足が攣るようになった。これは水分不足とマグネシウム不足が原因だという。

糖尿病はかつて「水飲み病」といわれたとおり、以前はよく水分を摂取していた。会社でも1日にペットボトルのお茶や水を5,6本は空け、家でも朝に1リットル、晩に1リットルは水を飲んでいた。

最近、血糖値が安定してからは、水分摂取量はこの半分程度に落ち着いたが、塩分を制限してからはさらに喉が渇かなくなった。家で煮出してボトルに詰めていく麦茶500ccが、退社時にもまだ残っているような日々だった。自然、水分不足になる。これからはいやでも水を飲まねばならない。

ドクターが「8月はHbA1Cも6.0と安定していたのになあ」とつぶやいていたのを思い出した。私も8月は、さしたる努力していた覚えはない。思いつくのは、Hさんにいただいたカモミールティーである。彼女も糖尿病なのだが、カモミールティーを服用したら血糖値が改善したという。効果が本物かどうか、わざわざ1カ月間カモミールティーの服用をやめて検証したところ、血糖値は悪化したそうだ。そして同病相憐れむで、私にも勧めてくれたのである。
ただしカモミールティーは、近所のお店に売っていない。秋以降いただいたストックがなくなってからは、普通に紅茶や麦茶になっていたのが、HbA1cの上昇につながったかもしれない。

けれどカモミールティーは、低賃金労働者にはお高いものだ。業務スーパーの麦茶は1袋で1リットル煮出せ、56袋入で168円だ。カモミールティーは、1袋たった150ccで、25袋しか入っていないのに、1000円を超える。これは辛い。

次善の策が、血糖値の上昇に効果があるとNさんにいただいたことのある桑葉茶である。こちらは近所のドラッグストアで手に入り、568円で、1リットル煮出せるパックが20袋入である。おまけに青汁お試しセットもついてくる。

さあ、来月の結果はどうだろう。桑葉茶にも効果がないようなら、多少お高くともカモミールティーを採用することにする。まあ、高いといっても、お酒とガチャを控えたらいいだけだ(最初からそうすればいい? わかっちゃいるけれどやめられない、だね)

『近代解放運動史研究. 梅川文男とプロレタリア文学』や最近流行りの『荘園』など、正月に読んだ本の感想をまとめようと思いながら、不調が続いている。毎朝出勤して、帰ってくるとグッタリして、酒を喰らって寝てしまう毎日だ。2年前は毎日仕事終わりに映画館に通い、ブログを更新する元気があったのに、自分の衰えぶりに驚いている今日この頃である。



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