先日書いたとおり、『ゆるキャン△』劇場版に行ってきました。
冒頭、松竹のオープニングロゴの富士山が、山梨側から見たものであることに気づきました。これも『ゆるキャン△』で得た知識ですが、静岡側から見た宝永火口がありません。
と、思っていたら、この松竹ロゴの冬の富士山が、赤茶けた夏の富士山に切り替わるところがとてもよかったですね。花火の夜、野クル(のくる/野外活動サークル)とその仲間たちが湖畔キャンプをやっています。チキンをはさんで食べるトルティーヤが、すごくおいしそうです(入場者特典の『ゆるキャン△』13.5巻参照)。進路の話になったのかな。なでしこが、社会人になったら、お金もできて、車の免許も取って、と将来の夢を語ります。リンの夢はバイクに乗って海外でキャンプすること。一升瓶を抱いて爆睡する鳥羽先生=グビ姉。
しかし、この松竹ロゴからアニメの富士山への切り替わりが、あまりにもスムーズで驚きました。「完全に一致」というやつです。松竹によると、この富士山は、世界遺産に登録されたのを記念して、2016年11月、河口湖町の新道峠で撮影されたものだそうです。野クルとその仲間たちは、河口湖花火大会の日に、隣の西湖の自由キャンプ場でキャンプをやっていたのでしょう(facebookにリンクしてくださった方のコメント欄のご指摘によれば、川口湖畔の「夢見る河口湖コテージ戸沢センター」の湖畔テントサイトだということです)。道理で富士山の形が一致するわけです。
そして月日は流れます。
漫画から10年後の世界のようですね。葵の妹のあかりは美大生で、ちくわもおじいちゃん犬です。映画公開記念で芳文社のソーシャルゲーム『きららファンタジア』に実装された「大人リン」のキャラシナリオの題名も、「10年後を想像したら」。27歳、仕事も面白くなってくる頃です。
リンは名古屋の出版社「しゃちほこ出版」に勤めています。表通りに面した10階建てくらいのビルの壁面に設置された袖看板には、この1社しか名前がありません。名のある出版社でもビルのワンフロアというケースが多いのに、これは大手クラスではないでしょうか。しかしタウン誌や観光・グルメといった仕事のラインナップを見る限り、そこまで大規模な出版社とも思えません。『ゆるキャン△』の版元の芳文社浅草橋ビルのように、テナント業もやっているのかもしれませんね。
リンは名古屋市外に住んでいるようです。映画の公式設定では一宮市。どうして名古屋市内にしなかったのかな? リンは終電まで働いたり、大晦日も徹夜していたり、わりとブラックな労働環境です。職場から近いほうがいいに決まっています。
しかし地図を見て気づきました。一宮市は岐阜県の各務原市(かがみはら し)のお隣なのです。これはもう一宮市に住むしかないね。
ついでに、地下鉄の出口の表示が「丸ノ内線」になっていたのは、どういう意図なんだろう? 中の人に合わせて、普通に「東山線」じゃだめだったのかな。大人の事情?……ではなくて、「丸の内駅」だったようです。舞鶴線と桜通線が乗り入れる、名古屋駅の隣の駅ですね。失礼しました。
[この作品を知らない人のための注]各務原はリンの親友で、もうひとりの主人公なでしこの名字です。この作品の登場人物の名字は、東海地方の地名から取られています。ちなみにリンのフルネームは志摩リンです。
最近営業部から編集部に異動したリンのデスクにある企画書のタイトルは「名古屋のおしゃれカフェめぐり」。もう一本、企画があるようですが、うまくまとまらなかったようです。でも、カフェめぐりかー。SNSの時代で、紙媒体でそのテーマは厳しいかも。いまさら、あんこトーストですと? 編集部に異動したばかりで、まだ勝手がわからず、「それっぽい」ありきたりな企画書になってしまったんでしょうね。予想どおり編集長も却下。ちょっと落ち込むリン。まあ、この企画が通ってしまったら、これから後の展開もなかったかもしれないので、結果オーライだよリンちゃん。
その夜、帰宅すると、野クル部長の千明(アキ)から連絡が入ります。
「いま名古屋にいるんだが」
居酒屋に呼び出されるリン。しかしアキちゃん、酒豪ですな。そして酔っ払い方も面倒くさいです。毎日ビール500ml6本入りを買いに来る鳥羽先生に「グビ姉」とあだ名を付けたのはアキのバイト先の酒屋さんの人たちでしたが、グビ姉二代目はアキで決まりのようです
東京でイベント会社に勤めていたはずのアキは、いまは故郷の山梨にUターン転職。山梨観光推進機構のスタッフとして、廃止された少年自然の家の再活用に取り組む日々。スマホで現地の写真を見せられたリンが一言。
「キャンプ場にしたらいいんじゃない?」
「志摩隊員、その話をもっと聞かせてくれたまえ!」
アキはリンの隣の席に座り、肩を抱き、ついでにリンが飲んでいたレモンチューハイを飲み干してしまいます。そしてテンション爆上がりで、「山梨まで!」とタクシーで現地までリンを拉致連行してしまうのです。実はアキも同じことを考え、キャンプ場に再活用することを上司に提案して、内諾は得ていたことが後でわかります。
この急展開がよかったですね。極寒の山中湖の冬キャンで遭難しかけたり、ソーセージづくりに挑戦したり、何かとチャレンジャーなアキですが、さすがに酔っ払っていなかったら、名古屋から山梨までタクシー飛ばそうとは思わなかったでしょう。回想シーンでは、酔いが覚めたらしく、9万円を超えたメーターを見てビビっています。持ってて良かったクレジットカード。
ダイヤモンド富士の名所でもある高下(たかおり)現地に到着したのは5時15分。まだ夜明け前です。少年の家は廃止されて5年、施設は廃墟になっていますが、なぜか自販機は動いています。電気はまだ通じている? 補充やメンテを考えたら、廃墟の公園に自販機を残しておくとは、さすがに考えにくいのですが、リンといえば冷え切った体に缶コーヒーでマッチポンプです。ここは大目に見ましょうね。
アキはベンチで寝てしまいました。風邪をひかないようにという、リンの配慮なのでしょう。次のシーンでは、野クル時代のようにダンボールで包装されているのには笑ってしまいました。ダンボールは廃墟の小屋で見つけたのでしょう。
リンは敷地内をひとり探索。
草が生え放題で、かなり荒れ地化が進行しています。草の枯れ具合を見ると、11月の終わりか12月のようです。公園は階段状になっていますが、元々は棚田だったのかもしれません。しかし丸木の階段は腐っていて、壊れています。スロープを使ったほうが安全。トイレは一応ありますが、水道はもちろん止まっていました。この巨大なジャングルジムのような施設はなんだろう? (後に明かされるその悲しい歴史)
途中、リンは松ぼっくりを拾います。しかし松ぼっくりは、「コンニチハ」と話しかけてくれません。『魔女の宅急便』のラストで、ジジがもう話さず普通の猫のように「ニャア」と鳴いたシーンを思い出して、軽くショックを受けました。もう松ぼっくりはリンに語りかけてくれることはないのでしょうか? そういえば、リンのバイクもおじいちゃんのトライアンフ・スラクストン1200Rに代わっています。あのナイスガイのおじいちゃんに何かあったのでしょうか? 相棒のビーノはどこに?
リンは朝になったら実家に電話をかけて迎えに来てもらうつもりでした。
しかしそこにいきなり現れたのは、車に乗ったなでしこ。
アキはタクシーに乗っている間に、野クルのなでしこ、葵、そして恵那にも非常招集をかけていたのです(もちろん本人は忘れています)。なでしこは東京のアウトドアショップに勤めていますが、週末、姉のさくらの帰省に合わせて、たまたま実家に帰っていたのでした。
「ねえ、鍋をしない?」
三年ぶりに再会したなでしこ、リン、アキの三人が各務原家に行くと、姉のさくらのおみやげの蟹が待っていました。午前中の仕事を終えた、今は小学校教師の葵も合流します。横浜でトリマーをやっている恵那は残念ながら参加できません。
キャンプ場計画を聞いたなでしこはノリノリです。葵も「おもしろそうやな〜」と前向き。リンはいつもの「考えとく」。しかしなでしこの勢いに負けて、チームの一員に加わることになります。恵那からもOKの返事が来ました。野クル、再始動です。
私もこの10年近く、労組の地域貢献事業で、耕作放棄地を再生する事業に取り組んできました。だから荒れ地だった公園が次第にキャンプ場へと再生していく場面は、過去のあれやこれやを思い出して、「胸熱」でした。
キャンプ場もほぼ完成し、野クルと仲間たちは初キャンプを楽しみます。
ところが事態は急展開。ここから先は映画を見てのお楽しみ。
この映画はもう一回見に行くので、ツッコミどころはそのとき披露します。「アキちゃん、そこは甘う考えたらあかん」と、私自身、すでに「キャンプ場、作るズラ!」の一員になっているんですよね。
なでしこが住んでいるのは、富士山の見える多摩川沿いのアパート。映画の設定では、昭島市です。アパートと多摩川からの近さからいって、多摩大橋より下流でしょうか。部屋選びで富士山が見えることは大きなポイントだったにちがいありません。
なでしこのアウトドアショップでの働きぶりがとてもいいんですよね。価格に悩むファミリー連れに、「それならお手頃なものがあります」と自店の商品でなく、向かいの競合店を紹介してしまいます。あくまでもお客さま視点、キャンパー視点。「うちの商品も売ってよね」と苦笑しながらも、「あのお客さん、またうちのお店に来てくれるわ」と、店長はそんななでしこを高く評価しているようです。
そして、ガスランタンを見に来た女子高校生三人組。
なでしこが高校生の頃、アルバイトをしてお金をためて買ったあのガスランタンによく似た商品です。「火をつけましょうか」とチャッカマンで点火するなでしこ。ランタンの明かりに見惚れる女子高校生たちを、笑顔で見守るなでしこ。
あの日のなでしこも店員さんにガスランタンに火をつけてもらっていましたね。このシーンを見ているうちに、なぜだか涙が溢れてきました。強いていうと、かつての自分と同じことをしている若者を見つめる娘を見守る父親の視点なのですが、それだけではちょっと説明しきれない何かです。
『ゆるキャン△』は、このガスランタンの揺れる炎のように(あるいは焚き火、映画冒頭の湖の水際に打ち寄せる波のように)、いつまでも飽きずに見ていられる作品です。初めてBlu-rayを見たとき、私は一晩で全話を繰り返し2回見たものです。
今日の発見。関西弁で「考えとく」は「NO」なのですが、リンの場合は結局「YES」なんですね。この言葉を聴いたときのなでしこの嬉しそうな表情。
れんちゃん、『ゆるキャン△』楽しかったね!