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真冬という時期も災いした。
その年の冬は例年にない厳しい寒波で雪の降る日が多く、積雪記録を何度も更新していた。
庭の死体は冷蔵庫内で保存されているように腐敗が抑制される一方、屋内ではエアコンの暖房によって妻の腐敗が進行した。
だが、近隣の住民に届いていたのはいつものドブ川の臭いで、別の異臭に気付いたのは冬も終わりに近づき、暖かい日が続いた頃。
不審に思った隣人が垣根の隙間から男の死体を発見、警察が駆けつけ妻の死体も発見に至り、町内は大騒ぎになった。
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天板全体に積もった埃の上を手形が無数に付いていた。
「手の跡じゃねえか」
ダンダがつまらなさそうにそっぽを向く。
「うん。それがなんで付いてんのかなと思ってさ」
奇妙に感じているババクンの口ぶりに、
「そりゃ、管理人とか不動産屋とか、いろいろ出入りするからだろ」
ダンダはすでに興味を失い、物色を再開した。
「そうだよ。これがネズミの足跡とか蛇の這った後だったら、ちょっと怖いけどね」
チャメがふふふと笑う。
「キモイこというなよ」
エイジはチャメを肘で突いた。
「でも、ここに入った時、長い間人の出入りがないなって感じなかったか?
なのにこの指の跡くっきりしてるんだよね。上に埃も積もってないし」
ババクンは目線を上げたり下げたりして、手形を何度も確かめている。
「あっ、ほんとだ」
「もう、キモイこと言うなって。怖いだろ」
「やっぱ、エイジは怖がり屋さんだ」
「ち、違うよっ」
小突き合いしている二人にダンダがライトを当てた。
「お前ら、いつまでごちゃごちゃやってんだ」
「ダンダはどう思う?」
「ふん。ふたりともババクンに騙されてんだよ」
「ちょっ、おれ、ここ全然触ってないよ」
ババクンが慌てて否定したが、ダンダはにやりと顔を歪め、エイジもチャメも疑いの眼差しを向ける。
「ほんとだって。信じてよ。そんないたずらなんてしない――ぷっ」
我慢できなくなったババクンが「ったく、ダンダは騙せないよ。この二人なら完璧だったのにさ」と吹き出した。
「ひっどお」
チャメが頬を膨らませる。
「おいっ、これ見ろ」
次にダンダが声を上げた。
「もういいよ」
エイジとチャメが同時にツッコみ、ババクンが笑った。
「見ろって」
ライトがソファ横のカーペットを照らす。浮かび上がるのは人型のどす黒い染みだった。乾いて褪せてはいたが気味の悪さは十分だ。
「うわぁ、キモっ」
チャメがエイジの後ろに隠れた。
「ここが幽霊屋敷っだっつーのわかる気がするな。まあ、これも誰かのいたずらかもしんねえけど」
ダンダがしゃがみ込み、染みを興味深げに眺めている。
「なあ、なんか腐ってるような臭いがしないか?」
エイジがかすかに漂うカビや埃以外の臭いにやっと気付いた。