ライフ&キャリアの制作現場

くらし、仕事、生き方のリセット、リメイク、リスタートのヒントになるような、なるべく本音でリアルな話にしたいと思います。

131.串うち3年焼き一生(75再掲)・・・今。

2020-06-06 16:27:43 | 時代 世の中 人生いろいろ
一時期、客足が途絶えて閉店していた店に、6月に入ってようやく客が戻ってきた。店主に笑顔が戻った。でも、このまま回復して行けるのか、沈痛で不安定な日々がまた戻ってくるのか、まだ見通せない不安もあるのだろうが、それを抑えて、仕事ができる喜びをかみしめるかのように黙々と串に向き合っている姿に胸を打たれた。

 5月下旬に立ち寄った時には、思いつめた表情で給付金や助成金等の申請手続きをしていた。連休明けに店を開けてみたが客が来ず、再び店を閉めていたとのことだった。街中には、テイクアウトに注力していた店も多くあったが、それをしなかった。焼きたて、できたての串を食べてもらいたいという思いからだった。融通が利かないと言えばそうなのかもしれないが、自分のやり方を貫こうとした職人のプライドとみれば共感できる。

 アルバイトが注文を取ったり料理を運んできた時の声。客の話し声、笑い声。今は、きちんと対策をしたうえで予約客しか入れていないようだが、かつての常連や良い客が戻ってきているようだった。この姿勢をブレずに貫けば、客がより良い店にして行くのだろうと思う。

 店主自身がこの苦境の中で改めて気づいたであろう職人としてのプライドと、客への配慮と感謝の気持ちが、その姿勢から伝わってくるようで、私も客の一人として安堵した。カウンターの片隅で、こちらまで来るはずのない串焼きの煙が目に沁みた、気がした。

<以下、当ブログ75回「串うち3年焼き一生」再掲>
近所のよく行く焼き鳥屋の店主を甘く見ていた。年の頃は、40歳くらい。短髪に中肉中背で、いつも胸に店名が入った黒のTシャツを着て、無愛想ではないが黙々と焼いている。目配りは行き届いていて客の注文も聞くしアルバイトに適切な指示もする。すいている時は常連客の話し相手もするが、大体は店に入る時と帰る時の挨拶か注文くらいしか直接言葉は交わさない。もともと焼き鳥屋で働いていて、独立して10年らしい。値段はそれほど高くないし、味もいい。好きな店である。

 「まじめにがんばっているから繁盛しているのだろうが、この先いつまで毎日飽きずに鳥を焼き続けるのだろう。」「焼き鳥なら1年も修業すればそれなりの仕事はできるだろうし、もっといろんな商売をすれば儲かるかもしれないのに。」などと、自分の仕事柄店主の将来やキャリアに対する余計な心配が頭に浮かんだこともある。

 「串打ち3年、焼き一生」。たまたまある人から、焼き鳥屋の苦労話を聞いた。鶏肉を切って焼くだけの単純に見える仕事だからこそ、実は難しさや奥深さがあると言う。炭火加減、焼き加減、塩加減など、ちょっと間違うと商品としての出来が大きく変わってしまうらしい。だから手だけでなく目も耳も鼻も使う。また、お客様に満足してもらうにはそれなりの接客態度も欠かせない。すし職人と同様、一生を賭けるくらいの覚悟と努力で「焼き鳥職人」を目指すべきとのことである。
 
 そんな話を聞いてから、店主に対する見方が変わった。店主にとって、お客さんに喜んでもらう事や儲けも大事なことだろうが、それよりも「職人技を究めたい」というこだわりの方が強いのではないか。「焼き鳥職人」になるという夢の途中で、日々真剣勝負をしているのではないかと。

 これもまた余計な想像かもしれないが、そんなことを想わせる魅力と味がその店にはある。

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