都会から地方への移住を希望する人が増えているという。コロナ禍の影響で働き方や暮らし方の価値観が変わって移住を考え始めた人もいるらしいが、その大半はまだ大都市圏の近県や周辺市町村への移住のようだ。
私は学生時代とサラリーマン時代を通算して約10年東京にいた。若い頃は都会への憧れもあったし、大都会の魅力や利便性も多少は知っているつもりだ。
しかし、今は東京へ出張して単発的な仕事をしたいとは思っても、住みたいとは思わない。それは、地元にUターンして長く仕事をして、人とのつながりや地元への愛着ができたからだと思う。また、特にこの1年余は、都会のメディアから発せられる一方的一面的な情報について、「東京は日本の首都だけど、日本の一部に過ぎない」と思えば気が楽で、仕事や生活にも何ら支障がないことがはっきりしたからだ。
最近は仕事を通じて、移住者の方々と会う機会が増えた。移住と聞くと、定年退職後に好きなことをしたくて移住したとか、若い家族が都会から自然豊かな田舎に移住してゆとりある生活を始めたというような希望に満ちたイメージもあるが、現実はそれほど甘くも楽でもないことが多い。移住の形は、Uターン、Iターン、Jターンといろいろあるが、中には様々な理由で仕事の再スタートや人生のリセットを求めて、縁もゆかりもほとんどない所へ移住する場合もある。
移住される方の多くは下調べや準備をして来られるが、実際に来てみて不安や戸惑いが増す場合がある。移住の前後で「三つのS」の違いが大きいと、そうなりがちなのだろう。
Speed・・・スピード感の違いのようなもの。例えば、仕事の依頼や問い合わせに対するレスポンスの速さなど。
Scale・・・規模観や水準の違いのようなもの。例えば、生活水準、物価、買い物の際の店の選択肢や品ぞろえの数など。
Society・・・地域社会の慣習や人づきあいの違いのようなもの。例えば、個人やその家族等のプライバシーに対する関心や関与の程度など。
移住地でどのような暮らしをするのも個人の自由だが、もし移住に違和感を感じるようであれば、この「3S」について捉え方を変えてみたり、移住した目的を思い出してみると、何かヒントが見えるかもしれない。または、「郷に入っては郷に従え」と合わせられるところは合わせたり、「住めば都」と割り切ることができるようになれば、少し楽になるのかもしれない。
ある移住者の方が言っていた。「移住担当の行政窓口は、移住する前は親切で歓迎モードだったが、移住が決まった後は住み家や仕事探しも人づきあいもご自由にどうぞって感じで無関心。来るまでに住む所見つけて、来てから仕事探して、生活リズムの変化に慣れるまでが大変だった。」と。
こういう点に、行政の縦割りの問題があるのかもしれない。キャリアコンサルタントとしては、この隙間を埋めて、定住につなげる役割を担えたらと思う。具体的には、移住者の方を本人の希望や価値観を尊重しながらも、何らかの仕事を通じてコミュニティーにつなぐことかと思っている。そして、一個人としても「移住してよかった」と思ってもらいたいと願っている。