ライフ&キャリアの制作現場

くらし、仕事、生き方のリセット、リメイク、リスタートのヒントになるような、なるべく本音でリアルな話にしたいと思います。

138.人力車

2020-09-26 09:59:14 | 仕事 キャリア ライフキャリア
 夏が過ぎ、キャンペーンが始まり、連休中は本県の観光地も大分賑わっていた。つい最近まで観光スポットに並べて展示されているかのようだった人力車も出払っていた。半纏に地下足袋姿の車夫の中には女性もいる。赤いひざ掛けをした客を載せて、そぞろ歩く人々の中をゆっくりと進み、坂道では上りも下りもしっかりと舵棒を握り足を踏ん張っている。客や周囲の安全に目配りしているのだろう。もちろん、屋外での仕事だから冷暖房など無い。

 車夫は、ただ人力車に客を載せて引いているだけではないようだ。引きながら客と会話をしている。周回コースの説明だろうか。客に合わせた雑談だろうか。時折、観光スポットでは車を止めてその魅力や歴史のガイドもしている。写真撮影にも応じる。言葉づかいも態度も丁寧だ。前を向いてマスクもしているので、声の大きさにも気を使っている。やはり、客に快い思い出を作ってもらいたいのだろう。

 こうして見ると、車夫の仕事は肉体労働であり、運転手であり、接客・サービス業でもある。体と頭を使って、安全で快適なサービスを限られた時間の中で一人の力で実現しようとしている。「おもてなし」をしていると言っても良い。客に対して、ほとんど背中や後頭部を見せたままのおもてなしというのも珍しいと思うが。

 人力車は、客を載せて動き始める時や一度止まってまた動き出す時に最も力がいる。昔、物理の授業で習った最大摩擦力のせいだ。しばらく停滞していた経済・社会活動も動き出しの時は様々な反発や摩擦もあったが、ようやく動き始めた。さらに加速させるために、来月から各種キャンペーンも始まるようだ。動いている時でも、摩擦力はかかるのだから、動かせる時は動かしたらいいと思う。これまでの経済・社会の安全や快適な暮らしについても、十分ではなくとも動きながら考えて、できることからしてきたこともあるのだから。

 一見単純に見える仕事の方が、実は奥が深いし必要なこともある。久しぶりに動いている人力車を見ていて、人が人にサービスをする光景はあたりまえではなかったと思いながらも心温まった。そして、時が来たら動かせるように経済や社会を支えてきたエッセンシャルワーカーと呼ばれる人々のことを想うと、胸が熱くなった。
 
 固い地面を踏み締める車夫の足袋を見ていて、地に足をつけた仕事やくらしの大切さに思いを馳せることができた。
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137.シニアに敬意

2020-09-04 07:46:49 | コミュニケーション・人間関係
 年に何度か一緒に仕事をするいわゆる「高齢者」世代の先輩は、とてもお元気だ。非常勤で若者を対象にしたキャリア研修の講師をされている。夏でもスーツにネクタイが基本。長時間、背筋を伸ばして立ったまま。時々、教室内を動き回る。大きな声で丁寧に進めながらも、社会人の先輩として厳しいことも言う。若者からすれば、祖父母のような年齢で、元々大企業の部長職まで勤めた方なので、ギャップや威圧的に感じたりすることもあるかもしれないが、非常勤講師という立場や役割をわきまえた物腰を貫いていると思う。

 一方、残念な先輩もいる。同じく「高齢者」世代で、キャリア支援関連の仕事をしているのだが、いまだに元の会社の役職の感覚が抜けていない。一見紳士的な外見ながら、時代錯誤の偏狭な価値観が変わらない。それでいて他人のキャリアについてアドバイスする立場だから厄介だ。自らの立場や役割が変わっているという自覚がないから、相手の拒絶感や周囲の注意も気にならない。ハラスメントや差別的発言と取られかねない一方的な発言も、むしろ「アドバイスしてやってる」という勘違いが甚だしい。早く引退した方がいい。

 最近、元気で物腰を低くして、仕事や社会活動などをライフワークとして続けている人生の先輩には、敬意を感じるようになった。驕らずヘリ下らず。周囲への配慮はあるが、皆に好かれようとも思わない。残された人生、無理せずできるだけ長くやりたいことができればいい。やるからには、人と協力しながら、自分らしく精一杯責任もってやり続ける。できなくなったら、引き継ぐか早く身を引く。そんな生き様へのあこがれからだろう。

 一緒に仕事をした帰り、一回り以上年上の先輩から先に「今日はおつかれさまでした。」と労いの声をかけられた。何気ないやり取りだったが、ふと自分はもっと謙虚にならねばと感じた。まだまだ若輩者だと自覚した。


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