11月5日、米テキサス州フォートフッド陸軍基地で起こった痛ましい事件。銃乱射によって13人が犠牲になった。負傷者は30人に登っている。無法なイラク・アフガン戦争を9年間も続けてきた米国が抱える病巣を浮かび上がらせた恐るべき事件である。多くのメディアが、容疑者に対して同情的であり、起こるべくして起こった事件として報じている。
陸軍少佐の精神科医、ニダル・マリク・ハサン容疑者は、戦争で精神疾患に陥った帰還兵をケアし再び戦闘可能な状態に戻して戦場に送り込むという過酷な任務に就いていた。その担当軍医が起こした銃乱射・大量殺人事件である。親族は、「容疑者は軍病院の精神科医としてPTSDなどを抱える兵士らの治療を担当していたため、海外への従軍のおぞましさを毎日のように聞かされていたと」述べているという。しかも彼自身にアフガニスタンへの派遣命令が出され、行くかどうか悩んでいたらしい。イスラム教徒で「周囲の米兵に嫌がらせを受けていた」という報道もある。
※米基地銃乱射 PTSDなどの精神医療、軍内部に偏見(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/world/news/20091107k0000m030093000c.html
※銃乱射:米兵、精神面の負担増 陸軍自殺率は最悪(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20091106k0000e030043000c.html
容疑者はウォルターリード陸軍病院で研修を受け、そのまま精神科医として兵士のカウンセリングを担当し、今春、フォートフッド基地に異動した。ウォルターリード陸軍病院は、負傷帰還兵の治療の拠点であり、その劣悪な衛生・治療環境が大問題になったこともある。フォートフッド基地は、イラク・アフガン戦争に派遣される際の出撃基地であり、戦闘準備をさせるための兵士の精神的ケアの拠点である。これらは、ドイツのラムステイン空軍基地、ランドスツール米軍病院、ワシントン州ルイス陸軍基地のマディガン陸軍病院、カリフォルニア州の退役軍人病院にある国立PTSDセンターなど、米軍全体に張り巡らされた“兵士再生システム”の重要な一部をなしている。
今年5月には、戦場であるイラクの首都バグダッドの米軍基地内カウンセリング施設で治療中の米兵が銃を乱射し、医師ら5人を射殺した。この事件も深刻であったが、数多くの「戦場の悲劇」の一つとして闇に葬ることは可能であった。だが、今回は米国内で、しかも兵士たちの治療をする軍医が、精神的に追い詰められている深刻な状況にあることを明らかにしてしまった。11月7日の朝日新聞朝刊には、イラク従軍経験者の精神科医の証言として、兵士たちの過酷な戦場体験を聞くうちに、自らも「二次的トラウマ」に陥ってしまうという経験を語っている。彼は、容疑者が「突然キレた」というものではなく、また、精神的病でもなく、根底には深い憤りと嫌悪があり、それは軍に対するものかもしれないし、個人に対するもの、戦争に対するものかもしれないなどと憶測している。この精神科医は2度イラクに派遣されているが、「2度でたくさんだ。3度目は考えたくもない」と派兵への強い拒絶を示した。まさに“兵士再生システム”が陥っているわなと言うべきだろう。
・PTSDなど精神的な疾患を抱える米兵は増え続け、基地内の医療施設などはカウンセリングを求める兵士であふれている。
・マレン米統合参謀本部議長は「兵士の複数回派兵の問題が問われている」と指摘した。
戦闘の長期化で人員不足を補うため、国防総省は兵士の従軍期間を従来の1年から15カ月に延長している。休息期間も2年から1年に短縮した。さらに除隊希望者に1年前後の延期を求める措置「ストップ・ロス」を適用し強制的に従軍させ、拒否した兵士は医療保険や学費補助などを受給する権利を奪うという制度を作った。
・フォートフッド基地には、イラクとアフガンの戦争に計4回派遣された兵士もいるという。国防総省によると、2008年時点でイラク駐留米兵の約6割が2回以上の戦地赴任を経験。このうち3度目の派遣となった兵士では約4分の1がPTSDの症状を抱えていた。
・国防総省の控えめな調査でも今年に入ってから陸軍兵士の自殺は134件に上り、ベトナム戦争以降で過去最悪となった昨年の143件を更新する見通しだ。
今回の事件は、米軍が、9年目に入ったイラク・アフガン戦争を自らの能力を超えて継続し、兵士たちに多大な犠牲を強い、無理に無理を重ねて米国社会全体に重い負荷をかけてきた現実を明らかにしている。米軍はこれまでの戦争で直面したことのない脳損傷(TBI)やPTSD激増の事態に対してようやく研究を開始したのだが有効な手だてなどあるはずがなく、上で述べたように、兵員の損失を従軍期間延長や休息期間の縮小という“人海戦術”によって取り繕っているに過ぎない。要するに兵士を消耗品として戦地に送り続けているのである。アフガニスタンの人々は日々、そのような米軍の掃討作戦の犠牲になり、また、抵抗闘争を闘っている。
※米兵脳損傷:装備も無力、爆風で頭蓋ゆがむ 研究者が報告(毎日新聞)
http://mainichi.jp/photo/archive/news/2009/09/10/20090910k0000e030076000c.html?inb=yt
※米国:兵士の脳損傷の研究「初期段階」 統合参謀本部議長(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/world/news/20091106k0000m030091000c.html
このほかにも、米のアフガニスタン戦争継続の限界を物語る事例が集中して出てきている。国連職員600人のアフガンからの退避方針は、人道支援活動さえ不可能にしている米の侵略戦争の非人道性を明らかにしている。
カルザイ政権の不正選挙と疑惑のままの大統領再選は、アフガニスタン戦争そのものの大義を喪失させる決定的な原因の一つとなっている。
※カルザイ大統領自ら汚職摘発を=アフガン政府正当性に懸念-米軍制服組(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009110500582
※国連600人アフガン退避へ、支援活動停滞の恐れ(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20091105-OYT1T01200.htm
この事件は、米と同盟国内での厭戦気運、反戦気運をますます高めるだろう。これ以上犠牲者をだしてはならない。オバマは、アフガンからきっぱりと手を引くべきである。鳩山政権は、アフガン戦争とアフガン政権へのいかなる支援・援助もやめるべきである。
※7割がアフガン撤退望む=死者増大で厭戦気分-英調査(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009110601033
※[パンフレット]戦争と人間性とは相容れない ――米帰還兵の問題から学ぶ――(リブ・イン・ピース☆9+25)
http://www.liveinpeace925.com/pamphlet/pamph_war_humanity.htm
(ハンマー)
陸軍少佐の精神科医、ニダル・マリク・ハサン容疑者は、戦争で精神疾患に陥った帰還兵をケアし再び戦闘可能な状態に戻して戦場に送り込むという過酷な任務に就いていた。その担当軍医が起こした銃乱射・大量殺人事件である。親族は、「容疑者は軍病院の精神科医としてPTSDなどを抱える兵士らの治療を担当していたため、海外への従軍のおぞましさを毎日のように聞かされていたと」述べているという。しかも彼自身にアフガニスタンへの派遣命令が出され、行くかどうか悩んでいたらしい。イスラム教徒で「周囲の米兵に嫌がらせを受けていた」という報道もある。
※米基地銃乱射 PTSDなどの精神医療、軍内部に偏見(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/world/news/20091107k0000m030093000c.html
※銃乱射:米兵、精神面の負担増 陸軍自殺率は最悪(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20091106k0000e030043000c.html
容疑者はウォルターリード陸軍病院で研修を受け、そのまま精神科医として兵士のカウンセリングを担当し、今春、フォートフッド基地に異動した。ウォルターリード陸軍病院は、負傷帰還兵の治療の拠点であり、その劣悪な衛生・治療環境が大問題になったこともある。フォートフッド基地は、イラク・アフガン戦争に派遣される際の出撃基地であり、戦闘準備をさせるための兵士の精神的ケアの拠点である。これらは、ドイツのラムステイン空軍基地、ランドスツール米軍病院、ワシントン州ルイス陸軍基地のマディガン陸軍病院、カリフォルニア州の退役軍人病院にある国立PTSDセンターなど、米軍全体に張り巡らされた“兵士再生システム”の重要な一部をなしている。
今年5月には、戦場であるイラクの首都バグダッドの米軍基地内カウンセリング施設で治療中の米兵が銃を乱射し、医師ら5人を射殺した。この事件も深刻であったが、数多くの「戦場の悲劇」の一つとして闇に葬ることは可能であった。だが、今回は米国内で、しかも兵士たちの治療をする軍医が、精神的に追い詰められている深刻な状況にあることを明らかにしてしまった。11月7日の朝日新聞朝刊には、イラク従軍経験者の精神科医の証言として、兵士たちの過酷な戦場体験を聞くうちに、自らも「二次的トラウマ」に陥ってしまうという経験を語っている。彼は、容疑者が「突然キレた」というものではなく、また、精神的病でもなく、根底には深い憤りと嫌悪があり、それは軍に対するものかもしれないし、個人に対するもの、戦争に対するものかもしれないなどと憶測している。この精神科医は2度イラクに派遣されているが、「2度でたくさんだ。3度目は考えたくもない」と派兵への強い拒絶を示した。まさに“兵士再生システム”が陥っているわなと言うべきだろう。
・PTSDなど精神的な疾患を抱える米兵は増え続け、基地内の医療施設などはカウンセリングを求める兵士であふれている。
・マレン米統合参謀本部議長は「兵士の複数回派兵の問題が問われている」と指摘した。
戦闘の長期化で人員不足を補うため、国防総省は兵士の従軍期間を従来の1年から15カ月に延長している。休息期間も2年から1年に短縮した。さらに除隊希望者に1年前後の延期を求める措置「ストップ・ロス」を適用し強制的に従軍させ、拒否した兵士は医療保険や学費補助などを受給する権利を奪うという制度を作った。
・フォートフッド基地には、イラクとアフガンの戦争に計4回派遣された兵士もいるという。国防総省によると、2008年時点でイラク駐留米兵の約6割が2回以上の戦地赴任を経験。このうち3度目の派遣となった兵士では約4分の1がPTSDの症状を抱えていた。
・国防総省の控えめな調査でも今年に入ってから陸軍兵士の自殺は134件に上り、ベトナム戦争以降で過去最悪となった昨年の143件を更新する見通しだ。
今回の事件は、米軍が、9年目に入ったイラク・アフガン戦争を自らの能力を超えて継続し、兵士たちに多大な犠牲を強い、無理に無理を重ねて米国社会全体に重い負荷をかけてきた現実を明らかにしている。米軍はこれまでの戦争で直面したことのない脳損傷(TBI)やPTSD激増の事態に対してようやく研究を開始したのだが有効な手だてなどあるはずがなく、上で述べたように、兵員の損失を従軍期間延長や休息期間の縮小という“人海戦術”によって取り繕っているに過ぎない。要するに兵士を消耗品として戦地に送り続けているのである。アフガニスタンの人々は日々、そのような米軍の掃討作戦の犠牲になり、また、抵抗闘争を闘っている。
※米兵脳損傷:装備も無力、爆風で頭蓋ゆがむ 研究者が報告(毎日新聞)
http://mainichi.jp/photo/archive/news/2009/09/10/20090910k0000e030076000c.html?inb=yt
※米国:兵士の脳損傷の研究「初期段階」 統合参謀本部議長(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/world/news/20091106k0000m030091000c.html
このほかにも、米のアフガニスタン戦争継続の限界を物語る事例が集中して出てきている。国連職員600人のアフガンからの退避方針は、人道支援活動さえ不可能にしている米の侵略戦争の非人道性を明らかにしている。
カルザイ政権の不正選挙と疑惑のままの大統領再選は、アフガニスタン戦争そのものの大義を喪失させる決定的な原因の一つとなっている。
※カルザイ大統領自ら汚職摘発を=アフガン政府正当性に懸念-米軍制服組(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009110500582
※国連600人アフガン退避へ、支援活動停滞の恐れ(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20091105-OYT1T01200.htm
この事件は、米と同盟国内での厭戦気運、反戦気運をますます高めるだろう。これ以上犠牲者をだしてはならない。オバマは、アフガンからきっぱりと手を引くべきである。鳩山政権は、アフガン戦争とアフガン政権へのいかなる支援・援助もやめるべきである。
※7割がアフガン撤退望む=死者増大で厭戦気分-英調査(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009110601033
※[パンフレット]戦争と人間性とは相容れない ――米帰還兵の問題から学ぶ――(リブ・イン・ピース☆9+25)
http://www.liveinpeace925.com/pamphlet/pamph_war_humanity.htm
(ハンマー)