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なかなか勝てない馬がいる。今日もその馬が走る。
がんばれ、と声が出る。
まなざしは、ゴールの先を見つめている。

南極越冬記 西堀栄三郎著

2020年10月04日 09時23分26秒 | 読書・文学
昭和33年7月31日 第1刷発行 岩波書店

第一次越冬隊、南極リュツォウホルム昭和基地、1957年2月15日~翌2月24日
11名の生活記録

持ってきたカナリヤは良い声で鳴いてくれる

接岸地から昭和基地までは、距離も長いし、非常な難路である。
犬の食料が流されたので、アザラシの肉で補充しなければならない。

宗谷停泊地・氷山デポから荷物を運ぶ

幅1~3mの氷の割れ目・クラック
アザラシの重量・350キロもあった。

4月20日頃から8月20日までは冬篭りだ。

19頭の犬に天秤棒をかついで、餌をやる。雪の中から現れてきて、うれしそうに吠える。

百葉箱

こんなブリザードの日でも野糞をしに行く豪傑がふたりもいる。

いまある油の保有量は53400リットル。毎日の消費量は80リットル。

氷原における最大の難関は、数知れぬパドルであった。
パドルとは、海氷面の上にできた水たまりである。

東西のオングル島

1929年から35年にわたり、ノルウェーは三回の南極探検をやった。
そのとき、このあたり一帯の上空を飛んで、航空写真測量をやった。
そして、海岸、山、岬、島、氷河などに、片っ端からノルウェー語の名前を付けていったのである。


この地方の露岩は、どこも同じような片麻岩からなっている。
露岩が出ているところには、ほとんどに池がある。南極には川はない。
これらの池には塩分の強いのと真水のようなのとがある。

「ジロー」と「シロ」は先に帰って頭をなでてもらっている。
今日から犬の訓練をはじめる。
ソリ犬たちは、長い航海の間に、北海道で受けた訓練をすっかり忘れてしまっていた。
というより、こんな大氷原を走る訓練は、はじめから受けていなかったのだ。訓練はやり直しである。

今夜もマージャンをやっているらしい。恐らく毎晩やることだろう。

ソリというものは、マイナス20℃以下になると、きしんで、すっかり滑りが悪くなってしまう。
その点、テフロンは比較的低い温度まで耐えるようだ。
しかし、持ってきた犬ゾリの半分は、氷と一緒に流れてしまった。もう補充がきかない。
イギリスやノルウェー隊は、過去に豊富な経験をもっているし、ハスキー系の強いソリ犬も容易に入る。
わが国では、経験もないし、犬も集めにくいので、犬ゾリ隊の編成には、大変な困難があった。
白瀬中尉の探検隊のそれは、カラフト犬だた。アイヌ人が犬係りとしてついて行った。
その後、樺太は日本の領土でなくなったので、犬を集めるとすれば、北海道でさがすほかなかった。

いきなり30名の人を越冬させるというのは非常に危険だ。
それよりも、ごく少数で、しかも困苦欠乏に耐え得る、訓練のできた人間がまず行って、試してみることが必要なのだ。
とりあえず観測ということは従にして、ともかく生きてこれるかどうか、
また日本の機材が耐えられるかどうか試してみることだ。
食料・衣料すべてのものについて、どのくらいの量が実際必要なのかということも、なんにもわかっていないし、
日本が割り当てられた付近が果たしてどんな気象なのかもわからない。
だいたい、人数が多ければ安全で、少なければ危険だという命題はまったく成り立たない。

食堂名は「珍々亭」
夕食は皇帝ペンギンを食う。食える。
水の貴重な基地では器物は水をつけてちり紙でふき取るだけだ。
中野ドクターは、アザラシの解剖からペンギンの剥製まですべて彼の仕事である。
南極では映画が何よりの楽しみで、基地には17本がきていた。

朝の朝食は、普通トーストにミルク、ジュース、オートミール、いろいろと加工した卵の大皿
昼食は和食
時にはウドン、ソバ
基地では、決して酒類は他人にすすめない。深酔いする者はいない。
夜、オーロラがものすごい。磁極心から次第に近づく。頭上で乱舞。荘厳で素晴らしい。

ボツンヌーテン山

当初からみんなの間に多少考えの一致しないところがあった。
それは、越冬目的である。

犬はアザラシが大好物だ。
アザラシを見つけた犬たちは、必死にブレーキをかけても止まろうとしない。

8時間42キロ、重量450キロ、犬は元気だ

犬ソリは重量260キロの総重量。
15頭の犬で引く。

南風の微風に「立体砲弾型」の雪がちらほら降ってきた。顕微鏡でみる。

「ベック」が腎臓炎でついに死んだ。
14時頃「リキ」が突然帰ってきた。さすがは名犬である。犬たちの体重を測る。平均値は変わらない。
この間相当な労働をしたのだが、食糧を豊富に与えたからであろう。

旅行のときの食事は、一日分を一袋に入れてある。いわゆるレーション・システムである。
犬には、旅行中はペミカンを食わす。
これは肉類・野菜などを脂肪とともに乾燥させたもので、非常に軽量で栄養価がある。
どの極地探検隊もこれを使っている。

朝起きてみたら「ヒップ」と「アンコ」の二匹を除いて、あとはみな帰ってきた。
ヒップは帰ってこなかった。

ここは宇宙塵の研究に非常に好都合な場所である。

ピッチブレンド:せきれいウラン鉱

猫の「タケシ」が今朝感電して瀕死だという。
「シロ」の子は10匹生まれたが、二匹死んだらしい。
母親のシロが人間を近づけないので、まだ確かなことはわからない。

このピッチブレンドを「ガイガー計数管にかけた。ガーガーいう。確かにウラニウムだ。

リュツォホルム湾付近には2種類のペンギンがいる。
1つは体も大きく歩き方も威風堂々としている皇帝ペンギン
もう1つは、体は小さいがすばやく、好奇心の強いアデリーペンギン。
ペンギンは冬眠しないことを初めて知った。
彼らは逃げるとき、雪の上を腹ばいになって後ろ足で雪を蹴り、ヒレのような前羽で、ボートのオールのように雪をかいて、
とても速やかに滑る。人間が走ってもなかなか追いつけない。特に下りになったら、スキーで滑り下るくらいだ。
追い詰められて、もうかなわぬとなると、そのうちの一羽が、ガーガー鳴いて威嚇する。人間の足に嚙み付く。

10月中旬頃からもう冷凍肉がなくなって、毎日、缶詰や乾燥品ばかりだ。

サントリーがなくなり、濃縮ウイスキーをたらふく飲む
捕まえたペンギンが卵を産む!
久しぶりにトウモロコシを食べたが、まずくなっている。冷凍品はもう全部ダメだ。
ペンギンのルッカニー、寝ているのは全部卵を抱いている。卵焼き、うまい!

非常に風化した花崗岩質片麻岩
幸いにペンギンが二匹きた。さっそく犬の食料になる。

12月11日、今日は「宗谷」がケープタウンを出航する日だ。

夜、野外でトウゾクカモメの焼き鳥会をやる。
アザラシのレバー以外は缶詰ばかりだ。食事に変化がない。
夕食はコンビーフのスキヤキ。

荷物は300キロ来た。次の越冬隊のための食料の第一便である。
何だ、この荷物は?なんということだ。みんなウイスキーじゃないか、しかもすごく上等のやつだ。
ウイスキーなんかは、最後でいい。それを一番最初に持ってくるとは、なんということだろう・・・・

「宗谷」は厚さ1.5m以上の氷は割れない

「あきらめよう」ついに昭和基地は空き家になった。そして、犬たち!




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