高熱隋道 新田次郎著

高熱に強いダイナマイトの研究・製造を火薬類の専門家に依頼することに決定した。
一人は東京帝国大学の火薬研究室へ
愛知県知多半島にある日本油脂株式会社へ
山口県厚狭（あさ）の日本火薬株式会社へと、三方に散った。

エボナイト製の管
岩盤とダイナマイトの間の熱伝導を遮断

ある工事がはじまるとき、その予算案の中の雑費という項目には弔慰金に該当するものが必ず組み込まれている。
死はあらかじめ予定されている事柄である。

結論として、雪崩にあうとたちまち折れてしまう黒部峡谷に多くみられる高山性松科のオオシラビソ（別名青森トド松）の群生地や、大きな樹木の生い繁った森をひかえた森をひかえた地点が最も安全性が高いということになった。そして、それらの樹齢を調べることによって、その樹齢年数だけは間違いなく雪崩が発生したことがないという判断をくだすことができた。
いずれも付近の傾斜地は、樹齢300年から500年のオオシラビソや欅、ブナなどの巨木が密生している所ばかりだった。

坑道内で口笛をふいたり歌をうたうことがまず禁じられている。
山の霊を呼び覚まし踊り狂わせて、それが落盤となってあらわれるという。
また女の体を連想させる言葉も禁句で、妻が子供を産んだ人夫は、或る一定期間入坑を遠慮しなければならない。

「行方不明者が84名だ」

五階建ての鉄筋コンクリート宿舎は、一階を残しただけで、その内部の人間84名とともに完全にその姿を消してしまったのだ。

「そうです、ホウ雪崩です。ホウ雪崩で宿舎が吹き飛ばされたんです」
爆風は、音速の３倍、毎秒１０００ｍ以上の速さをもつ可能性も生まれる。
底雪崩はゴォーと底に響くような音がするが、泡雪崩は爆発音のような音を発するのが特徴だ。
泡雪崩は気温の低下する明け方に起きる。
オーストラリアでは、一村すべてが空中に舞い上げられた記録すらあるという。

自然には、何万年、何億年の歳月の間に形づくられた秩序がある。さまざまに作用する力が互いに引き合い押し合いして生まれた均衡が、自然の姿を平静なものに見せているのである。
土木工事は、どのような形であろうともその均衡を乱すことに変わりない。
火薬で隧道を掘り進むことは、長い歳月保たれてきた自然の秩序に人間が強引に挑むことを意味するのだ。