われが副長助勤・井上源三郎がゆく。そそっかしくてお人好し、好奇心旺盛でおせっかい焼きの源さんは、つい事件をかぎつけては、こっそり首を突っ込んでしまう。平隊士・中村久馬、監察・尾形俊太郎もいつしかひきずりこまれて…。気鋭の作家による市井派新撰組小説誕生。
新撰組副長助勤・井上源三郎ははたらき者のあにき分、持ち前のお節介・好奇心に火がつき、様々な事件にでくわし、かけずり回る事に
「ああ、この薬はツガルだったそうだ」
元々阿片は西欧では酒や紅茶などに溶かして飲んでいたが、清人はそれを煙草のように吸引した。
日本では古くから津軽藩が芥子を栽培し、芥子坊主から収集した生阿片を煮詰めて丸薬に混ぜ込み、
「一粒金丹」の名で売り出していたから、阿片のことを「ツガル」という隠語で呼ぶようになった事情がある。
ちなみに阿片の純度の低い「一粒金丹」自体に強い幻覚作用はなく、こちらは強壮剤として使用されてきたものだ。
最初はおそらく只のような値段で試させるのだろう。
いったん中毒にしてしまえば、禁断症状から逃れるために、客は出せるだけの金を惜しまないようになる。
匕首(あいくち)が光っている。
源三郎も鯉口を切る。
「金平糖は芥子の種に砂糖をまぶして作ってあるんですよ。大丈夫ですよ、種にツガルの効能はありません」
総司の言う斉藤とは副長助謹・斉藤一のことだ。
天才剣士と呼ばれる総司と比べても遜色のない腕前の持ち主だ。
流派は一刀流で、この時代には珍しい左利きだ。
剣に生きる新撰組の内部は日に日に過酷になってきている。
卑怯な態度や臆病な素振りを見せた隊士が、次々と粛清されていってる。
新撰組は敵に倒された隊士より、内部粛清で首を打たれて死んだ男の数の方が圧倒的に多かった、と言われている組織だ。
ちなみに鰻は関東と関西では調理法が違っており、武士の多い東は切腹を連想させる腹開きを嫌い、背開きで焼く。
逆に商人が多い西は腹を割って話をすることが大切だからと腹開きにして焼く。
新撰組には死に番と呼ばれる制度がある。
斬り合いのときに真っ先に飛び込むものがもっとも死ぬ確率が高くなる。
その役目を新撰組では順番で回すことにしていたが、それを死に番と呼んでいる。