922『自然と人間の歴史・世界篇』新型コロナウイルスとその起源そして免疫(議論の紹介)
○1月9日、中国の専門家チームが、新型コロナウイルスの検出を公表した。
○3月6日、ポンペイオ米国務長官が、インタビューで、「武漢ウイルス」との呼称を使用した。
○3月12日、中国外務省報道官が、ネット上で、「感染症は米軍が持ち込んだ可能性」とツイートした。
○3月31日、中国国家健康委員会は、新型コロナウイルスに感染しながら症状のない「無症状者」の数を、4月1日から新たに計上すると発表した。この措置は、無症状者を介した感染拡大が言われる中で、方針転換したものだという。
それというのも、このウイルスとは初めての遭遇であり、まだわかっていないことの方が多いと伝わる。
そんな中でも、症状なのに感染する(逆にいうと、感染者の少なからずが無症状のため、市中での区別が難しいのだという。)のが、このウイルスの特徴の一つだと追々わかってきた。
上咽頭、上気道の浅いところでの感染が指摘されており、その影響もあるというのならややわかるものの、感染の詳しいメカニズムはまだ十分には説明されていないのではないか。
それまでの中国政府は、「無感染者が感染を広げる確率は低い」として、数字の公表からはずしていたというのだ。
それでも問題は多々あるようで、続けてこう報道されている。「国家衛生健康委員会は31日、当局が把握している無症状者が「30日までに1541人を数え、うち205人が外国からの入国者だ」と明らかにした。一方、香港紙サウスチャイナ・モーニングポストは、中国の政府統計に入らない無症状者が2月末で4万3千人以上いたと報じている」(4月1日付け朝日新聞)という。
○4月14日、ワシントン・ポストの紙面にて、武漢ウイルス研究所を視察した米当局者が、「安全対策が不十分」と指摘したという。
要するに、武漢の初期症例は市内の海鮮市場に関連するというのが、米科学担当の外交官が指摘したことらしい。だが、その場合の「安全上の懸念」とは何だろうか。
こちらは、ウイルスなど生物由来物資を取り扱う研究所は、様々な形で安全対策に違反する可能性があるというのであろう。
具体的には、研究所に誰が入れるのか、要員としての科学者や技術者がどういう訓練を受けているのか。それに、内部監査にも通じる記録の取り方、標識の付け方、病原体の在庫リスト、事故対応の訓練、緊急対応」などが、安全基準違反の原因になり得る。ということなので、概ね、ISOの環境規格でのような試験所要求事項があるのは、容易に想像できよう。
これらの論点整理から、BBC放送は、「端的に言えば、ワシントン・ポスト記事からは、分からない」(2020年4月18日付けBBCニュースジャパン)という。同感だ。この段階で、いちいち管理運営がおかしいというのなら、多くの試験所が「ダメ出し」になりかねない。
一方武漢の初期症例は市内の海鮮市場に関連するのでは、と言われていた。ここでも、BBCは、「しかし、外交公電にかかれた懸念点は、特筆すべき異例のものだったのだろうか。」と、逆に問いかけ、次いで、こう述べている。
「これまでも事故は起きている。2014年にはワシントン近郊の研究センターで、天然痘ウイルス入りの小びんの入った段ボール箱が放置されていたのが見つかった。2015年にはアメリカ軍が誤って、死んだ炭疽菌サンプルの代わりに生きたものを、国内の9カ所の研究所と韓国の軍事基地に送りつけていた。
また、BSLレベルの低い多くの研究所では、安全基準がまちまちだという。小規模の安全違反は特にニュースにもならない。」(同ニュース)
○4月22日、パスツール研究所がレポートをウェブ上で公開した。その解説によると、フランスの人口の 5.7% (レンジ: 2.3 - 6.7)が新型コロナウイルスに感染と推定されるとのことだ。入院のリスクは 2.6% (80歳以上の男性は 31%)、致死率は 0.5% (80歳以上の男性は 13%)ということで、入院率と致死率は年齢と正の相関関係が認められるとのこと。
他者に感染させるのがどれ位かという意味でのR0 (実効再生産数)は、 3.3 からロックダウン後は 0.5 に低下しているとされ、かなり改善したことになっている。
それから、「集団免疫には 70% が必要だから、第二波を懸念」ということになっているようだが、これだと、これからは長い時間をこのウイルスと付き合うことになりそうだ。
それに、同研究所としては、免疫があったとしてもどのくらいそれが持続するのか、どのくらいの免疫ができたらそのことがいえるのかなどについては、どのような見解なのだろうか。
○3月末から4月3日にかけての報道の中には、次のような「集団免疫」を巡るものがある。
それというのは、オランダでは、欧州全体に感染者が拡大しだした3月半ばに、緩い規制を続ける中で、なんとか国内に集団免疫を目指した態勢を敷いて、この危機を乗り切りたい。
そこでの旗降りを演じたルッテ首相は、こう説明したという。
「これからしばらくの間で、大半のオランダ人がこのウイルスに感染する。感染した人はその後ほとんど免疫を持ち、集団免疫が大きいほど、リスクの高い高齢者や健康状態のよくない弱者にウイルスが広がる確率が減る。」
これに対しては、国内で批判が殺到した。例えば、自由党のウィルダース党首は、こう追及したという。
「国民の健康でロシアンルーレットをするようなものだ。」
これは「まずい」と思ったのか、ルッテ首相はこう言い換えたという。
「集団免疫は目的ではなく、今の対策の結果、付いてくるもの」と。
さらに3月31日には、それまでと真逆のことを言い出した。
「国民の皆さんができる最良のことは、自宅にとどまっていることだ」と。
○集団免疫を目指せ、という、国レベルでの話は、イギリスでもあったらしい。
ジョンソン首相が国民に言っていたというのだ。これについては、3月12日の段階では、確認された死者が8人にとどまっていたこともあってか、集会自粛などの要請を見送った、と勘ぐられている。
では、そのときの政府の首席科学顧問はどうしていたのだろうか。その人は、「大多数の人は感染しても軽症だから感染を完全に抑えず、集団免疫を築くことが狙い」だとしていたという。
これに対してメディアなどは、「政府は多くの犠牲が出るのを許容した」と受け取り、この戦略に対する批判を展開した。
国内では、疫学者らによる「規制を強めなけれはピーク時に集中治療の病床の8倍の患者が押し寄せ、死者は25万人」に上りかねない、との試算の発表があった。
このような展開並びにその後の思わぬ感染拡大に驚いたのではないか、イギリス政府は、集団免疫という言葉を封印し、学校の一斉休校や罰則付きの外出制限など対策を強化する。
○4月30日、トランプ大統領が、武漢ウイルス研究所を発生源と証拠を見たと発言した。
○5月25日、中国の武漢ウイルス研究所の石正麗研究員が、今回の未知のウイルスとの遭遇について、専門家の立場からこう述べたと伝わる。「遺伝子配列を調べ、我々が知っているとのウイルスとも違う未知のものだとわかった。」「伝染病の研究は透明性を持ち、国際的に協力してあけねばならない。」「政治と科学が混ざり、科学が政治化されている。全世界の科学者が望んでいないことだ。」
そして、こう紹介している。
「新型ウイルスの起源について、海外で「武漢の研究所から流出した」との説が流布され始めた2月、石氏は自らのSNSで新型ウイルスは自然由来のものだと主張。」(朝日新聞、2020年5月28日付け)
(続く)
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