サラ☆の物語な毎日とハル文庫

探偵・佐々木が子供のころに遭遇した不思議な出来事

 

 

「僕はね、小学校三年のときに幽霊と話をしたことがあるんです

僕と仲良しだった女の子が、風邪をこじらせて高熱を出し、突然亡くなってしまった。

それを母から聞いた三日後のことでした」

佐々木生真面目な表情で語ったのは、こんな話。

 

当時九歳だった佐々木少年が眠っていると、「起きて」と女の子から声をかけられ、腕を揺すられた。

目を覚ますと、三日前に死んだと聞いたサツキが立っていた。

真夜中のはずなのに、学校に行くときの格好をしている。

 

「どうしたの、サッちゃん」と佐々木が寝ぼけて言うと、「ちょっときて」と言う。

「やだよ。眠たいもん」

そう答えると、「いいからきて」と腕を引っ張る。

 

佐々木少年は仕方なく起き上がり、サツキの引っ張るほうについて行く。  

 

気がつくと、いつのまにか家を出て、外を歩いていた。

スニーカーを履いていたと記憶している。

 

しばらく歩いて、自分たちは公園のほうに向かっているんだとわかった。

街灯は点いているが暗い夜道を、サツキに先導されて歩くと、公園にたどり着いた。

 

誰もいない夜の公園は静まり返っていて、昼間とはまるっきり違う場所みたいだ。

といっても不気味さはない。

 

二人は公園の一番奥にあるイチョウの木のところまで行った。

 

サツキはそこで立ち止まり、佐々木の腕にかけていた手を離した。

そして、佐々木のほうを向いてこう言った。

 

「この木の根元に、埋めたの」

「何を?」

 「おばあちゃんからもらったネックレス。


わたしがもらったのに、ママが取り上げたの。

まだ持っているのには早すぎるって。

だから、ママの引き出しから勝手に持ち出して、缶に入れてここに埋めたんだ。

だけど、そんなことしちゃいけなかった。

 

ママがずっと泣いてる。

ママにあげるって言いたいんだけど、ママには聞こえないの。

健ちゃん、ここに埋まっているネックレスを掘り出して、ママに渡して。

でもって『ママにあげる』って言ってほしいんだ。

『ママもパパも大好き』って言ってほしい」

 

「うん、わかった」と佐々木少年が頷くと、サツキは「ありがとう。お願いだよ」と言った。

 

「サッちゃん、死んだんじゃないの」

佐々木少年が聞くと、「死んだよ」と言う。

「だけど、まだサツキでいられるんだ。

ちょっとだけ。

健ちゃん、ネックレスのこと、絶対忘れちゃだめだよ」

 

「うん」とうなづくと、サツキの姿が見えなくなった。


 

「サッちゃん、どこに行ったの」

あたりをキョロキョロ見回してサツキを探していると、

はっと自分の部屋のベッドの中にいることに気がついた。

 

まだ朝は早かったが、すでに夜は明け、あたりは明るかった。 

 

佐々木少年はすぐにパジャマをぬいで服に着がえ、家を出た。

庭にころがっていた母親の庭仕事用のスコップをもって公園に行った。

 

公園はそう遠くはない。

季節は秋で、イチョウの葉っぱもほんの少し黄色く変わり始めていた。

 

公園に着くと、佐々木少年はサツキの言った場所をスコップで掘ってみた。

 

ブランコとか滑り台からは木を挟んで反対側の根元で、そこをスコップで掘っている姿は、

公園の中心からは木に隠れて見えない。

 

佐々木少年が根気よく掘っていると、ビニール袋に幾重にも包まれた、

ディズニーの白雪姫の図柄の、円いキャンディー缶が出て来た。

 

ビニールを破いて中を見ようかと一瞬迷ったが、少年はそのままサツキの家に持っていくことにした。

 「ママが泣いてるから」というサツキの声が聞こえたような気がしたのだ。

 

サツキの家は公園の近くのマンションだった。

二階に上がってドアのブザーを押す。

誰も出てこない。

まだ寝てるのかなと思い引き返そうとすると、ガチャンとドアが開いた。

 

サツキの母親が泣きはらした目で佐々木少年を見た。

少年は黙って土にまみれたビニール袋に入った缶を、サツキの母親のほうに差し出した。

「これ、サッちゃんがママに渡してって」

 

サツキの母親は、魅入られたように袋を受け取ると、ビニールをやや乱暴に、

それでも破らないように気をつけてはがした。

ビニール袋は三重になっていたので少し時間がかかった。

 

それからやっと袋から缶を取り出すと、佐々木少年のほうを見てから、缶を開ける。

ビニールに覆われていたおかげで、サビてもおらず、きれいなままだった。

 

蓋は意外にもすっと開いた。

中に入っていたのは、ティッシュを敷いたうえに渦巻くように置かれた、

きれいな真珠のネックレスだった。

 

サツキの母親は、ワーッと声を上げると体を折ってその場にしゃがみ、号泣した。

「サッちゃん」

 

父親が何事かと部屋から起き出してきて、佐々木少年とサツキの母親を見た。

「おいどうした。いったい、どうしたの」と妻と少年の両方に声をかけた。


「健ちゃんが、サツキのネックレスを持ってきてくれた」

サツキの母親は、絞るように声を出して言う。


サツキの父親は「まあいいから、中に入って」と言うと、

妻を立たせ、佐々木少年の手をとって部屋に引き入れた。

 

「ほら座って」とソファのところに連れていかれた。

泣き崩れるサツキの母親は置いておいて、佐々木少年の話を聞こうとする。

 

「健二くん。どういうことか、教えてくれないかい」

無精ひげを生やして、これもまたやつれた顔の父親が聞いた。

 

そこで佐々木少年は、事の成り行きを事細かに話した。

サツキの母親も泣き止んで、話に耳を傾けた。

二人とも呆けたような顔をして健二を見ていた。

 

それから、「そのイチョウの木のところに案内してくれ」と父親に頼まれ、健二は二人を連れて公園に行った。

イチョウの木の根元にはまだスコップが転がっており、穴は掘り返したままになっていた。

 

「健ちゃん、サツキは『死んだけど、まだちょっとだけサツキでいられる』って言ったのね」

「うん」

 

「じゃあ、サツキはいまここにいる?」

「わかんない。見えないもん。

でも確かにサッちゃんは、『ママにあげる』って伝えてねと言ってた」

 「そう」と佐々木の母親は不思議そうに頷いた。

 

「ママもパパも大好きだって」

 

サツキの父親と母親は、顔を見合わせて黙っていた。

慈愛に満ちた平和な空気が二人を包んだ。

 

その後のことはよく覚えていない。

ただ、大人たちはそのことをサツキの両親と佐々木少年の両親の間の秘密にしておくことにした。

だから妙な騒ぎにはならずにすんだのだ。

 

大人になって探偵稼業を営む佐々木は、のときのことを忘れない。

いま見えている現実の背後に、見えない世界があるのだと信じている。

 

そういう話だった。

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