サラ☆の物語な毎日とハル文庫

三日月のソファー

らりるは、長い眠りから冷めて、草に覆われた地面の穴から這い出してきていらい、ぼーっと周りを見ていた。
生きてるって不思議。
空気の匂いだって、風がそよぐ音だって、小鳥のおしゃべりだって、お日さまの光だって、虫のブーンという羽音だって、もうなんだって新鮮だった。

あんまりぼーっとしていたもので、いつのまにか夜になっていた。
群青色にかわりつつある夜空に白っぽく金色の三日月が出て
らりるのことをじっと見下ろしていた。
やけに遠くにあるみたいだけど、すぐそこにあるみたいでもある。
「ああ、あのお月さまのとこにいけたら、ごきげんだろうけどね」
らりるは、そっとつぶやいた。
自分の声が、静けさを乱して響きわたったので、ちょっとびっくりした。それよりもびっくりしたのは、「じゃあ、こっちへきたらいい」と、空の上のほうから言葉が聞こえてきたことだ。

えっと空を見上げて、きょろきょろしていると、なんだか三日月がウインクしたように見えた。
目をぱちぱちさせてから、らりるは三日月をしっかと見あげ、「いけっこないよ」と言ってみた。
「大丈夫、こっちにきて、わたしに座りなさい」
「むりだってば。それに三日月の形に見えるけど、お月様はまあるいボウルみたいな形をしてるんだよ。小さくみえるけど、ほんとうは、とってもでっかいんだもの。座るなんて、ありえないよ」
「そうかな。きみがそう思ってるから、そうなのだともいえるぞ。もし、きみがわたしをちょうど床から天井くらいの大きさの、バナナみたいにカーブした形と思えば、それがわたしなんだよ」
「えー。だって、地球の惑星が月なんだよ。宇宙船だって、着陸したことあるんだよ」
「いいんだ、そんなことは。そうでもあるし、そうではない。きみがどう思ってるかで、きまるんだ。ほら、わたしを三日月型のでっかいソファーと思ってごらん。ハンモックみたいにふんわりしてる」
らりるは、そりゃあいいや、と思った。
よし、ぼくは思うぞ。三日月は、空に浮かぶ金色のソファー。あそこに腰掛けられたら素敵なんだけどな。
「わたしは、自分が三日月のソファーだと思うから、きみは、わたしに座れるって思えばいい。簡単だよ。せーので、いっしょにイメージするんだ。いいかい。せーのっ、だよ」

らりるは、はてしなく遠くつづく夜空に浮かぶ、三日月の形をした、とってもふわふわのソファーに腰掛けていた。地面が、ほんとうに下のほうに見えた。自分が長い間眠っていた森は、ずっとずっと小さくて、ぽつんとした点よりも小さかった。
星たちが彼方からまばたきをして、らりるに合図した。
今夜はよく晴れて雲ひとつないごきげんな夜空。銀の鈴を振ったような、しのびやかな音が静かに響いて、らりるは、ほんとにのんびりした気持ちになった。
「夜空ってうっとりするね。三日月さん、ほんとに気持ちいいや」
「そうそう、ほらほら」
そういうと、三日月は、ゆるやかに自分をゆすった。
ゆらゆらして、きゃっきゃと笑ったりしたけど、らりるはそのうちに急に眠くなった。
生きてるっていいなあと、嬉しくなったときには、らりるのまぶたは閉じかけていた。
眠るって好きだな、と、眠りに落ちる最後のところで、らりるは思った。
深くて、温かくて、幸せな眠りだった。

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