2019年だ。
新年を迎えるにあたり、最初の記事は
ロバート・ガルブレイス著の『カッコウの呼び声 私立探偵コーモラン・ストライク』
イギリスのミステリー。
発刊年は2013年4月。
アフガニスタンで負傷した退役軍人の私立探偵コーモラン・ストライクが
自殺したとされる人気ファッション・モデルの死について
その真相を解明を依頼され、捜査にあたる話。
出版された当初、
作者は新人で、民間の警備保障会社に勤務する
イギリス軍警察の元隊員だという触れ込みだった。
しかし、初めて発表する小説にしては、手練れていて、
出来が良すぎる。
なにしろ上下2巻のハードカバーの長編。
描写も細かく書き込まれ、とてもとてもシロウトに毛が生えたような
軍隊出身の人間が描いたものとは思えない。
ということで英日曜紙「サンデー・タイムズ」は
この新人作家について調べたそうだ。
それでもって、じつは作者はハリー・ポッターシリーズで世界を席巻した
J・K・ローリングだということが判明した……
といういわくつきのミステリー。
小説は、私立探偵の秘書となるロビンが
派遣社員としてコーモラン・ストライクのオフィスを訪れるところから始まる。
オフィスビルの入り口のドアにたどり着くと、
突然飛び出してきた女と、ギリギリのニアミスですれ違う。
つぎに二階の踊り場にあがってガラス扉のドアを開けようとしたとき
ぼさぼさの髪を振り乱した体重100キロの義足の男が突進してきて
ロビンを突き飛ばした。正面衝突だ。
済んでのところで、階段を後ろ向きに真っ逆さまに落ちる瞬間
男がぎゅっと腕を伸ばして最初に手が届いた体の出っ張り
つまり胸をわしづかみにし
なんとかそのロビンを元の位置に引き戻した。
ロビンは衝撃と胸を掴まれたそのあまりの痛さに
顔をゆがめ目に涙を浮かべた…
この始まりのスピード感と、おおっというストライクの登場が
字面の向こうからこちらの心を本の中に引きずり込む。
こうなったら読むしかないじゃないか。
つまり、とても巧みな筆致であり導入なのだ。
J・K・ローリングはこの本が発売されてから3か月半
自分の名を伏せていたことになる。
どうせなら、ずっと気づかれたくなかったようだ。
ハリー・ポッターの作者というのは、
ほかの違ったタイプの本を書くとき、
それなりのしがらみになるのかな。
なんにしても、上下2冊、
ここまで長くすることはないんじゃないか。
という気もするが、その長さのおかげで
充分にコーモラン・ストライクの人生と付き合える読書時間となる。
コーモラン・ストライクの父親は1970年代のロックバンドのリードシンガーで
ロックの殿堂入りを果たしている超有名人。
グラミー賞を複数回受賞しているそうで、
たとえばクイーンのフレディ・マーキュリーのようなビッグな存在。
❝あのジョニー・ロークビーの子ども❞という設定だ。
この「あの~」という枕詞が
ローリングさんは好きなのかな。
ハリー・ポッターは❝あのヴォルデモートが殺そうとして生き残った子ども❞だったものな。
と思いながらも充分に読書を楽しみ、
結末には「そういうことだったのか」と、ホオーッと驚かされた。
よくできたミステリーだ。
第2作は『カイコの紡ぐ嘘』で、日本では2015年に講談社から出ている。
でも第3作と去年秋に出たばかりの第4作は未訳。
第3作の『Career of Evil』は
イギリスでは2016年4月に出版されているのに、
いまだ邦訳なしだ。
日本ではそれほど売れてないのかな。
文庫で出せばいいのだ。
昨今は、大手であろうと、売れないとせちがらい出版界だけど
ぜひぜひ続きの邦訳を出してもらいたい。