キャロル・オコンネルの新作『ルート66』が今年の3月に出たのは、本当に喜ばしいことだった。
この本には、マロリーの父親が登場する。
おお!!
でも、そう書くと、まったくのネタバレになるのだろうか?
マロリー・シリーズを読みつないできた読者にとっては、記念すべき作品。
次々に起こる殺人事件の謎を追いながら、マロリーの心の旅を、読者も追随することになる。
そして、マロリーの生い立ちが解き明かされる。
映画にロードムービーという言葉があるが、この本はまさにロードノヴェルであり、心に残る小説だった。
マロリー・シリーズの第9作となる。
もともと登場人物やその人物達の思い、事件が複雑に絡み合ったミステリーなのだ。
一作一作が、読み応えのある重量感。
キャシー・マロリーという少女の出自が、謎として最初から読者に提示されている。
ルイ・マーコヴィッツという警視がつれてきて養女にしたキャシーは、
いったいどこから来て、どんな生い立ちの末に、マーコヴィッツの家庭に保護されたのか?
(キャシーはジャガーに押し入ろうとしていたところをマーコヴィッツに補導され、
以来、ルイとその妻ヘレンによって愛情深く育てられてきた。
そのときキャシーは10歳のストリートチルドレンだった。)
その謎が、作品を追うごとに少しずつ解明されながら、ついに父親のところまでたどり着いたのだ。
これはもう、最初の第一作から読み返さないと、全体像がつかめないではないか。
ということで、いま、マロリー・シリーズを読み返している。
これがじつに楽しい時間なのだけど。
ニューヨーク市警のソーホー署の巡査部長であるキャシー・マロリー。
生まれながらの輝くばかりの金髪に緑色の目、スラリとした長身。
警察の給料ではとても買えないような高級な仕立ての服をいつも身にまとっている。
本人自身は有能であり、張り込みや尾行活動をうまくやってのけているつもりだが、それはそもそも無理。
というのも類いまれな美貌ゆえに、直ぐに目を引きバレバレになるから。
オコンネルの作品の解説を読むと、豊崎由美さんという人は
「子供時代の苛酷な生活による精神的なダメージからか、
マロリーの情緒は未発達のまま、
喜びや悲しみといったごく基本的な感情すら滅多に表すことができない。
おまけに世間一般の道徳観念とも無縁。
しかも知能指数は天才レベル…」と書いているし
萩原香さんという人は、
「毀れた人間、これが、キャロル・オコンネル描く主人公たちの共通項。
それでもわれわれ読者は、いつのまにか彼らに愛しさを覚える。
なぜなら、わたしもあなたも多かれ少なかれ毀れているのだから。
その共感を掬いあげる、キャロル・オコンネルという作家の力。
マロリー・シリーズは本文庫から装いも新たに新訳で刊行される予定だが、
ただのシリーズものではないので要注意……」と書いている。
このシリーズは1994年と98年に『マロリーの神託』『二つの影』として
竹書房文庫から出版されたという経緯がある。
そのときにミステリ情報通の友人から教えてもらって読んだのだけど、面白い。
でもこんなに面白いのに、続きが出ない…。
そう思っているところに、1999年にノンシリーズの『クリスマスに少女は還る』が
創元推理文庫から刊行され、ブレイクした。
その後、創元社が版権を買い取り(たぶん…)、
2001年に創元推理文庫から、新しく翻訳者も務台夏子さんに替わって、このシリーズがはじまった。
今ではミステリーファンに新作が待望される、強力なシリーズになっている。
もし、まだ読んでいないという人がいたらぜひっ。
濃厚な読書世界に浸れることは間違いない。
なんといっても面白い!!から。