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もうご高齢なので、いつかはこういう日が訪れるとは思っていましたが、昨日だったんですね。
奥さんのメアリーさんが喘息の持病があったために、イギリスからカリブ海の大ケイマン島に引っ越したディック・フランシスは、メアリーさんに先立たれた後も、そのカリブ海の自宅で暮らしていたのでしょうか?
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「騎手として350を超えるレースで勝利を収め、53~54年のシーズンには全英チャンピョンジョッキーとなる。騎手の経験を生かし、競馬業界を舞台とした推理小説を発表し、長く人気を博した」
日本での人気もそれは高いものでした。
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仕事の区切りができると、ディック・フランシスの小説を読むんです。
すると、たちまち引き込まれ、読み終わったときには、潜水でもしたかのように、深く息を吸って、ぷぅっと息を吐き出して、現実世界がリセットされたような気分になる。
そんな作家でした。
どの作品もクォリティの高さを維持しており、読み応えは充分。
悪に打ち勝った清清しさを余韻として、その日1日は身にまとうことができる。
そういう小説って、めったにないのです。
いろんなミステリーを読んだけど、フランシスの作品ほど、こちらの精神にいい影響を及ぼしてくれる作品はありませんでした。
『興奮』を読んで、彼の物語世界に魅了され、『証拠』あたりからは、リアルタイムで「いつ出るか、まだ出ないのか」と新刊が発売されるのを待っていたものです。
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そんなことって、ほんとに滅多にないのに。
「小説の話なんかあてにならない」といわれたもので、「ディック・フランシスは競馬のチャンピョンジョッキーで、何度も落馬した経験があるんだから、間違いないのよ」と身内を非難されたみたいに、プンとして言い返したのでした。
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ほんとに好きな作家でした。
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