昔
図書館をさまよっていたときに
出会って
何遍も何遍も
読んでいた
今ではすっかり
表紙は
茶色に変色している
詩集『ここにいないあなたへ』
( 辻仁成=文 安珠=写真 )から
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『石』
ここにいないあなたへ
波の音を聞きながら、
何十キロもある浜辺を歩いたよ。
ふと足元を見ると、
数えきれないほどの石が落ちていた。
数えきれない石。
不思議なのはあんなに石があるのにさ、
ぼくのことを呼ぶ石があるってこと。
「拾ってよ、拾ってよ」って声がするんだ。
見ると、綺麗な石が落ちている。
すっと手を伸ばして拾い上げたんだけど、
その確率ってどれくらいだと思う?
これだけの石の中から、
ぼくがたった一つのその石を拾い上げる確率のことだよ。
何億、或いは何兆もある石の中から
たった一つを拾い上げる確率。
その石はぼくに拾われたことによって、
飛行機に乗って、
都会に出ていくことになるかもしれないんだからね。
そんな石がいったいどれほどあるだろう。
偶然にしては凄すぎる。
まるでぼくとあなたが
この宇宙で出会った確率のようだ。
だからぼくはこの石があなただと思っているよ。
掌(て)の中に包んで大切にしている。
通じるかな。あなたの許へ。
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人との出会い
そこに生まれてきたこと。
学校、先生、友達、
恋愛、仕事、趣味、
結婚、子ども、
自然、動物、 植物、
あらゆるものとの出会いの不思議。
そして「自分」が
「拾い上げて選択した!」ということ。
この詩集との出会いで、
うつうつ してる自分が
なんかアホらしくなったんですよね。