入院一夜明ける。
病院の起床時間は6時。電気が点くだけだ。うとうと寝ているが、7時少し前、多くの医者が目の前のナースステーションをぞろぞろ通って、朝のカンファレンスに行く。そのあと、看護師が私のベッドにやって来る。
体重測定、体温計、血圧測定、心電図、採血。なんと、これから毎日行うことになる。加えて、午前中には胸部レントゲン。これも毎日。採血とレントゲンは入院後半の1週間は2〜3日に一回になったが、2週間は毎日。点滴は静脈注射がいくつもつけられ、結局両手は点滴で繋げられて、ジャラジャラとぶら下げている感じである。
採血が毎日というのが少ししんどかった。データを取り、その変化を観察するということなのだろうとは想像するが、そもそも点滴で腕にいくつも針が刺さっている。一本は看護師がやってはいけない種類の点滴の針があり、体に針のようなものが埋め込まれてもいる。そこに採血で、毎日針で穴を開けにくるわけだ。ちなみに退院後でも点滴跡は残っていたし、10日以上かゆみや違和感が残っていたものだ。
「患者になったなあ」と病院が患者を作るという説を思い出したりもした。私たちは病気をしたから患者になると考えるが、多くの場合、病院が患者を作り出すのである。確か生物学者の池田清彦さんが言っていたような気がするが、病院にいかなければ、病人になることはないとユーモアたっぷりに、現代医療を批判していたのを思い出した。
8時になると、朝の食事である。確か食パン一枚にジャム、簡単なサラダ、それに人参と大根の煮物である。この煮物は和風であり、「どういうメニューだよ?」という感じだ。ちなみに味が超薄味である。なんせ高血圧が問題であるからということなので仕方がないが、ほぼ味がない。3食、味がない。不味い。
ただ最初は慣れなかったが、3日も経てば気にならなくなったし、1週間ぐらい経つと、少し味がついてきたりもした。実にうまい料理に変化する(笑)。その後朝の薬が配られる。
そうすると、「歯を磨きますか?」と看護師がやってくる。歯を磨くといっても、部屋の中の洗面台に行くこと自体が大変だ。前回話したトイレへの移動より距離があるので、またもや看護師の手を煩わさなければならないと気が重くなっていると、歯を磨いた時に捨てる水を入れる小さな容器を持ってきた。「そうか、患者になると、歯を磨くのも工夫されているんだなあ」と感心しながら、歯を磨くことができた。
この時点で主治医から水分制限が言い渡されていた。1日1.2リットルまでとのこと。食事の時にお茶やヨーグルト飲料が配られるので、それらを含めると、500ミリリットルのペットボトルで2本まで。意外とこの水制限が当初しんどかった。それまで水をがぶ飲みしていたせいもあろうかと思うが、制限を意識してちょびちょび飲むというのが、水を飲んだ気持ちにならないからだった。