よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

新型栄養失調とは  ~ミネラル不足にならないために~

2021-09-13 14:37:34 | 健康・病気
 飽食の時代に栄養失調など考えられないと思っていませんか?昔の栄養失調といえば、カロリー不足で痩せているイメージです。一方、新型栄養失調は、カロリーは十分足りているが、偏った食事により蛋白質やビタミン、ミネラルが不足しておこる体の不調を指します。その中で今回は、ミネラル不足の話です。

 ミネラルとは、生体を構成する主要な4元素(酸素、炭素、水素、窒素)以外のものの総称で、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンを多量ミネラル(総重量の3~4%)、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、コバルト、セレン、クロム、モリブデンを微量ミネラル(総重量の0.02%)と呼びます。ミネラルは体内で合成できないため食物として摂る必要があります。
 微量ミネラルは、原子の表面で電子の授受が起こりやすく反応性に富んでいるため、生体内では酵素や生理活性物質の活性中心として働きます。すなわち、生命の維持や生体の恒常性を維持するための生化学反応をスムーズにおこなうために、微量ミネラルは必要不可欠な元素になります。不足した場合は、成長障害、神経障害、免疫力低下、味覚障害、貧血、骨折、皮膚障害、倦怠感などさまざまな不調が発生します。また最近の研究では、微量ミネラル欠乏症は、生活習慣病や老化との関係が深いこともわかってきました。他方、摂りすぎた場合にも過剰症や中毒を起こすことがあります。
さて、新型栄養失調と呼ばれるミネラル不足は、食事とその食材に原因があると考えられています。
 ① 弁当、惣菜、冷凍食品、レトルト食品などの原料に、水溶性成分とともにミネラルが溶け出た「水煮食品」が使われること。カットされたサラダ野菜も同様です。
 ② ミネラルの吸収を阻害する「リン酸塩」がたくさんの加工食品に添加されていること。リン酸塩は、一括名(PH調整剤、調味料(アミノ酸等)、かんすい、膨張剤、乳化剤など)として、さまざまな加工食品に使われています。体に吸収されず排泄されるため安全性は高いと考えられていますが、胃の中でミネラルと結合し、ミネラル吸収を妨げることになります。カルシウム吸収阻害による骨粗鬆症、亜鉛吸収阻害による味覚障害は有名です。
 ③ 加工食品の原材料の大半が「精製」されて、ミネラルが抜かれていること。油、砂糖、塩、水などは、ミネラルを含む不純物が取り除かれて使用、販売されています。

 ミネラルの少ない野菜も問題です。一年中食卓にのぼる野菜ですが、やはり旬と旬でない時期のものは栄養価だけでなくミネラルの含有量が違います。さらに、護岸工事の行き渡った川からの水は、以前よりミネラルの含有が少なく、育てる土も化学肥料の乱用により窒素、リン、カリウムは多いが微量ミネラルが少ない土壌となっています。さらには、水耕栽培の野菜も増えています。

 では、実際の食事でミネラルはどの程度補給することができるのでしょう。
 若い方には、一日の食事をほとんどコンビニ食でまかなっている人もいると思います(朝はパン、昼は幕の内弁当、夕は唐揚げ弁当)。このような場合、カロリーも働き盛りとしてはやや物足りませんが、各種ミネラル(特に鉄、カルシウム)は20代女性の一日目標摂取量に全く足りません。
 コンビニ食にバランスを考えてサラダやスープを追加して豪華にした場合はどうでしょうか。カロリーは2600kcal以上と20代男性の必要量を満たしていますが、やはり一日摂取目標量のミネラルを補給することはできません。
 このようなコンビニ食を続けている場合、ミネラル不足で健康障害が出る可能性が97%以上と考えられています。さらに牛乳や野菜ジュース、アーモンド、海苔、焼きめざしなどを追加する必要があります。
高齢者向け宅配弁当も、栄養バランスよく作られているように見えます。しかし、タンパク質はとれていますがミネラルは目標量の半分にも届きません。

 このように普通に市販されている弁当は、低価格、保存、食中毒を避けるという観点から、水煮野菜、リン酸塩、精製した食材を使用しているため、ミネラルが不十分です。食堂やレストランでの外食の場合でも同様な傾向が見られます。ミネラルをしっかり補充するには、イワシの煮干粉や雑穀ふりかけを加えると一気に目標量のミネラルを摂ることができます。
 
 最後に、手作りで有名な北海道置戸町の小学校給食を調べた結果も紹介します。さすが愛情一杯の手作り給食では、育ち盛りの子供たちに必要な十分なカロリーおよびミネラルが含まれています。

 ミネラル不足による新型栄養失調を防ぐには、便利でお手頃な加工食品をなるべく避け、旬の食材を使った手作り料理が一番です。「体は食べたものから作られており、自分の体は自分で守る」という健康管理の基本がここでも重要です。


参考文献:柳澤裕之ら『微量ミネラル欠乏症とは』日医雑誌第150巻・第3号 2021年6月
小若順一『食べなきゃ、危険!』三五館、『食べるな、危険!』幻冬舎
     中戸川貴『食事でかかる新型栄養失調 アップデート』ヘルシーパスオンラインセミナー

おなかのカビ!?

2021-07-12 08:27:07 | 健康・病気
 体の免疫細胞の7割が集中し、栄養面だけでなく生体の維持に重要な役割を果たしている「腸」。腸内には細菌、寄生虫、カビなど様々な生物が共棲していますが、今回はカビ(真菌)に注目してみます。

 正常ではカビの腸内生物に占める割合は1%と言われます。しかし、その数が異常に増えると、「食後異常にお腹が張る、ガスがたまる」、「食べても食べてもお腹がすく」、「異常に甘いものが欲しくなる」、「食後に異常に眠くなる」、「頭がぼーっとして集中できない」、「酔ったようにふわふわする」などの症状がでてきます。
病気としては、便秘・下痢・腹痛などの消化器障害、慢性的な皮膚疾患(特に顔の発疹・赤み)、頭痛、関節痛、記憶力低下、倦怠感・抑うつ、肛門や陰部のかゆみ、生理前の不調、自己免疫疾患、低血糖症、アレルギー疾患、栄養吸収障害、化学物質過敏症などの原因になります。

 腸内のカビが増える理由
① 抗生物質(細菌は死ぬが真菌は死なない)の乱用。その他の薬物として、免疫機能抑制作用のあるステロイド、エストロゲン優位にする経口避妊薬(ピル)などがあります。
② 発酵食品(麴菌、酵母菌)の摂り過ぎ。味噌、醤油、酒などカビの仲間で発酵した食品は、体に有用な働きをすることで知られていますが、腸の調子の悪いときに摂り過ぎると逆効果になることがわかってきました。 
③ 日本の気候と住環境。カビは温度、湿度、酸素の条件がそろえば発育しますが、温暖、多湿の日本は繁殖しやすくなっています。また高密閉の住居、カーペットなどもカビの温床になります。

 カビの弊害
① 腸の炎症を引き起こす カビは腸壁に食い込んで増殖
② 有害物質(アルコール、アラビノース、シュウ酸、酒石酸、グリオトキシン、マンナン、アセトアルデヒド、マイコトキシンなど)を発生させる
③ 低血糖を引き起こす カビに糖質を横取りされる
④ 免疫のトラブルを起こす 自己免疫疾患の原因になることあり カンジダ抗体はグルテン(小麦)にも反応して炎症をおこす
⑤ 様々な悪循環をおこす 炎症→免疫力低下→感染症→抗生剤使用→カビ増殖
⑥ ビタミン・ミネラル不足になる

 カビの検査として、遅延型アレルギーの原因として酵母菌(カンジダもこの仲間)などのIgG抗体を調べる、尿有機酸検査(カビの生成物)、βグルカン(カビの細胞壁の成分)を調べるなどがあります。ただ、多くが自費検査のため高額な費用がかかり、結果の解釈が難しいこともあり、積極的には行われていません。そのため、カビの増殖が疑われる人は、カビ対策を実践して効果の有無で判断することが多くなっています。

 カビ対策として、具体的にどうすればいいのでしょうか。これには、カビを増やさない「守りの対策」と減らす「攻めの対策」があります。
「守りの対策」として、大事なのは「安易に抗生物質を飲まない」ことです。さらに、「食べる抗生物質」と言われる遺伝子組み換え食物(GMO作物)を摂らないことです。GMO作物は、当然グリフォセートを含む農薬を使い栽培されますが、この残留物質が腸内細菌の成長を阻害、エネルギー産生阻害、解毒阻害、免疫異常などの問題をおこすと考えられています。
 カビを増やさない食事として、①甘いものを減らす、②炭水化物を減らす(パン、麺類など小麦製品は避ける、ただし米、イモ、そばは比較的安心)、③GMO食物や添加物(化学調味料、人工甘味料、発色剤、着色料、香料など)を減らす、④質のいい蛋白質や無農薬の野菜をとる(ただしお腹の張りが強い間は控えめに)、⑤毎日同じものを食べずにローテーションを考える、⑥トウモロコシ、コーヒー、小麦、ナッツ、アルコール、チーズ、輸入果物などカビの生じやすい食品を避ける、⑦ビタミン、ミネラルなどのサプリをたくさん取らない、⑧体に合わない食品は避け、時にプチ断食をするなどがあります。
 「攻めの対策」としては、①抗真菌作用を持つ食品(ニンニク、梅肉、グレープシードオイル、オレガノ、ココナッツオイル、MCTオイル、ローズマリー、クローブ、シナモンなど)を摂る、②定期的に体を高温にする、日光浴をする、③抗真菌薬を飲むなどがあります。
ただ、急激にカビ退治をすると有害物質が多量にでる(ダイオフ現象)があるので注意が必要です。
まず甘いものを1カ月控える、アルカリ性食品(野菜、梅干し、海塩、重曹など)を摂る、活性炭(カビ毒を吸着する)やビタミンB6(カビの放出する有害物質の形成を防ぐ)を摂る、便秘を避ける、ミネラルを含んだ水分をしっかりとる、などが勧められます。
 また住居でのカビ退治も重要です。敷物・観葉植物・古い本、雑誌を置かない、頻回に換気するなどがあります。

 参考文献:内山葉子『おなかのカビが病気の原因だった』マキノ出版

老化について(II)

2021-06-01 09:56:19 | 健康・病気
 「老化」して「死」を迎える我々ヒトも、その進行スピードは個々により様々です。
デイビット・A・シンクレアはその著書の中で、「老化」とは遺伝子から読み出される情報の喪失にほかならない。その読み出され方がおかしくなることこそが、さまざまな老化の症状を引き起こすたった1つの原因であると語っています。そして、「老化」は宿命ではなく、「病気」であり治療可能と考えています。

 では、「老化」を治療し、若い頃と同じように元気で生き寿命を延ばすにはどうしたらいいのでしょうか。

「老化」の原因であるDNA損傷に対して、DNA修復を調節しているのが長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子です。サーチュイン遺伝子は、ミトコンドリアを増やし、老廃物を除去し、細胞を若返らせる作用、細胞を傷つける活性酸素の抑制作用、病原体のウイルスを撃退する免疫抗体の活性化作用など、さまざまな老化を防止する機能があるとされます。このサーチュイン遺伝子を活性化することが老化を抑え長寿を実現するカギになります。

サーチュイン遺伝子を活性化するには、①カロリー制限、②断食、③蛋白質制限、④適切なストレス(運動、寒冷刺激など)が知られています。
すなわち、摂取カロリーが減る(空腹、飢餓)や体にある程度のストレスがかかることにより、防御反応として、細胞レベルの損傷を防ぐためにDNA修復機能が活性化すると考えられています。これによりサーチュイン遺伝子のスイッチが入り、これが老化を遅らせることになります。
具体的には、摂取カロリーを30%制限する、一日一食あるいは二食とする、間欠的な断食、野菜や豆類や全粒の穀物を多く摂り、肉や乳製品や砂糖を控える、高強度インターバルトレーニング、サウナと水風呂に交互に入るなどがあります。

 薬あるいはサプリにより「老化」を治療することはできないでしょうか。
 ミトコンドリアでのエネルギー産生の補酵素の一つであるNAD(ニコチナミド・アデニン・ジヌクレオチド)が、全身のさまざまな臓器・組織において、加齢とともに低下してしまうこと知られています。NADは、サーチュイン活性を高めることにも重要な酵素であり、「抗老化ビタミン」と呼ばれています。体内ではニコチナミドを出発点としてNR(ニコチンアミドリボシド)がNMN(ニコチナミド・モノヌクレオチド)に変換され、それがNADに変換されるため、NRやNMNをサプリとして補うことも老化防止に効果があると言われています(NADを直接摂っても消化管で分解されてしまう)。
 メトホルミンという糖尿病治療薬は、ミトコンドリアでのエネルギー産生を遅らせる働きがあります。すると、エネルギー産生を制御するAMPKと呼ばれる酵素が活性化し、ミトコンドリア機能を回復させる働きをします。メトホルミンはサーチュイン活性を高める作用、がん細胞の代謝を抑える作用、ミトコンドリア増加作用、機能低下したタンパク質除去作用が明らかになっており、老化防止には有効と考えられています。
 さらに、細胞の栄養状態を制御するmTORと呼ばれるタンパク質リン酸化酵素を抑制すると、タンパク合成が低下しサーチュイン遺伝子を活性化することも期待されています。

 赤ワインに含まれるレスベラトロールというポリフェノールも、マウスでの実験でサーチュイン遺伝子を活性化するとして注目を集めましたが、ヒトで同じ量を摂取するには、毎日赤ワイン1000杯飲む必要があるそうです。
 さらに、昔から老化説としてフリーラジカル説があります。確かに、フリーラジカルはDNAを傷つけますが、実験的にフリーラジカルを増加させたマウスでも老化のスピードに変化は認めず、抗酸化剤を投与しても寿命を延ばす効果はなかったそうです。

 以上、「老化」に関する最新の知見をご紹介いたしました。
 「老化」が治療できるというのは革新的な発想ですが、将来はヒトの寿命限界と考えられている120歳を超えて150歳まで達することも夢ではないかもしれません。
 そのために現時点で実践すべき対策もわかりました。カロリー制限、断食、運動、適度なストレスなどは、医者の指導のもとで適切に行えば比較的簡単に取り入れることができるかもしれません。また動物性蛋白質の摂り過ぎは良くないことも頭に入れておく必要がありそうです。その他、ビタミンDや食物線維の摂取、適切な睡眠、大気汚染を避けるなども健康長寿には効果的です。
 アンチエイジングに関して様々なサプリも発売されています。今回紹介したNMNは、効果が実証されつつありますが、かなり高価です。また効果が怪しい粗悪品サプリも溢れています。やはり補助的に使うのがよいと思います。

 生命に必然である「死」を迎えるまで、少しでも「老化」を遅らせ元気に生活し、人生を謳歌したいものです。

 参考文献:デイビット・A・シンクレア『LIFESPAN 老いなき世界』
      樂木宏美『「100年ライフ」のサイエンス』

老化について(I)

2021-05-10 14:36:09 | 健康・病気
 今回は、年をとると避けて通れない「老化」と生命が必ず迎える「死」に関する最新の研究についてご紹介したいと思います。

 「老化」はゆっくりと起こる生物機能におけるシステム全体の衰退と定義されます。この衰退は生体内の複合的な要因の結果として生じ、これらの要因は次の9つに分類されます(López-Otinら 2013年)。
 ① DNAの損傷によってゲノムが不安定になる(ゲノム不安定性)
遺伝子(ゲノム)は様々なストレス(タバコ、アルコール、睡眠不足、紫外線など)により傷害を受けますが、その修復過程で修復ミスがおこり、それが蓄積されて細胞機能が低下します。
 ② 染色体の末端を保護するテロメア(特徴的な反復配列をもつDNAとタンパク質からなる複合体)が短くなる(テロメア短縮)
細胞分裂の度に、DNA傷害をきたしやすい遺伝子末端のテロメアと呼ばれる部位が修復されずに短くなります。このため細胞は50回を限度に分裂できなくなると考えられています(ヘンフリック限界)。がん細胞は、テロメラーゼという修復酵素活性が高く、テロメアを修復し短縮しないため何度も分裂できるようになり増殖します。
 ③ 遺伝子スイッチのオンオフを調節するエピゲノムが変化する(エピジェネティクスな変化)
DNAの塩基配列を変えずに遺伝子の働きを決める仕組みをエピジェネティックと呼び、その遺伝情報がエピゲノムです。すなわち、どの遺伝子を使い、どの遺伝子を使わないかを決めるのがエピゲノムで、細胞の多様性を生み出します。環境因子により、エピゲノムが乱れると遺伝子変異が生じ、細胞の働きが低下します。
 ④ タンパク質の正常な働きが失われる(蛋白質恒常性の喪失)
細胞への熱ストレス、酸化ストレスなどにより、タンパク質が変性し、異常なタンパク質が細胞内に蓄積されると正常な働きができなくなります。認知症患者の脳内に蓄積するアミロイドたんぱくもこの一つの例です。
 ⑤ 代謝の変化によって、栄養状態の感知メカニズムがうまく調節できなくなる(栄養感知の制御不全)
代謝や代謝副産物により、細胞は様々なストレスを受け傷害されます。そのため生物には、適正で適量の栄養が摂れるように様々な栄養状態感知システムがあります。この感知システムが異常になると食べ過ぎをおこし、肥満、糖尿病などの代謝疾患を引き起こします。カロリー制限と適切な運動は、DNA複製のストレス減少、DNA損傷の減少、炎症シグナルの減少、代謝活性と損傷が引き金となる副産物の減少を介して寿命を延長します。
 ⑥ ミトコンドリアの機能が衰える(ミトコンドリアの機能不全)
細胞が老化すると、酸化ストレスの蓄積によるミトコンドリアの機能不全が始まります。機能不全によりアポトーシス(細胞死)誘導が増加します。またミトコンドリアはATP産生だけでなく、細胞損傷のセンサーとしても働き、炎症性老化の制御に関与します。
 ⑦ ゾンビのような老化細胞が蓄積して健康な細胞に炎症を起こす(細胞老化)
細胞老化とは、細胞が受けた損傷や必要な構成物質の欠乏により細胞分裂や成長が停止した状態を指します。歳をとった組織では、老化細胞が排除されずそこに留まり、IL6やIL8といった有害なサイトカインを分泌し、炎症を助長します。
 ⑧ 幹細胞が使い尽くされる(幹細胞の枯渇)
自己複製や多細胞に分化できる幹細胞が、DNA損傷、栄養感知の制御不全、細胞老化などの老化により枯渇します。
 ⑨ 細胞間情報伝達が異常をきたして炎症性分子がつくられる(細胞間コミュニケーションの変化)
老化細胞は、老化組織をさらに損傷させる慢性炎症を引き起こします。
  
 すなわち、最初に細胞ダメージの原因があり(①②③④)、それにより細胞機能が損なわれ(⑤⑥⑦)、組織あるいは生物全体の機能低下がおこる(⑧⑨)、これらが複合的に進行することにより「老化」をきたします。

 「老化」の最終段階に「死」が訪れます。
 テロメアが短くなると細胞分裂が出来なくなり細胞が老化します。他方、テロメラーゼが働きテロメアを修復すると分裂は止まらなくなり細胞がガン化します(生殖細胞や一部の免疫細胞を除き、通常は、遺伝子の働きによりテロメラーゼは抑制されています)。つまりテロメアは、細胞の分裂を止めて細胞がガン化するのを防いでいるのです。これは不老不死を許さない死のシステムと言えます。
 大腸菌など単細胞生物は無性生殖と呼ばれる分裂により子孫を残すため、遺伝子的には同一であり死んでいないとも言えます。一方、「死」を必然とした多細胞生物は、生殖細胞という不死の細胞で有性生殖をおこない、多様性を維持しながら次世代を残し進化してきたとも言えます。
 アップルの創業者で、MacやiPhoneを発明した故スティーブ・ジョブズは、自ら膵臓癌で余命半年と宣告された後の講演で、「死は生命最大の発明」と語りました。 
               ・・・・・・続く・・・・・・


    参考文献:メルク ライフサイエンンス リサーチ&バイオロジー ホームページ

お腹の不調!  原因はSIBOかも?

2021-03-08 16:52:10 | 健康・病気
 新型コロナウイルス感染症に振り回されている世の中ですが、1年を待たずにワクチンが開発され実際の臨床の場で使われ始めました。マスク着用、手洗い、三密回避など個々の努力と合わせて、一刻も早くこの感染症が終息することを願っています。

 さて今回は、腸内細菌に関しての最近の話題をお話ししたいと思います。
 ヒトの消化管には100兆個の腸内細菌(300~500種)が棲息しており、その遺伝子の総和は、100万種類とも言われています(ヒトの遺伝子は2万数千種)。ヒトは、膨大な細菌と共存し、その影響を受けて生きていることがわかってきました。腸内環境をよくするために、乳酸菌、ビフィズス菌といった善玉菌や食物線維、オリゴ糖、発酵食品などを積極的に摂取していらっしゃる方も多いと思います。

 ところが、腸内細菌も増えすぎるとかえってよくないということもわかってきました。それが、SIBO(小腸内細菌増殖症)です。お腹がゴロゴロする、お腹が張る、下痢、便秘など様々なお腹の不調の原因になります。

 通常小腸には、腸内細菌は1万個/ml程度しかいません(大腸には1000億~1兆個/ml)。しかし、食生活の変化で、腸内細菌が増えすぎ、小腸まで棲み処を拡げ(10万個以上/ml)、悪影響を及ぼすようになっているのがSIBOです。
 日本の中高年の2割弱が原因不明の腹部症状に悩んでいると言われますが、小腸の検査は難しいため胃や大腸の内視鏡検査で器質的な異常がなければ過敏性腸症候群と診断されます。心因性やストレスが原因とされ有効な治療を受けることができず、何十年も腹部症状に悩まされていることもあります。この過敏性腸症候群と診断された方の約8割に、SIBOが隠れている可能性が指摘されています。

 腹部のガスは、ほとんどが腸内細菌の発酵により作り出された、水素ガス、メタンガス、二酸化炭素です。これらはオナラとして排出、あるいは腸管から吸収されて吐く息の中に出て行きます(これらは無臭で気付きません)。SIBOの患者さんは、この腹部ガスが通常の5倍以上産生され、主に小腸に溜って腹部膨満感の原因となります。さらに水素ガス産生が多いと下痢型に、メタンガス産生が多いと便秘型になることもわかってきました。

 さらに、SIBOでは、小腸粘膜の透過性が亢進し、本来は吸収されないもの(細菌の毒素や未消化の栄養分)まで吸収してしまい、体の中で慢性炎症が起き、アレルギー、感染症、動脈硬化など様々な病気の原因になります(漏れる腸症候群)。
 この腸のバリア機能の低下を助長するものとして、①果糖、②アルコール、③鎮痛薬、④歯周病菌、⑤ストレス、⑥激しい運動、⑦食中毒が挙げられています。
 逆に、バリア機能を改善するものは、①規則正しい生活、②ω3脂肪酸(魚油、えごま油、亜麻仁油)、③骨スープ、④薬(メトホルミン、ルビプロストン、亜鉛)などが知られています。

  SIBOの原因としては、腸の蠕動運動の低下、胃酸、胆汁、膵液の分泌低下による殺菌力低下、小腸と大腸の間の弁の機能不全、老化、食生活の乱れなどが考えられています。診断は、ラクツロース負荷により呼気中の水素およびメタンを測定することによりなされます。

 治療としては、抗生剤投与(リファキシミン、ネオマイシン)、栄養剤(エレンタール)、そして低FODMAP食という食事療法です。
この食事療法の肝は、細菌が喜んで食べるエサを食べないということです。すなわち小腸で消化・吸収されにくい糖を排除することです。具体的には、パンやパスタなどの小麦製品、玉ねぎに含まれるフルクタン、豆類に多いガラクトオリゴ糖、牛乳などの乳製品に含まれる乳糖、腸から吸収しづらい果糖、人口甘味料を含むポリオールなどの発酵性糖質を避ける食事です。
 この低FODMAP食は、「腸内細菌にエサを与えて、腸内細菌を増やそう」という一般的な「腸活」とは全く逆の食事法です。
SIBO(過敏性腸症候群)の方は、低FODMAPな野菜や果物から適量の食物線維をとり、十分な水分摂取が重要です。さらに、間食を摂らず小腸を休ませる時間(この時小腸の蠕動運動が活発になる)をつくることが必要になります。

 最近の研究では、便秘の人は善玉菌である乳酸菌が多い、デブ菌(ファーミキューティス門)、やせ菌(バクテロイデス門)と称された腸内細菌も肥満との相関関係が日本人ではない、長寿者にデブ菌が多いなど今までと違った新事実も続々わかってきました。免疫機能を高めてくれる腸内細菌カクテルも開発されています。
これまでのように、腸内細菌を単に善玉・悪玉・日和見と区別するのではなく、多様な腸内細菌叢を適切な場所に適切な量保有することの重要性が認知されてきています。
 今後は、個々の患者さんの腸内環境に沿ったオーダーメードの食生活指導が健康長寿の鍵になることは間違いありません。

 
参考文献:江田 証『腸内細菌の逆襲 お腹のガスが健康寿命を決める』幻冬舎新書
     江田 証『腸のトリセツ』学研プラス