新型コロナウイルス感染症対策で、三密を避ける、ソーシャルディスタンスをとるなど人との接触が憚られる昨今ですが、今回はスキンシップの重要性についてお話します。
ヒトは胎児の頃から身体が子宮内環境と相互作用しながら連続的に発達しますが、その中で重要な役割を果たしていると考えられるのが「触覚」経験です。胎児が触覚刺激に反応を示すのは胎齢七週頃と言われ、次いで視覚や聴覚が発達します。成人では、触覚刺激は脳の頭頂葉、視覚刺激は後頭葉、聴覚刺激は側頭葉と局在的に脳活動を活発化しますが、新生児では、触覚刺激により頭頂葉のみならず、後頭葉、側頭葉の領域も広く活性化することがわかってきました。
新生児は、「アタッチメント」と呼ぼれる、養育者と「くっつく」ことで育ち始めます。幼少期に安定して豊かなアッタチメントを形成できると思春期以降に身体精神的にも誰かに依存せずひとりでふるまえるようになります。
アタッチメントの基本は、発達初期にある特定の養育者と身体をくっつけ、自分では制御できない身体の生理的変動や情動を一定の状態に調節することですが、なかでも情愛的接触(抱く、撫でる、抱擁、キスなど)の経験が乳児期の主体性を促す点で効果的と言われています。
この情愛的接触は末梢神経のC線維が関与しており、軽く撫でられた時(毎秒2~3cmの速度)に活性化し、脳に心地よさが喚起されます。子どもが怪我した時に「痛いの痛いの飛んでいけ~」と声をかけ患部を触れたりしますが、文字通り痛みを軽減する効果のある行為です(オキシトシンというホルモンも分泌され痛みを低減します)。
ヒトは、抱かれる、授乳されるという心地よい身体内部の感覚と微笑み(視覚)、声かけ(聴覚)、匂い(臭覚)など外部感覚(五感)を統合して養育者(他者)という存在を意識化(概念化)し、自己との違いを認識しながら成長します。
一方、養育者も身体を介して乳児に積極的に働きかける経験により、オキシトシン分泌が高まり心身が変化します。オキシトシンは、脳の視床下部から下垂体後葉にかけて合成分泌されるホルモンで、育児動機を高める、相手への信頼や愛情を高める、対人関係を円滑に進める、記憶や学習能力を高めるなどの働きを促します。すなわち、身体の触れ合いが子育てに重要な役割を果たしているのです。
肌を触れ合う、あるいは寄り添うという行為は、相手との境界を開き、相手を受け入れ信頼関係を深める働きがあります。これにより、何か問題が起きても、そのことで生じる不安やストレスなどにも一人で対処するのではなく、他者が助けてくれるという期待をもつことができ、本来の問題解決に力を注ぐことができるようになります。
私たちは、心身の不調があるとき、①自然治癒力を働かせるため身体感覚に耳を傾け、身体が欲するようにしてあげることと②対人関係の中でこそ癒されるということが重要です。一人で抱え込むのではなく、人に話すことで心が解放され、免疫力が高まり自律神経が整い、自然治癒力も高まるのです。
最近では、「人の手」で触れること(文字通り「手当て」)が見直され、医療現場で実践されています。
認知症患者に、ユマニチュードと呼ばれるケアがあります。ユマニチュードは、「個人として尊重する」を理念にして、「見る(アイコンタクト)」、「話す」ことにより心の交流を起こしてから「触れる(支える)」というコミュニケーションを連続して行うケアです。その他、肩や背中やふくらはぎをマッサージして、循環機能を高め、心理的緊張をほぐすセラピューティック・ケアや手を使って相手の背中や手足をやさしく包み込むように触れるタクティールケアなどがあります。
これらの技法は、すべての人に有効ですが、特にガン末期や発達障害などの治療に効果が期待されています。
これらのスキンシップケアは通常は相手が必要ですが、誰でも簡単に、自分一人でできる方法もあります。すなわち、心の持ち方で他者との間につくっている境界を開く方法です。
・笑顔でいること
・心を開くこと(特にネガティブな感情を「語る」、「書く)
・感謝すること
・親切にすること、誰かの役に立つこと、
・許すこと
日本人は、西洋人の個人主義に対して、周りの人との和を重視しながら(空気を読みながら)生きていく民族と言われています。これは、他者との境を開く(肌を触れ合う)ことの重要性をより理解しているとも考えられます。インターネットの発展によりスマホで何でも情報が得られ便利になりましたが、逆に家族や仲間と会話し触れ合う機会が失われがちです。こんな時代だからこそ直接触れ合うことによる癒し効果を認識する必要があります。
参考文献:明和政子『ヒトの発達の謎を解く-胎児期から人類の未来まで』ちくま新書
山口創『人は皮膚から癒される』草思社
ヒトは胎児の頃から身体が子宮内環境と相互作用しながら連続的に発達しますが、その中で重要な役割を果たしていると考えられるのが「触覚」経験です。胎児が触覚刺激に反応を示すのは胎齢七週頃と言われ、次いで視覚や聴覚が発達します。成人では、触覚刺激は脳の頭頂葉、視覚刺激は後頭葉、聴覚刺激は側頭葉と局在的に脳活動を活発化しますが、新生児では、触覚刺激により頭頂葉のみならず、後頭葉、側頭葉の領域も広く活性化することがわかってきました。
新生児は、「アタッチメント」と呼ぼれる、養育者と「くっつく」ことで育ち始めます。幼少期に安定して豊かなアッタチメントを形成できると思春期以降に身体精神的にも誰かに依存せずひとりでふるまえるようになります。
アタッチメントの基本は、発達初期にある特定の養育者と身体をくっつけ、自分では制御できない身体の生理的変動や情動を一定の状態に調節することですが、なかでも情愛的接触(抱く、撫でる、抱擁、キスなど)の経験が乳児期の主体性を促す点で効果的と言われています。
この情愛的接触は末梢神経のC線維が関与しており、軽く撫でられた時(毎秒2~3cmの速度)に活性化し、脳に心地よさが喚起されます。子どもが怪我した時に「痛いの痛いの飛んでいけ~」と声をかけ患部を触れたりしますが、文字通り痛みを軽減する効果のある行為です(オキシトシンというホルモンも分泌され痛みを低減します)。
ヒトは、抱かれる、授乳されるという心地よい身体内部の感覚と微笑み(視覚)、声かけ(聴覚)、匂い(臭覚)など外部感覚(五感)を統合して養育者(他者)という存在を意識化(概念化)し、自己との違いを認識しながら成長します。
一方、養育者も身体を介して乳児に積極的に働きかける経験により、オキシトシン分泌が高まり心身が変化します。オキシトシンは、脳の視床下部から下垂体後葉にかけて合成分泌されるホルモンで、育児動機を高める、相手への信頼や愛情を高める、対人関係を円滑に進める、記憶や学習能力を高めるなどの働きを促します。すなわち、身体の触れ合いが子育てに重要な役割を果たしているのです。
肌を触れ合う、あるいは寄り添うという行為は、相手との境界を開き、相手を受け入れ信頼関係を深める働きがあります。これにより、何か問題が起きても、そのことで生じる不安やストレスなどにも一人で対処するのではなく、他者が助けてくれるという期待をもつことができ、本来の問題解決に力を注ぐことができるようになります。
私たちは、心身の不調があるとき、①自然治癒力を働かせるため身体感覚に耳を傾け、身体が欲するようにしてあげることと②対人関係の中でこそ癒されるということが重要です。一人で抱え込むのではなく、人に話すことで心が解放され、免疫力が高まり自律神経が整い、自然治癒力も高まるのです。
最近では、「人の手」で触れること(文字通り「手当て」)が見直され、医療現場で実践されています。
認知症患者に、ユマニチュードと呼ばれるケアがあります。ユマニチュードは、「個人として尊重する」を理念にして、「見る(アイコンタクト)」、「話す」ことにより心の交流を起こしてから「触れる(支える)」というコミュニケーションを連続して行うケアです。その他、肩や背中やふくらはぎをマッサージして、循環機能を高め、心理的緊張をほぐすセラピューティック・ケアや手を使って相手の背中や手足をやさしく包み込むように触れるタクティールケアなどがあります。
これらの技法は、すべての人に有効ですが、特にガン末期や発達障害などの治療に効果が期待されています。
これらのスキンシップケアは通常は相手が必要ですが、誰でも簡単に、自分一人でできる方法もあります。すなわち、心の持ち方で他者との間につくっている境界を開く方法です。
・笑顔でいること
・心を開くこと(特にネガティブな感情を「語る」、「書く)
・感謝すること
・親切にすること、誰かの役に立つこと、
・許すこと
日本人は、西洋人の個人主義に対して、周りの人との和を重視しながら(空気を読みながら)生きていく民族と言われています。これは、他者との境を開く(肌を触れ合う)ことの重要性をより理解しているとも考えられます。インターネットの発展によりスマホで何でも情報が得られ便利になりましたが、逆に家族や仲間と会話し触れ合う機会が失われがちです。こんな時代だからこそ直接触れ合うことによる癒し効果を認識する必要があります。
参考文献:明和政子『ヒトの発達の謎を解く-胎児期から人類の未来まで』ちくま新書
山口創『人は皮膚から癒される』草思社
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