2013年 イギリス
原題 THE DOUBLE
時代も場所も不明
“大佐”(ジェームス・フォックス)と呼ばれる者が君臨する世界
不穏な空気の会社で働くサイモン・ジェームス(ジェシー・アイゼンバーグ)
勤続7年、真面目に働く青年だが存在感が薄く、上司や同僚から軽く扱われ、名前もまともに覚えてもらえていません
片想いの相手、コピー係りのハナ(ミア・ワシコウスカ)にも相手にされず、帰宅後は自宅アパートの真向かいにあるハナの部屋を望遠鏡で覗くのが日課
映画はサイモンの通勤風景
怪しい雰囲気の地下鉄車内から始まります
暗く揺れも騒音もひどく、かなり古そうな車両の中
ひとりの男性から、周囲は空席だらけなのに『そこは私の席だ』と言われ反論も出来ず席を立つサイモン
駅に着き、降りようとするが郵便物か何かの積み込み作業に邪魔をされてしまいます
発車寸前、何とか飛び降りたものの持っていたカバンが扉に挟まれたまま地下鉄は出てしまい、サイモンの手に残されたのは取っ手のみ
積み込み作業人に無視され続けたところから、サイモンの存在そのものが怪しげになっていることがわかります
運に見放された男には、どんな一日が待っているのでしょう
会社に着くも守衛からは来客者扱いを受けてしまいます
おかしな状況とは思いつつ
気の弱いサイモンは特に抗議するでもなく甘んじて受け入れ与えられた仕事をこなすのでした
ある日、突然現れた期待の新人
ジェームス・サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ二役)
外見は全てがサイモンと瓜二つ
驚くサイモンだったが、会社の人間は皆気にも留めていない様子
サイモンとジェームスの違いは、その性格にありました
ジェームスはサイモンが持っていない(持っていたいと願う)明るさ、要領の良さで瞬く間に会社での存在感を増していきます
かたやサイモン
ますます存在感が薄れていき、とうとう社員IDも削除されてしまう始末
一体全体どうなっているのか…
アイゼンバーグによる暗いサイモンと明るいジェームスの演じ分けが素晴らしいです
少しの足の運び、腕の振り方、視線の高さ程度でも随分とその人の印象が変わるものですね
映画全体が『夜』『閉じられた世界』で
会社も地下鉄もサイモンやハナが暮らすアパートも暗く、この映画はどこに向かうだろうか、観客を捉えて離さない雰囲気で占められています
あの原作をこう料理したとは予想外でした
実に面白い、しかし空恐ろしい
ダークな分身に押しつぶされていくサイモンの様はリアル現代社会そのものでした
これを読んでいる方というのは、少ないのではないかと思います。さすがですね。
そもそも時代が全然違うので、かなりアレンジされているのだろうなあ・・・とは思っていました。
この閉鎖された夜の世界。なんとも言えません。
そして、使われていた音楽も凄かった!ですね。
「上を向いて歩こう」には思わず泣きそうになりました。
原作を読んでおいて良かったと思った一番のシーンは、サイモンが初めて自分の分身を見かけるところ。サイモンの心の内が手に取る様に分りました。
二番は大佐のパーティのシーンの、サイモンの歪んだ心でした。
原作を見事にアレンジした脚本・監督の手腕に大喝采を送りたい気持ちです。
「上を向いて~」はあのシーンにピッタリでしたね。
私もサイモンの切ない恋心にグッときました。