男が妻(つま)に付き添(そ)われて病院(びょういん)にやって来た。先生(せんせい)を前にして妻が言った。
「先生。この人、どうかしちゃったんです。しゃべり方が戻(もど)らなくなったみたいで…」
男が口を挟(はさ)んだ。「どうもしてないでちゅよ」
妻は悲(かな)しげに、「ほら、こんなんなんです。――もう、普通(ふつう)にしゃべりなさいよ」
「もう、ぷんぷんしたら、だめでちゅ。おちごと、おやちゅみちまちゅから…」
先生は首(くび)をかしげて、「ん~、これは…。こうなったきっかけは、何かあったんですか?」
妻はばつが悪(わる)そうに、「それが、小さな子供(こども)がいるんです。この人、ふざけて子供と同じようなしゃべり方してたら…。最初(さいしょ)は、冗談(じょうだん)でやってるとばかり…」
「ふざけてないでちゅ。もう、いやいや…でちゅ。このまんまでいいでちゅよ」
「あなたは黙(だま)ってて。このままでいいわけないでしょ。仕事(しごと)はどうするのよ。今は有給(ゆうきゅう)で休(やす)んでるけど、いつまでも出社(しゅっしゃ)しないわけにはいかないでしょ」
先生が二人をなだめるように、「まあまあ、奥(おく)さん。心配(しんぱい)は分かります。ここは、冷静(れいせい)に対処(たいしょ)しましょう。私も、こんな事例(じれい)は始(はじ)めてなんですが…」
妻は真剣(しんけん)な顔で、「先生、治(なお)りますよね。元(もと)に戻してください」
「では、お子さんと会話(かいわ)しないためにも…。しばらく入院(にゅういん)して、様子(ようす)をみましょうか?」
「そ、そんなのいやでちゅ。おうちにかえるっ!」男はだだをこね始めた。
<つぶやき>これは、なに? もし旦那(だんな)がこんなことになっちゃったら…。どうしましょ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。