〈普通(ふつう)でいいんだよ〉それが口癖(くちぐせ)の同僚(どうりょう)がいる。彼は、自分(じぶん)のこともそう思っているのか?
確(たし)かに、彼はずば抜(ぬ)けて仕事(しごと)ができるわけではない。女性のあたしから見ても、惹(ひ)かれるようなところは…。ごめんなさい。彼のこと嫌(きら)いってわけじゃないのよ。
他(ほか)の娘(こ)も言ってたけど、良(い)い人なんだけどそれ以上(いじょう)はちょっと…って感じ。でも、彼だってどこかに優(すぐ)れているところはあるはずよ。それを見つけることができれば、彼だってそんなこと言わなくなるかもしれないわ。
普通って何なんだろう? 彼の口癖を聞くたびに思ってしまう。辞書(じしょ)を見てみると、〈他と較(くら)べて特に変わらないこと。どこにでもあって珍(めずら)しくないこと。一般的(いっぱんてき)であること〉って書いてある。よく分からないけど、人に当(あ)てはめることはできないかもね。
だって、普通って人によって違(ちが)うと思うの。あたしの普通と、彼の普通はまったく違うかもしれないし。ひとりひとり違っていいと思う。そうよ、きっとそうなんだわ。
ああっ…、あたしが間違(まちが)ってたのね。彼の〈普通〉をとやかく言うなんて…。
これからは、あたしも彼に賛同(さんどう)して〈普通、最高(さいこう)っ!〉って言ってみようかなぁ?
でも、ちょっと待(ま)って…。やっぱり、あたしにはハードルが高そうだわ。ここは、微笑(ほほえ)みを返(かえ)す程度(ていど)にして…。まって、彼に変に思われないかしら……。
<つぶやき>きっと彼は、そんなことまで考(かんが)えてないと思いますよ。口癖なんですから。
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