彼女は同じ会社(かいしゃ)で働(はたら)く人に恋(こい)をした。と言っても、まだ彼女の片思(かたおも)いなのだが――。
彼女はすこぶる奥手(おくて)で、今だに誰(だれ)とも付き合ったことがない。だから、恋の始め方がよく分からない。この、好きだという気持ちをどう伝(つた)えればいいのが悶々(もんもん)としていた。このままでは仕事(しごと)も手につかなくなりそうだ。
そこで彼女は思い切った行動(こうどう)に出た。彼女は彼のデスクまで行くと、手にした領収書(りょうしゅうしょ)を突(つ)きつけた。でも、緊張(きんちょう)しすぎて言葉(ことば)が出てこない。
彼は彼女を見て、「あっ、経理(けいり)の…。えっと、何か……」
彼女はじっと彼を見つめて…、見つめて…。絞(しぼ)り出すように、「あっ…。これ、ダメです」
彼は領収書を受(う)け取ると、「あっ、すいません。何か、問題(もんだい)でも……」
「こ、これは…。ちゃんと明細(めいさい)をつけて下さい。でないと…、処理(しょり)できません」
「そうですよねぇ。分かりました。やり直(なお)します。ほんとに、申(もう)し訳(わけ)ありません」
「いえ、いいんです。よ、よろしく、お願(ねが)いします。……それと、付き合って下さい」
彼はきょとんとして彼女を見た。そして、「えっ、いま、何て…?」
「で、ですから…。わ、私と、その…、付き合ったり…しませんか?」
彼は回りを気にして、声(こえ)をひそめた。「えっと…。それって、どういう…」
「ですから…。あなたのこと…、好(す)きみたいなんです。よろしくお願いします」
<つぶやき>これは、思い切っちゃいましたねぇ。社内(しゃない)で評判(ひょうばん)になること間違(まちが)いないです。
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