みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0145「賞味期限」

2018-01-23 19:09:53 | ブログ短編

 あたしが立てた人生設計(じんせいせっけい)は完璧(かんぺき)なものだった。志望校(しぼうこう)には一発合格(いっぱつごうかく)、一流企業(いちりゅうきぎょう)にだって就職(しゅうしょく)できた。それもこれも、自分(じぶん)の立てた目標(もくひょう)を忘(わす)れずに、人並(ひとな)み以上(いじょう)の努力(どりょく)を重ねたからだ。でも結婚(けっこん)に関(かん)しては、努力が報(むく)われるとは限(かぎ)らない。
 あたしは三十を目前(もくぜん)にしていた。予定(よてい)では、すでに子供を産(う)んでいるはずなのに…。結婚に向けて習(なら)いごともしたし、家事(かじ)だって完璧にこなす自信(じしん)もある。なのに、この人はって思っても、売約済(ばいやくず)みか既婚者(きこんしゃ)ばかり。あたしは高望(たかのぞ)みなんてしてないわ。ごく普通(ふつう)に優(やさ)しくて、普通に真面目(まじめ)で、普通に稼(かせ)いでくれる人でいいの。なのに、何でいないのよ。
 そんな時だった。両親(りょうしん)からお見合(みあ)いの話がもたらされた。お相手(あいて)は申(もう)し分のない人で、それにあたしより二つ年下(としした)。こんな話に飛(と)びつかないなんて、馬鹿(ばか)よ。あたしには時間がないの。リミットは目前にせまっていた。
 見合いの当日。あたしは、朝から妙(みょう)な緊張(きんちょう)に包(つつ)まれていた。じっとしていられなくて、やけに喉(のど)が渇(かわ)くの。見合いの席(せき)につくときも、足が震(ふる)えてつまずきそうになってしまった。座ってからも相手の話なんか耳に入らなくて、ずっと彼の顔を見つめたまま――。きっとあたし、マヌケな顔をしていたかもしれない。最悪(さいあく)なのは、あたしの最初のひとこと。
「結婚してください!」
 この瞬間(しゅんかん)、あたしは、完璧な人生設計が崩(くず)れていく音を聞いた。
<つぶやき>人生はまだまだ長い。この先、きっと良いことが待っているかもしれません。
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0144「恋の道しるべ」

2018-01-21 18:46:49 | ブログ短編

 僕(ぼく)は古本屋(ふるほんや)で買った本の中に手書(てが)きの地図(ちず)を見つけた。たまたま遊(あそ)びに来ていた友人たちにその地図を見せると、宝(たから)の地図じゃないのかと盛(も)り上がった。
「――探そうって言ったて、地名(ちめい)とか書いてないからなぁ。どこの地図か分かんないだろ」
「でも、これ橋(はし)の名前(なまえ)だよな。富士見橋(ふじみばし)って書いてあるぞ」
 みんなはおでこをぶつけるように、地図に見入(みい)った。一人が言った。
「俺(おれ)、知ってるぞ。家の近くにある小さな橋、富士見橋って言うんだって」
 みんなはいっせいに彼を見る。彼は、「ばあちゃんから聞いたんだけど…」
「なあ、この下手(へた)な絵、お地蔵(じぞう)さんだよな」また、みんなは地図に集中(しゅうちゅう)する。
 一人が叫(さけ)んだ。「これって、ほら、あそこの角(かど)にある、あのお地蔵さんじゃないのか」
 みんなは色めき立った。そして、大騒(おおさわ)ぎしながら地図の道(みち)を目印(めじるし)へたどっていった。
 その時、「うるさいぞ」っておじいちゃんがやって来て、地図を見て言った。「これは…」
「おじいちゃん、知ってるの?」僕はうわずった声で、「この古本に挟(はさ)んであったんだ」
「この本は、わしが先週(せんしゅう)、売(う)ったやつだ。こんなとこにあったんだ。これはな、わしが死んだ婆(ばあ)さんに渡(わた)そうと思ってな。婆さんとは一目惚(ひとめぼ)れで、最初(さいしょ)は話もできんかった。だから、わしはここに住んでるって、婆さんに教えたくてな。でも、結局(けっきょく)渡せんかったがなぁ」
<つぶやき>恋する思いを伝えるのは大変なんです。今も昔も、それは変わらないのかも。
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0143「直球娘」

2018-01-20 18:40:45 | ブログ短編

 私は、何でも白黒(しろくろ)はっきりさせないと気がすまない性格(せいかく)だ。いつまでもグズグズと何も決められない人を見ていると、身体(からだ)がムズムズして口を出さずにはいられなくなる。おかげで、私の友だちはごくわずか…。でも、私はまったく気にしない。これが私なんだから。
 そんな私が、不覚(ふかく)にも恋をした。それも一目惚(ひとめぼ)れという、私の中で想像(そうぞう)すら出来(でき)ない状況(じょうきょう)におちいった。彼の前に出ると、いつもの私ではいられなくなってしまうのだ。
 私は、この心のザワザワを解消(かいしょう)すべく、彼に告白(こくはく)することにした。私は彼が現(あらわ)れるのを待(ま)った。彼の行動(こうどう)は把握(はあく)している。もうすぐ来てくれるはずだ。
 いつもの時刻(じこく)にドアが開き、彼がその姿(すがた)を現した。彼はいつもの席(せき)に座(すわ)り、私がそばに行くのを待っている。私は彼の前に水の入ったコップを置(お)く。彼はそこで言うのだ。
「ホットとモンブラン」何のためらいもなく、潔(いさぎよ)いその声に私はうっとりとしてしまう。
 いけないわ。ここよ、ここで言わないと。もうひとりの私が命令(めいれい)する。
「私と付き合って下さい」――言えた、言えたわよ、私。
 私は期待(きたい)を込(こ)めて彼を見つめる。彼はキョトンとして、「えっ、なに?」
「好きだって言ってるのよ。付き合うのか、付き合わないのかハッキリしろよ!」
 次の瞬間(しゅんかん)、私は後悔(こうかい)と恥(は)ずかしさで、顔をまっ赤にして逃(に)げ出した。私のほろ苦(にが)い恋の話――。どういうわけか、その彼は、私の横(よこ)で気持ちよさそうに寝息(ねいき)をたてている。
<つぶやき>彼女の信念(しんねん)はどんな時でも揺(ゆ)らがない。彼はそこに惚(ほ)れたのかもしれません。
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0142「保険の人」

2018-01-18 18:59:00 | ブログ短編

 私は父と二人暮(ぐ)らし。母はずいぶん前に亡(な)くなっている。だからってこともないけど、結婚(けっこん)したいって気にはならなかった。そんな私も、年頃(としごろ)を過(す)ぎてやっと結婚を決めた。
 これを機(き)に、私は父を旅行(りょこう)に誘(さそ)った。父への感謝(かんしゃ)も込めて、二人で楽しい思い出を作ろうと思ったの。でも、父にはちょっと変な癖(くせ)があって、何にでも保険(ほけん)をかけたがるんだ。
 父はすぐに旅行の準備(じゅんび)をはじめた。旅先(たびさき)の地図(ちず)とコンパス。寝袋(ねぶくろ)に大量(たいりょう)の非常食(ひじょうしょく)、それに薬(くすり)の数々。私は唖然(あぜん)とした。一泊(ぱく)二日の温泉(おんせん)旅行なのに、何でこんなに…。父は、旅先は何が起こるかわからんって言って。私は即座(そくざ)に却下(きゃっか)したけど。旅館(りょかん)に着いてからも大変だった。旅の雰囲気(ふんいき)を味(あじ)わうどころじゃないわ。やっと落ち着けたのは食事(しょくじ)のとき。
 父はビールを飲みながら、ぽつりと言った。「本当(ほんとう)に、あの男でいいのか?」
 父は結婚について反対(はんたい)はしなかったので、まさか今になってそんなこと言うなんて。
「ちゃんと、保険はかけてあるんだろうな?」
「保険って…」私はそのままの言葉を受け取って答えた。
「まだ、そんなのいいわよ」
「よくない。ちゃんと彼の代わりを用意(ようい)しておかないと。もし、あの男とダメになっても、キープの男がいれば安心(あんしん)じゃないか」
「そ、そんなのいないわよ。お父さんだって、お母さんのことずっと好きだったんでしょ」
「ああ、ずっと好きだったぞ。でも、お母さんは保険の方だったんだがな」
<つぶやき>娘として、こんな父親どうなんでしょ。でも、きっと良い父親だったのかな。
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0141「自己中娘」

2018-01-17 18:43:07 | ブログ短編

 私にはちょっと変わった友だちがいる。まわりを意識(いしき)しすぎるというか、一緒(いっしょ)にいるととっても疲(つか)れてしまうの。この間(あいだ)も、待ち合わせのオープンカフェで…。
「ねえ、さっきからあの人、あたしをずっと見てるわ」
 私がそっちを見ようとすると、彼女はそれを止めて、
「見ちゃダメよ。こっちが気にしてるって分かったら大変(たいへん)よ」
「でも、それって気のせいよ。きっと…」
「彼だけじゃないわ。ほら、あの人も、こっちの人も、外(そと)を歩いてる人だって、みんなあたしのことジロジロ見つめて…。美(うつく)しすぎるって、ほんと罪(つみ)よね」
 確(たし)かに、彼女は私よりは奇麗(きれい)よ。それは認(みと)めるわ。でも、世の中の男がすべてあなたを見てるわけじゃないわ。私はあきれてしまって、紅茶(こうちゃ)をひとくち口にする。そして、彼女に目を戻(もど)すと…。彼女はしきりに手を振(ふ)っていた。
「なにしてるの?」私は当然(とうぜん)の反応(はんのう)として彼女に訊(き)いた。
「おかしいの…。あそこにいる人、私のこと見ようともしないのよ」
 彼女の目線(めせん)の先(さき)には若い男性。見ないのは当然(とうぜん)よ。だって、本(ほん)を読んでるんだから。
「あの人、どうかしてるわ。ねえ、ちょっと行ってきて。さり気なく、あたしの方を振り向かせるの。だって、本なんかより、あたしの方がずっと見る価値(かち)があるでしょ」
<つぶやき>こんな困(こま)った娘(こ)いるんでしょうか。でも、自分を美しく見せるのは大切(たいせつ)です。
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