みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編創作物語集 頑爺<肇&K>

*森の白い子犬(1)

2020-09-22 | 第7話(森の白い子犬)

箕面の森の小さな物語(NO-7)

<森の白い子犬>(1)

  新緑の季節となり、箕面の森に若葉が溢れる頃 春の<みのおの森のお話し会>が開かれました。 幹事の佐々木 裕子は集まった10数人のメンバーを前に、刷り上ったばかりの小冊子を手渡しています。このお話し会は箕面の森の散策を趣味とする裕子が、元々同好の人たちと森の中での情報交換を目的にしていたもので季節に一回ほど集まりお喋りを楽しんでいて、それはいつしか20数人の集いとなりました。

 やがて年に一度 箕面の森の中でいろいろな出来事話しの中から感動したり、印象に残ったりした事や、それらのエッセー詩や俳句なども含め、それらをまとめて一冊の小冊子にすることになったのです。 今年で5回目となり、その中で最初のページを飾ったのが久保 美咲さんの語った<森の白い子犬>でした。

 

     <森の白い子犬> 久保美咲

  私は幼い頃から父母に連れられ、よく野山を歩いたことから、社会人になっても、時々友達とハイキングに行ったりして山歩きを楽しんでいました。

  彼と初めて出会ったのも、そんなハイキング仲間と共に箕面ビジターセンターのもみじ広場で開かれたバーベキューパーテイがきっかけでした。  彼も友達に連れられて初めて来たようで、お互い紹介された時から何かピン! とくるものを感じていました。 私は "明るくて気持ちの良い青年だわ・・・" と、最初から好印象でした。

 その後 彼のほうから誘ってくれて、いつしか仲間達とは別に二人で山歩きをするようになりました。 彼は子供の頃から山歩きが大好きだったとかで、私の好きな自然観察などにもよく付き合って教えてくれました。

  それから2年後の5月、私たちは多くの友人達の祝福を受けて結婚式を挙げました。 そして後日、ハイキング仲間達があの思い出の、初出会いの<もみじ広場>を予約してくれて、バーベキューパーテイをし祝ってくれました・・ それはそれは楽しい一時でした。

 みんなお腹いっぱいでしばし休憩していると・・ 横を流れる箕面川の清流に、新緑のもみじの葉が映り・・ サラ サラ~ と流れる水面が太陽に反射してキラキラと輝き・・ まるで宝石が流れているような美しさでした。 うっとりと見とれている時、一人の友達が静かに指さした枝の上に、尾の長い鳥 サンコウチョウがいるではありませんか・・ 目元が鮮やかな水色でお腹は白,尾にかけては黒毛でしたがそれは綺麗で優雅な姿でした。 また、カワセミが川の魚にねらいを定めじ~ として枝の上から川面をにらんで狩をしている姿もあって まさに自然満喫の世界でした。

 

  一年後、長男の 葉留樹(はるき)が誕生しました。 私たちはヨチヨチ歩きのはるちゃんを連れて、思い出の箕面の山野をよく歩きました。

 はるちゃんは夫の背負いラックに後ろ向きに乗り、後ろを歩く私の顔を見ながら キャ キャ・・ ととっても喜んでいます。 森の中を きょろきょろして何に興味があるのか?  いつも楽しそうでした。

 山を登る時も下る時も 夫はよく よいしょ! と、掛け声をかける癖があり、そのリズムがいいのか? はるちゃんはそれを聞くと、いつも夫の背中で ケラ ケラ とよく笑うのでした。

  ある日、天上ケ岳でお弁当を広げていると、子連れのお猿さんがやってきて・・ それを見た はるちゃんは哺乳瓶を片手に・・ それをお猿さんにあげようとしたのか トコ トコ と近づいていった時はさすがに私もあわて追いかけましたが・・ はるちゃんはおさるさんが大好きでしたから一緒に遊びたかったのでしょう。

  はるちゃんは幼い頃から、野や山の花が大好きで、よく背負いラックの上からも花を見つけては指をさし・・「は な・・」と言ってました。 森の中で鳥を見つけると チュン チュン・・! と、ゆびさしています。 無垢な幼い子供は親の影響をこんなにもすぐに受けるんだな・・ と、夫は言っていましたが、本当にはるちゃんは親に似て自然が大好きのようでした。

  夏のある日、夫が終日仕事でいなかったので、はるちゃんと二人で箕面の森にでかけ、瀧道を下り姫岩のある川辺で遊んでいた時、石の下にいたサワガニを はるちゃんが見つけて・・ 初めてみる動くサワガニに興味津々! それが面白かったのか、それから川辺も大好きになり、しばらくは服がぼとぼとになるまで川遊びをするので、着替えを何組も持っていったほどでした。

  秋になると 森の広場(Expo‘90 みのお記念の森)に三人で出かけました。 よちよち歩きのはるちゃんは「男同士で遊ぶか・・」と言う夫とボール遊びをしています。 鬼ごっこをしたり・・ 二人でキャー キャーいいながら楽しそうです。 私はもうすぐ来る寒い冬に備え、はるちゃんの襟巻きを編みながら・・ なんて幸せ・・ と なんども 小さく言葉に出してかみしめていました。 それはそれは 幸せで楽しい日々 でした。

  やがて秋の紅葉が過ぎ、寒い冬がやってきました。 森は落葉がさかんになり、鳥達が木の枝から飛び立つたびに木の葉のシャワーのように枯葉が舞い落ち、 あっという間に森が明るくなりました。 冷たい北風が吹いても はるちゃんは野山にいました。 し~んとした森の中で一休みしている時、リスを見つけたのは はるちゃんでした。

 雪の日に<教学の森>で野ウサギを見つけ、指さしたのもはるちゃんでした。 冬の森にはたくさんの小鳥達がいますが はるちゃんは私たちより見つけるのが早いのです。 春を待つ木々の芽はまだ固いのですが、でも 山つつじのつぼみの先が早くも明るい緑色になってきて・・ それを はるちゃんに見せながら・・ 「もうすぐね ここからきれいな おはながさいてくるのよ・・」と、教えてあげるとウン!と嬉しそうにうなずいています。

  4月初めから中旬になれば、森はコバノミツバツツジやヤマツツジで一気に華やかになります。「今度ここに来る時は満開の頃にしようか・・ はるちゃんがヤマツツジを忘れないうちにね・・」と夫。 「そうね! もうすぐだね・・ またお弁当を持って三人でこようね・・」

 そしてその時、それが 三人で森を散策する最後の日になろうとは・・ まさかまさか夢にも思わないことでした。  

(2) へ続く・・・ 



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