JR九州は、『ななつ星』を始め各種観光列車が、実に充実している。
とは言いながら、私も私の家族も、一度もこれに乗ったことがない。
そんな訳で、盆休みの12日は、観光列車日帰り旅行である。
列車そのものが旅の主題とは、いったい、いかなるものであろうか。
先ずは、久留米駅へ。
これが鹿児島までの乗り継ぎの切符である。
タダでさえ、最近無くし物が多い私である。
それどころか実際、東京からの帰りの新幹線の切符を無くして、ベソをかいた事があるくらいだ。
厳重にバッグに保管した事は言うまでもない。
800系車両のさくらが、音もなくホームに滑ってきた。
さあ、乗るぞ。
ヒューーーン
乗車したと思ったら、
もう熊本である。
在来線ホームへ移動。
ここからが観光列車の旅の始まりである。
そして、
いきなり、クライマックスが訪れる。
SL人吉号である。
ホームへの侵入は、ディーゼル機関車を最後尾に連結させて、後ろ向きで入ってくるようだ。
今現在、切り離し作業が行われていた。
一番前へ行ってみよう。
これだもの。
私自身、朧気ながら覚えているSLの記憶は、
祖父に連れられて、兄たちと一緒に久大線で浮羽まで行った60年前まで遡る。
シュッ、シュッという息遣いにも似た蒸気音。
正しくSLは、生きているのだ。
機関車の後ろは、山積みの石炭。
ホームの屋根は煤で真っ黒である。
昔ながらの制服に身を包んだ機関士。
これは、石炭を窯に放り込んでいるところだ。
窯付近は60℃にもなるそうである。
テーブルに思い思いのスナック菓子や飲み物を広げる娘達。
列車旅行の楽しみの一つである。
そうは言っても、新幹線に比べると格段に揺れるし、
窓側の席に座っていると、断熱の悪い壁からの放射熱ですこぶる暑い。
あまつさえ、窓からは、ほんのり煤煙の匂いまで漂ってくる。
決して乗り心地が良いものではないが、
『おや、そうかい?悪かったねえ。でも昔はみんなこうだったのさ。これでもエアコンが付くようになっただけマシってもんさ、坊や。』
なんて声が聞こえてきそうだ。
何しろ彼女(SL人吉号)は、御歳96歳の大年増なのだ。
客車一番前と最後尾には、展望デッキが備えられている。
ボーーー
汽笛一声出発だ。
そう言えば、画像を取り忘れている。
この旅の間、どの駅のホームでも、駅員はもちろん一般客からも、或いはその時々の沿道の住民からも、手を振って見送られ続けた情景を。
単純なことだが、これが案外と嬉しいものなのだ。
車窓から、腱鞘炎になるほど(←嘘だ)手を振り返したのは言うまでもない。
売店。
この列車ならではの、ビールやおつまみが人気で長蛇の列である。
最後尾の展望車。
最初の駅、八代到着。
同じく観光列車のヤマセミ・カワセミ号が、向かいのホームに停車している。
あとでこの列車とは、SL人吉の終着駅である人吉駅で合流する。
白石駅
木造のレトロな駅舎である。
このように、停車駅では5分から10分の停車時間が設けられている。
その間乗客たちは、思い思いに機関車や駅舎を見学する。
出発の合図は、アテンダントのお姉さんが振るチリンチリンの鐘の音だ。
機関士を見ていると、凄まじい高温の環境にもかかわらず、それほど汗をかいているようには見えない。
慣れとは大したもんである。
アテンダントのお姉さん達は大忙しだ。
車内販売、名所等の車内アナウンスは勿論、
駅々では機関士たちに飲み物の差し入れ、乗客たちへの撮影サービス等、誠に目まぐるしい。
一勝地駅
その名から、受験生たちのゲン担ぎで人気だそうである。
煤煙たなびく駅舎。
終着駅の人吉駅
ここで1時間ほど、次の列車まで待ち時間がある。
駅前の喫茶店で時間を潰し、駅まで戻ってくると、すでにSL人吉号はホームから去っていて、
今や日本で唯一となった石造りの車庫で骨を休めていた。
この後、機関車だけ切り離し、転車台で機関車を180度方向返還した後、この車庫の反対側で客車と連結。
再び駅のホームにバックで戻って来て、熊本に向けて出発するのだそうである。
駅弁の売り子がいるホームは、今や珍しいのだそうだ。
名物の鮎寿司を購入。
これは、人吉駅ならではの観光列車のコラボである。
右がこれから乗る『いさぶろう・しんぺい号』
左は先ほど八代ですれ違った『かわせみ・やませみ号』である。
時間になった。
これから『いさぶろう・しんぺい号』に乗り込む。
後半へ続く。