前回の投稿から、
時間の針を、船が相島に着岸した辺りに巻き戻したい。
桟橋を渡ると、調理服の女性から、チラシを渡された。
そこには《洋風食堂うみ》と書かれてある。
「この雨で、猫も雨宿りしてるだろうしな。先に飯食って、小止みになるのを待つか。」
「しゃあ、そのチラシのところでいいんじゃない。」
チラシに書かれた手書きの地図を頼りに、曲がりくねった路地を抜けると、
小さな畑の傍らに、雨に濡れた控えめな看板と、メニューボードを見つけた。
ここから高台の方へ曲がるようだ。
石段がある。
こんな場所にレストラン?
首を傾げながら、手前の廃屋の裏を回り込むように登って行くと、
古びた民家の玄関に掛けてある、《洋風食堂うみ》と書かれた暖簾が、目に飛び込んできた。
え、ここ?
あまりに意外な展開に暖簾の前に佇んでいると、家の中から声が聞こえてきた。
「どうぞー。」
「あ、はい。」
古い民家にありがちな、極々普通のお座敷に通された。
座敷には幾つかのこたつが置かれている。
「どうぞ、お好きなこたつへ。」
「あ、はい。」
いいじゃないか。
気に入った。
「アコヤ貝?へー、これって?」
「真珠が島の特産なんですよ。タラコのパスタに、真珠を取った後の貝柱を乗せたヤツですね。」
「あ、じゃあそれにする。」
「お待たせしました。」
アコヤ貝の貝柱は、マリネしただけの生のまま。
へえー、面白い。
もぐ。
あ、いいじゃん。
コリコリだ。
ホタテなんかより、ずっと歯応えがある。
うめえぞ、これ。
もぐもぐ食べていると、ご主人がやって来て色々と話をしてくれた。
島には移住してきた事。
この古民家で営業して、一年になる事。
前の持ち主から数えれば、自分が4代目の所有者である事。
「場所が分りづらいって、よく言われますけどね。」
「それは、激しく同意する。善処して下さい。」
そして、アコヤ貝は捨てるところがなく、やたらと効率的な事。
「そりゃそうだ。真珠をとったお残りまで、お金になるんだもんね。」
「あ、そうだ。ちょっと待って下さいよ。」
「???」
席を立って何やら探しに行くオーナー。
「ほら、ごくたまに取り残した真珠が入ってたりします。」
「まじか!」
外を見れば、もうすぐ雨も止みそうだ。
「そんじゃ、そろそろ。美味しゅうございました。」
「有り難うございました。またどうぞ。」
この後、前回投稿の、
この茶トラに出会うシーンへと繋がっていく。
真珠のパスタ、ご馳走様でした。