今頃何だと言う話だが、
先日の、普賢岳登山の日まで遡りたい。
山登りの汗を流そうと、私は雲仙温泉郷に向かった。
目当ての温泉は、一年前に立ち寄った事のある、新湯共同浴場(100円)だ。
入浴料は誰でも100円である。
温泉の施設としては、朴訥といってもいい程、古く、且つ質素極まるものだ。
だが、
「それがどうした」である。
源泉かけ流し、白濁した硫黄泉が実に良いのだ。
町営の駐車場に車を止め、駐車料金を支払おうと、事務所の窓を開けると、
「観光ですか?え、これから新湯温泉館?あらら、今日は休みですよ。」(駐車場管理人)
「ありゃ、そうですか。弱ったな。どっかお勧めの温泉ありますか。」(私)
「小地獄温泉なんかどうでしょう。ちょっと、解りにくいかもしれませんが。」
雲仙温泉の観光地図を広げて、場所の説明を受けていると、品のよさそうな老夫婦が、
「ご案内しましょうか?私達の車に着いてきて下さい。」
「え、本当ですか!!あざっす。お願いします。」
渡りに船とはこの事だ。
管理人が言うお勧めの温泉に、これから丁度向かう人と出会うとは。
・・・と、この時は思っていた。
「ここが良いです。そこの丸登屋さんです。それじゃあ、私達は戻りますから。」
「え、戻るって!?わざわざ、私に教えるためだけに、ここまで先導してくれたんですか。うわー、申し訳ありません。」
この場を借りて、もう一度お礼を言いたい。
何処のどなたか存じ上げませんが、その節はどうも有難うございました。
駐車場の管理人が勧めた、小地獄温泉館(共同浴場)とは違うが、地元の老夫婦が勧める温泉なのだ。
どうやら、立ち寄り湯に入れる温泉旅館のようだ。
「ごめんくださーい。」
「はーい、いらっしゃいませ。」
料金は300円。
女将が自らお風呂へ案内してくれる。
中を覗くと、誰もいない。
しめしめ。貸し切りの独泉じゃないか。
狭く古い湯船。
使い込まれた洗い場と継ぎはぎされたタイル。
温度が中々上がらないシャワーでさえ、寧ろその古さが好ましい。
湯の華が浮く、ちょいと熱めの白濁湯に、ゆっくりと身体を沈める。
!!
イテテテ
いくら柔らかい湯でも、国見岳で拵えたばっかりの、向う脛の擦り傷には堪える。
なるほど、地元民が勧めるだけあって、いい湯だ。
風呂上がり。
壁に明治期から昭和初期までの、この界隈の写真(画像は撮り忘れた)が掛けられている。
何気なくそれを見ていると、女将さんが奥から出てきて、一つ一つ説明してくれた。
「この写真は、明治初期に建てられた下田ホテルという洋式ホテルです。当時のうちは、ほらここにあります。案外、うちも立派だったでしょうが。」
「因みにうちには、あの吉田松陰先生も、お泊りになった事があるとですよ。」
松陰先生と来た。
尊王攘夷や黒船の話にまで発展しかねないぞ。
適当な所で、話の腰を折る必要があるようだ。
「え? あ、そうですか。それじゃあ、またどうぞ。」
無事脱出に成功した。
私の旅はと言えば、イコール車中泊と言ってい。
しかし、
たまには、こんな鄙びた旅館で、のんびり浴衣姿で過ごすのもいいな。