VAIO、東芝、富士通がPC事業統合と報道――
なぜ日本のパソコンメーカーがダメになったのか
ZUU Online
2015年12月15日 08時13分 (2015年12月15日 22時13分 更新)
VAIO、東芝、富士通がPC事業統合と報道――
なぜ日本のパソコンメーカーがダメになったのか(写真=HPより)
(ZUU online 編集部)
[拡大写真]
ソニーから独立したVAIOと東芝、富士通の3社が
パソコン事業を統合する検討に入ったと報道された。
実現すれば、国内のパソコン市場でシェアが3割を超え、
NECレノボグループを上回り、国内首位となるのだが、
とはいえ、日本のPCメーカーは世界では完全に第2集団になってしまった。
2015年7-9月のIDCの世界のPC出荷統計では、
日本メーカーは1社たりとも6位までに入っておらず、
「その他」にくくられてしまっている。
シェアトップの中国レノボが21.2%、2位の米ヒューレット・パッカード(HP)が19.7%、
3位の米デルが14.3%、4位の米アップルが8.1%、
5位の台湾エイサーが7.3%の市場シェア。
上位5社で世界の70.6%を占めている。
仮に3社合併で新日の丸PCカンパニーが誕生したとしても
エイサーを上回るかどうかといったところだ。
なぜ日本のPCメーカーの地位はここまで落ちてしまったのだろうか。
■PCメーカーがガラパゴス化した理由
PCメーカーについて考える前に注目したいのが、
携帯電話メーカーだ。日本のそれは
ガラパゴス化で絶滅の危機だ。
国内マーケットで収益を上げられていたので、
世界のスタンダードを無視して、
日本独自の発展をとげていた。
気がついた時には世界から取り残されていた。
そしてパソコンも同様だ。
日本で売れていたので、本気で
世界のマーケットを相手にしたり、
外国に工場を建設したりする必要がなかった。
国内PC市場の大半を占めるのは法人需要だ。
価格やスペックで勝負するよりも、
営業力とトータルソリューションといった日本独自のスタイルで
法人需要を喚起していた。
今は、品質のみならずスペックと
値段が重視されるグローバル競争の時代に入っている。
以前は個人ユーザーは、海外メーカーと同じスペックで
値段が3~4割高くても、信頼できる国産メーカーを選んでいたが、
いまだにマイクロソフトOfficeどアプリが
たっぷりインストールされているパソコンを売っているのは
日本だけである。日本メーカーは、
独特な機能やソフトをバンドルすることで差別化をはかった。
携帯電話で陥った“わな”と似ている。
現在のパソコンは、部品を組み立てる商品だ。
Appleも工場をもたず、日本や韓国、
台湾などから優秀な部品を調達、製造を
中国や台湾に委託しているファブレス(自社で生産設備を持たない)企業だ。
自動車産業も同じだ。トヨタ、日産、本田などの自動車会社で
自社生産しているのはエンジンぐらい。…
ほとんどは部品を調達して組み立てている。
組み立て商品では、スペックや価格で
差別化をはかるのは難しい、Appleやトヨタのように
生活を変える商品をだすか、グローバルな規模で
勝負するかどちらかでないと生き残れない。
台湾メーカーが、中国での生産体制を確立し、
優秀な部品のサプライチェーンを確立する事で
品質と価格において世界でのプレゼンスを拡大していったのは、
日本メーカーとは対照的だ。
■NEC、富士通、東芝、ソニー……日本メーカー栄光と激動の90年代後半
NECがかつて日本で強かったのは、
当時の海外メーカーのPCでは日本語表示に問題があったからだ。
1990年以降のDOS/V、日本語版Windowsの登場で、
国内メーカーの優位さがなくなってしまった。
NECも富士通も日本でのPC普及期に置いては
大きな役割を果たした。ただDOS/V以降は、
グローバルメーカーとの競合が始まった。
NEC、富士通が国内では圧倒的に強かったので、
東芝はラップトップ型PCで世界市場を切り開く事に注力した。
ノートPCでは、1994年から2000年まで
世界シェア7年連続1位を獲得していた。
ソニーは後発ではあったが、AVとの融合で
先進的なVAIOブランドPCを発売したのが1996年。
そのスペックと品質で熱狂的な支持者を集めていた。
スティーブ・ジョブズもソニーのファンだったことは有名だ。
当時は、AppleとソニーのVAIOだけが
米国で専門のストアを展開していたほどのブランド力があった。
ちょうどソニーがVAIOを出した1996年、
経営が煮詰まっていたアップルに
創業者のスティーブ・ジョブズは復帰した。
製品ラインを絞り、多くの事業と
工場を売却する大リストラを完工したのが1997年だった。
Appleが、生活を変える商品を出し始めたのはその頃からだ。
一方、VAIOはシェア拡大路線で普通のモデルを発売し始め、
VAIOらしさが失われ始めた。
NECは1996年に米パッカードベル社と海外におけるパソコン事業を統合した。
これも海外化をすすめるチャンスではあった。
その挑戦はうまくいかなかった。
パッカードベルNECは2000年には米国から撤退。
NECのPC事業は2011年に
レノボと事業統合することになる。
1990年代に、日本のPCメーカーもどこかで
ビジネスモデルを見直していれば、
アップルやレノボになるチャンスはあったのだ。
■現在の世界のPCメーカーの状況
IDCの2015年7-9月の統計では、
7-9月のPC出荷は、世界で7070万台。…
4-6月比では8.6%増だが、
前年同期比では11.1%減となっている。
世界景気のスローダウンから世界のPC在庫は高水準となっており、
前年同期比で増加しているのはアップルだけだ。
IDCの予測によると2015年の年間出荷台数は2億8,160万台となり、
前年から8.7%減少する見通し。
2016年も、世界経済のスローダウン懸念やWindows10の
無料アップグレード期間であり、
新モデルも不足することから、マイナス成長を見込んでいる。
パイが縮小する中で、PCメーカーは合併を繰り返しながら、
競争を激化させている。レノボは、
2004年にIBMからPC事業を買収。
当初は、デル、HPに次ぐ世界3位だったが、
2013年に世界一になった。
現在2位のHPは、2002年にコンパックを買収した。
そのコンパックは、
1998年にDEC(ディジタル・イクイップメント・コーポレーション)
を買収していた。5位のエイサーは、
2007年に、ゲートウェイを買収し、
その後NECと別れたパッカードベルも買収。
グローバルな足がかりを築いた。
レノボの2015年7-9月決算を見てみよう。
同社はPC事業部と米モトローラを買収した
モバイル事業部から成り立っている。
PC事業部の、PC出荷台数は1500万台と5.5%の減少だが、
市場全体の11.1%減をアウトパフォームしている。
税引き前利益は17%減の4億600万米ドル。
為替の変動により欧州・中東・アフリカおよび
ブラジルでの需要が低迷しているが、
税引き前利益率5%と比較的安定しており、
レノボ全体の業績を支えている。
新日の丸PCカンパニーが世界でプレゼンスを発揮するためには、
単なる合併だけでは足りない。
世界を見据えたマネージメント、
日本ならではの魅力あるラインアップが期待される。
平田 和生氏
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で
日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。
ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。
日本株トップセールストレーダーとして、
鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、
ヘッジファンドから高評価を得た。
現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。
http://www.excite.co.jp/News/economy_g/20151215/zuuonline_91431.html
なぜ日本のパソコンメーカーがダメになったのか
ZUU Online
2015年12月15日 08時13分 (2015年12月15日 22時13分 更新)
VAIO、東芝、富士通がPC事業統合と報道――
なぜ日本のパソコンメーカーがダメになったのか(写真=HPより)
(ZUU online 編集部)
[拡大写真]
ソニーから独立したVAIOと東芝、富士通の3社が
パソコン事業を統合する検討に入ったと報道された。
実現すれば、国内のパソコン市場でシェアが3割を超え、
NECレノボグループを上回り、国内首位となるのだが、
とはいえ、日本のPCメーカーは世界では完全に第2集団になってしまった。
2015年7-9月のIDCの世界のPC出荷統計では、
日本メーカーは1社たりとも6位までに入っておらず、
「その他」にくくられてしまっている。
シェアトップの中国レノボが21.2%、2位の米ヒューレット・パッカード(HP)が19.7%、
3位の米デルが14.3%、4位の米アップルが8.1%、
5位の台湾エイサーが7.3%の市場シェア。
上位5社で世界の70.6%を占めている。
仮に3社合併で新日の丸PCカンパニーが誕生したとしても
エイサーを上回るかどうかといったところだ。
なぜ日本のPCメーカーの地位はここまで落ちてしまったのだろうか。
■PCメーカーがガラパゴス化した理由
PCメーカーについて考える前に注目したいのが、
携帯電話メーカーだ。日本のそれは
ガラパゴス化で絶滅の危機だ。
国内マーケットで収益を上げられていたので、
世界のスタンダードを無視して、
日本独自の発展をとげていた。
気がついた時には世界から取り残されていた。
そしてパソコンも同様だ。
日本で売れていたので、本気で
世界のマーケットを相手にしたり、
外国に工場を建設したりする必要がなかった。
国内PC市場の大半を占めるのは法人需要だ。
価格やスペックで勝負するよりも、
営業力とトータルソリューションといった日本独自のスタイルで
法人需要を喚起していた。
今は、品質のみならずスペックと
値段が重視されるグローバル競争の時代に入っている。
以前は個人ユーザーは、海外メーカーと同じスペックで
値段が3~4割高くても、信頼できる国産メーカーを選んでいたが、
いまだにマイクロソフトOfficeどアプリが
たっぷりインストールされているパソコンを売っているのは
日本だけである。日本メーカーは、
独特な機能やソフトをバンドルすることで差別化をはかった。
携帯電話で陥った“わな”と似ている。
現在のパソコンは、部品を組み立てる商品だ。
Appleも工場をもたず、日本や韓国、
台湾などから優秀な部品を調達、製造を
中国や台湾に委託しているファブレス(自社で生産設備を持たない)企業だ。
自動車産業も同じだ。トヨタ、日産、本田などの自動車会社で
自社生産しているのはエンジンぐらい。…
ほとんどは部品を調達して組み立てている。
組み立て商品では、スペックや価格で
差別化をはかるのは難しい、Appleやトヨタのように
生活を変える商品をだすか、グローバルな規模で
勝負するかどちらかでないと生き残れない。
台湾メーカーが、中国での生産体制を確立し、
優秀な部品のサプライチェーンを確立する事で
品質と価格において世界でのプレゼンスを拡大していったのは、
日本メーカーとは対照的だ。
■NEC、富士通、東芝、ソニー……日本メーカー栄光と激動の90年代後半
NECがかつて日本で強かったのは、
当時の海外メーカーのPCでは日本語表示に問題があったからだ。
1990年以降のDOS/V、日本語版Windowsの登場で、
国内メーカーの優位さがなくなってしまった。
NECも富士通も日本でのPC普及期に置いては
大きな役割を果たした。ただDOS/V以降は、
グローバルメーカーとの競合が始まった。
NEC、富士通が国内では圧倒的に強かったので、
東芝はラップトップ型PCで世界市場を切り開く事に注力した。
ノートPCでは、1994年から2000年まで
世界シェア7年連続1位を獲得していた。
ソニーは後発ではあったが、AVとの融合で
先進的なVAIOブランドPCを発売したのが1996年。
そのスペックと品質で熱狂的な支持者を集めていた。
スティーブ・ジョブズもソニーのファンだったことは有名だ。
当時は、AppleとソニーのVAIOだけが
米国で専門のストアを展開していたほどのブランド力があった。
ちょうどソニーがVAIOを出した1996年、
経営が煮詰まっていたアップルに
創業者のスティーブ・ジョブズは復帰した。
製品ラインを絞り、多くの事業と
工場を売却する大リストラを完工したのが1997年だった。
Appleが、生活を変える商品を出し始めたのはその頃からだ。
一方、VAIOはシェア拡大路線で普通のモデルを発売し始め、
VAIOらしさが失われ始めた。
NECは1996年に米パッカードベル社と海外におけるパソコン事業を統合した。
これも海外化をすすめるチャンスではあった。
その挑戦はうまくいかなかった。
パッカードベルNECは2000年には米国から撤退。
NECのPC事業は2011年に
レノボと事業統合することになる。
1990年代に、日本のPCメーカーもどこかで
ビジネスモデルを見直していれば、
アップルやレノボになるチャンスはあったのだ。
■現在の世界のPCメーカーの状況
IDCの2015年7-9月の統計では、
7-9月のPC出荷は、世界で7070万台。…
4-6月比では8.6%増だが、
前年同期比では11.1%減となっている。
世界景気のスローダウンから世界のPC在庫は高水準となっており、
前年同期比で増加しているのはアップルだけだ。
IDCの予測によると2015年の年間出荷台数は2億8,160万台となり、
前年から8.7%減少する見通し。
2016年も、世界経済のスローダウン懸念やWindows10の
無料アップグレード期間であり、
新モデルも不足することから、マイナス成長を見込んでいる。
パイが縮小する中で、PCメーカーは合併を繰り返しながら、
競争を激化させている。レノボは、
2004年にIBMからPC事業を買収。
当初は、デル、HPに次ぐ世界3位だったが、
2013年に世界一になった。
現在2位のHPは、2002年にコンパックを買収した。
そのコンパックは、
1998年にDEC(ディジタル・イクイップメント・コーポレーション)
を買収していた。5位のエイサーは、
2007年に、ゲートウェイを買収し、
その後NECと別れたパッカードベルも買収。
グローバルな足がかりを築いた。
レノボの2015年7-9月決算を見てみよう。
同社はPC事業部と米モトローラを買収した
モバイル事業部から成り立っている。
PC事業部の、PC出荷台数は1500万台と5.5%の減少だが、
市場全体の11.1%減をアウトパフォームしている。
税引き前利益は17%減の4億600万米ドル。
為替の変動により欧州・中東・アフリカおよび
ブラジルでの需要が低迷しているが、
税引き前利益率5%と比較的安定しており、
レノボ全体の業績を支えている。
新日の丸PCカンパニーが世界でプレゼンスを発揮するためには、
単なる合併だけでは足りない。
世界を見据えたマネージメント、
日本ならではの魅力あるラインアップが期待される。
平田 和生氏
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で
日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。
ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。
日本株トップセールストレーダーとして、
鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、
ヘッジファンドから高評価を得た。
現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。
http://www.excite.co.jp/News/economy_g/20151215/zuuonline_91431.html